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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

機能性表示食品、最大の課題は品質保証だ〜合田幸広・国立医薬品食品衛生研究所薬品部長インタビュー

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2015年12月7日

 「機能性表示食品」は12月4日現在、計158製品が届出を済ませ、情報が消費者庁のウェブサイトで公表されている(うち2製品は届出撤回)。FOOCOMでは、ウェブサイトで解説したり、安全性や機能性について消費者庁へ疑義情報を提出したりするなどしてきた。取材を続けて今、最大の課題ととらえているのは、品質保証の弱さだ。根拠資料と同等の成分が同量、製品に含まれているのか、製品はすべてのロットにおいて同じように安定生産されているのか、はっきりしない。安全性や機能性を論じる大前提は、一定レベルの品質保証が行われていること。だが、その根幹が危ういことが、はっきりしてきた。

 制度の方向性を決めた「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会」で、品質保証の問題を鋭く指摘していたのが国立医薬品食品衛生研究所の合田幸広・薬品部長だ。合田部長が検討会に出した資料を読むと、まさに現在の事態を予見していた、というふうに見える。合田部長は、どのように制度を見ているのか? 話を聞いた。

分析法が公開されず、第三者が検証できない

合田幸広・国立医薬品食品衛生研究所薬品部長 東京大学薬学部薬学科卒業,東京大学大学院薬学系研究科薬学専門課程博士課程を1985年に修了、薬学博士。86年に国立衛生試験所(現国立医薬品食品衛生研究所)に入所し、現在に至る。東京農工大学工学部客員教授、名古屋市立大学薬学部客員教授も務める

合田幸広・国立医薬品食品衛生研究所薬品部長
東京大学薬学部薬学科卒業,東京大学大学院薬学系研究科薬学専門課程博士課程を1985年に修了、薬学博士。86年に国立衛生試験所(現国立医薬品食品衛生研究所)に入所し、現在に至る。東京農工大学工学部客員教授、名古屋市立大学薬学部客員教授も務める

松永 まず、現在の制度への感想をお聞かせください。
合田 もっとも重要な問題は、各製品の機能性関与成分の分析法が公開されていないことだと思います。品質管理が適正に行われているのか、機能性関与成分が表示されている量、含まれているのか。第三者が分析できないことには確認できない。追試ができない。検討会の時点では品質について、「製品が市販された後に分析をして、表示しているものと違っていたら食品表示法違反とする」というようなシステムを運用することで品質を担保する、と私は理解していました。ところが、制度ができてみたら、分析法が公開されていない。品質保証の細かい点も公開されていません。ここが問題だ、ということは消費者庁にも伝えました。

 表示は分析法と裏表の関係です。遺伝子組換え食品は、分析法が確立されていて含まれるかどうか科学的に判別できるから、販売する事業者がウソを言っているかどうか確認できるのです。食品の世界は、性善説で動くもの。たまに検査をして「ウソがあったらしっかり罰しましょう」という考え方です。その分析ができないのです。審査がなく、第三者が分析もできないのでは、本当に不正直な人はいくらでもごまかすことができますよ。

 

松永 特定保健用食品(トクホ)のように、製品ごとの審査がないのだから、第三者が厳しく目を光らせる必要があるのに、できないのが実態ですね。
合田 トクホは、審査の段階で結構細かく、事業者にこのようにして品質保証しなさい、と伝えているのです。私の場合、トクホの審査を15年程度しましたが、たとえばある植物を原材料とした製品の場合には、「同じ農場で栽培された同じ植物を使ってください」というふうに伝えました。同じ品種で、同じ栽培条件で基原植物を得て、その後の製造加工法もしっかりと決めてその通りに製造することで、品質保証を行ってもらう。今の消費者庁での審査は経験がないので判りませんが、厚労省で審査していた頃は、そういう眼がトクホに入っていたのです。

 

いわゆる健康食品は、品質問題が山積み

松永 機能性表示食品の場合、届出書類を見ても、そのような詳細が書かれておらず、でも、「品質保証はしっかりと行っています」という体裁だけが整えられているのが多い、という印象です。本当なのかどうか、科学的にそれを確かめる術がない。機能性表示食品を疑いたくはないのですが、いわゆる健康食品業界はこれまで、品質においてさまざまな問題が露呈してきた経緯があります。その同じ業界が、機能性表示食品については、ウソ偽りなく、製造販売してくれるのかどうか……。

図1 (a)はサメ由来のコンドロイチン硫酸塩、(b)は哺乳類由来のコンドロイチン硫酸塩。(c)の製品は箱にサメの絵が描かれ、 (d)の製品はサメ由来と表示されており、(a)のスペクトラムの形状と近くなるべきもの。だが、(b)の形とよく似ている。箱の絵や表示と異なり、哺乳類由来のコンドロイチン硫酸塩が相当量入っているとみられる 出典:1)

図1 (a)はサメ由来のコンドロイチン硫酸塩、(b)は哺乳類由来のコンドロイチン硫酸塩。(c)の製品は箱にサメの絵が描かれ、 (d)の製品はサメ由来と表示されており、(a)のスペクトラムの形状と近くなるべきもの。だが、(b)の形とよく似ている。箱の絵や表示と異なり、哺乳類由来のコンドロイチン硫酸塩が相当量入っているとみられる 出典:1)

合田 いわゆる健康食品においては、間違った基原の天然物、たとえば「種」(しゅ)が異なったり部位が違うなどの原材料を用いた製品が、かなりの頻度で見つかっています。たとえば、市販のコンドロイチン硫酸塩の製品12品を調べたところ、9製品はパッケージにサメ由来と表示されていたのに、そのうちの2品には哺乳類由来のコンドロイチン硫酸塩が含まれていました。残り3製品も、哺乳類由来と考えられました。これは、2007年に論文1)として発表しています。鮫由来か哺乳類由来かで、構成成分の構造が異なりますから、有効性、安全性共に違う、と考えなければなりません。

松永 最近も、ブラックコホシュという「女性の更年期障害を改善したり骨粗鬆症を予防する」と伝えられるハーブの遺伝子分析や化学分析の結果を、論文で発表しておられます。
合田 日本で、ブラックコホシュとして売られる製品を調べたところ、Cimicifuga racemosaという種であるべきなのに、Cimicifuga dahuricaCimicifuga foetidaが間違って基原として使われたものが高い割合でありました。私たちの研究グループは、それを判別する分析法を作り、検証しています。2)3)

 

松永 違うということを科学的根拠を持って示すために、まずは分析法をきちんと確立し、そのうえで製品分析をされた。研究に、かなりの時間をかけられたことでしょう。本来、企業が責任を持ってCimicifuga racemosaを原材料として品質保証を行うべきなのに、それがなされていない実態がある。そのことを第三者が指摘するのがどれほど大変なのか、論文を読んでよくわかりました。このご苦労があるからこそ、機能性表示食品においても、「分析法が公開されていない」ということを問題視せざるを得ない、ということですね。

合田 2005年からさまざまな健康食品10品目102製品を分析した結果、基原の正しい製品は68しかなく、33%の製品は間違っていました。採取や受け渡しなどの際に植物を間違ってしまうという非意図的な間違いもありますが、意図的な間違いも存在します。ビルベリーやイチョウ葉なども分析していますが、エキスがほとんど入っていなかったり他の植物エキスが入っていたりする製品もありました。製品が錠剤、カプセル剤等の形状をしていると,消費者は偽物を全く見分けることかてきません。

表1 日本薬局方に則って15製品の崩壊性試験を行った。崩壊までに要してよい時間は剤型によって異なる。各製品は6サンプルを調べ、結果を判断した。出典:4) 表を日本語に訳し一部を省略

表1 日本薬局方に則って15製品の崩壊性試験を行った。崩壊までに要してよい時間は剤型によって異なる。各製品は6サンプルを調べ、結果を判断した。出典:4) 表を日本語に訳し一部を省略

 崩壊性が著しく低いものもあります。イチョウ葉製品15の崩壊性を調べたところ、ドイツで医薬品として売られている5製品は、日本薬局方で定められた崩壊時間内に崩壊しました。ところが、日本で市販されている10製品は、5製品しかクリアできませんでした。ほとんど崩壊せず、ただ、体のなかを通り抜けて出て行くだけ、というような製品すらありました。通り抜けるから、効き目もないが、安全性にも問題がない、とも言えますが。4)

松永 崩壊性が低い、と指摘されたメーカーの中には、「医薬品では認可されている賦形剤が、食品添加物としては認可されていないので使えない。だから、医薬品並の崩壊性を維持できない」と主張するところがあります。食品添加物として厚労省に申請し、食品安全委員会等の評価を経て指定を受けたうえで使えばいいと思うのですが、健康食品メーカーはそこまではしない。どうも釈然としません。もちろん、ロットごとに崩壊性が異なるような製品は、論外です。

合田 賞味期限内なのに変質してしまう、というものも多くあります。カプセルの中に顆粒状で入っているべきなのに、ベトベトに固まっていたりするのです。医薬品と同じような名称とパッケージであっても、中身も品質もまったく違うという健康食品があります。

 

機能性を表示する以上、高いレベルの品質保証が必要

松永 どうもこれまでの経緯から、いわゆる健康食品を製造販売してきた業界には、もともと不信感をぬぐえないのです。だからこそ、襟を正して機能性表示食品をしっかりと製造販売してほしいのですが。

合田 いわゆる健康食品が抱えていたこうした点が、機能性表示食品において解決されているのかどうか、不明です。届出書類を見ても、基原をどう確認しているのかわからない。たとえばキノコだったら、キノコの菌株の番号まで明記していないといけないのに、書いていない。

松永 合田先生は、機能性表示制度の検討会で、品質保証について定量分析のほか定性分析が必要だ、ということも強調されていました。
合田 天然物の有効性はほとんどの場合、多成分の化合物群に拠ります。たとえばビルベリー由来アントシアニンであれば、デルフィニジン、シアニジン、ヘチュニジン、ペオニジン、マルビジンをアグリコンとし,それらの3-O-グルコシドや3-O−ガラクトシドなど、様々な糖の配糖体として存在する。したがって、機能性関与成分を「ビルベリー由来アントシアニン」とする場合、定量分析に加えて定性的なパターン分析を行って、根拠とする論文で用いられた試料と製品が同等、同量であることを示さないといけない。ところが、そこまで確認していることを届出書類で示している製品は少ないのです。

 

松永 事業者の中には、食品なのだから、そんな高度なことを求めなくても、という声もあります。
合田 一般的な食品は、おいしさなどを消費者が評価できる。しかし、機能性については、消費者はなかなか実感できない。騙すことになってはいけないので、医薬品並の品質管理までは求めないが、事業者自身が厳しく管理する、という原則が必要です。これも一つの事例ですが、みかんに含まれるβ-クリプトキサンチンも気になります。みかんに含まれている時には、β-クリプトキサンチンは脂肪酸とエステル結合した形態です。食べて体内に入ると、消化管で結合が切れてフリー体になり、機能性が出てくるということが信じられている。ならば、みかんに含まれている時に結合している脂肪酸の種類によって、体内での機能性が変わるのか、変わらないのか。これは、研究してみないとわからない。少なくとも、ものとしての安定性は、相手の脂肪酸が異なれば違うことが明らかですし、フリー体とエステル体では大きく違います。製品化する前に、アカデミックな研究があって「脂肪酸組成は最終的な機能性に関係ありません」ということが確認されているのならいいのです。その研究がないのに、「同じだ」とみなしてしまうのは、科学的な判断ではないでしょう。医薬品である生薬は、長い臨床経験と成分研究等に基づいて、こうした細かいところを詰めながら、品質保証を行っています。

松永 みかんは機能性表示食品として届出されていますが、そのような考察はまったく書かれていません。
合田 私は、こうした問題点があることを、関係する先生方には伝えてはいるんですけどね。

 

GMP認証をとっているから問題ない、は間違い

松永 機能性表示食品については、GMP(適正製造規範)を行っているから品質保証ができている、安全だ、というような誤解が、事業者にあります。
合田 医薬品の場合、安全性や有効性を議論する間に、「品質保証をどうするか?」の審査があります。この審査により、医薬品の設計、開発から、製造、品質管理全体を通して見て、品質保証に問題なく、安全性や有効性の試験を行った治験薬と実際に販売される製品が同等である事が確認されることが大変重要です。つまり、品質保証は安全性や有効性を検討する際の大前提なのです。医薬品の品質保証は、とても厳格です。基原がなにで、どのような所で、どのように製造し、それぞれの段階で、どのような資格を持った人が、どのように試験をするのかということが非常に細かく規定されるので、書類にすると大変な量になります。その書類に基づいて、行われているのが医薬品のGMPで、GMPが厳守されているかどうかの査察も必ずあります。

 ところが、食品の場合には罰則規定のない自主的な規格で、同等性を確保するために何を規定すべきなのかルールがありません。食品のGMPは、基本的には、例えば原材料以外の異物を入れないというような安全性を確保するために実施されるものです。一方、医薬品の場合には、例えば製造ラインを変えたら、その機械等の特性の差から最終製品の品質が変わる、医薬品としての性能が変わる、とみなされるので、製造ラインの変更ですら国に届け出ます。医薬品ほどの厳密さを食品に要求することはできませんが、でも、食品だって有効性、すなわち機能性を表示する以上は、ある程度の責任を伴う、ということなんですよ。そのことが、機能性表示食品の事業者に、どれくらい理解されているのか。

 

松永 消費者も、「GMPをとっているから安全だ」などと事業者に言われて、ごまかされている面があります。日本のGMPはレベルが低くて、とくに原材料の基原について保証し切れていない、という批判は以前からありますね。GMPを取得していたにもかかわらず、間違った原材料が混入していたとか、医薬品が混入していた、というような事故が、起きています。でも、食品なのだから、医薬品のようなコストはかけられない、という意見も、事業者の間では強いです。

合田 たしかに、品質保証は、しっかりとすればするほどコストがかかります。検討会で、事業者代表の委員が新制度について「現在、原価20%のものが、41%まで上がる。45%を超えると赤字になってしまう」と発言していました。5)しかし、広告費に莫大な金額をかけている現実もある。広告費を品質保証に回してレベルアップを目指すような動きが出てくるとよいのですが。
 それに、先ほど説明したコンドロイチン硫酸塩については、問題が指摘された後、業界が規格と認証システムを自主的に作りましたよ。最初に教えてあげた時、企業の人は「いや、でも、原料工場には、サメがごろごろころがっていましたよ」と言っていた。つまり、コンドロイチン硫酸塩の製品を販売していた企業が、原料メーカーに騙されていた、ということです。それがわかって、規格と認証システムができた。ちゃんとした会社もあるんですよ。

 

慢性毒性は、食経験ではわからない

松永 品質保証が弱い、という点は、機能性表示食品の安全性にはどのように関わってきますか?
合田 食品の安全性は基本的には食経験で推し量るしかないです。私は、機能性表示食品については、そう大きな問題は起きないだろう、と考えています。ただ、食経験では判断できないものがある。たとえば、遺伝毒性、発がん性については、食経験ではわかりません。さらに気をつけるべきは、金属含有量かもしれません。重金属はチェックされている場合が多いのですが、意外に見過ごされがちなのが、鉄などの金属の多量摂取です。ウコンのサプリメントの中に、鉄や亜鉛が大量に含まれているものがある、という指摘が、2008年に大妻女子大の先生方によってなされています。ウコンサプリメントによって肝障害を生じた例について調べたところ、鉄の含有量が異常に高かったという報告です。6)
 原材料によるものか、添加されたものか、わかりませんが、栽培地や栽培方法、品種などによっても鉄含量は大きく変わってくる可能性がある。そうしたことが意識されていないと、鉄含有量が自主規格にも盛り込まれず、見過ごされてしまう可能性があります。

松永 お話を聞いていると、怖くなってきます。
合田 ごくたまに食べるのであれば、安全性についてはまったく問題がないものも、毎日摂取するなら摂取量が増えるから気をつけないと、ということです。急性毒性のあるなしは、人類は経験的に知っています。一方で、発がん性のような、人類の経験でも排除されていない毒性は、そこに含まれている化合物を分析して、推定していくことが重要となります。従って、天然物では、含まれる物質の構造等から体への影響を推測して試験で確認するような「見立て」も必要です。天然物は、すべてのデータが揃うことはないんです。それを要求したら、天然物をなにも利用できなくなります。天然物に詳しい人がそうした見立てをして、重要な点については実際に確認し、規格を作って行くというようなことが、医薬品の生薬では行われています。
松永 機能性表示食品を届け出た企業がそんなことをしているとは、届出書類からはうかがえません。
合田 トクホでも、少なくとも私が審査をしていた時代は、委員が見立てを行って質問して企業から回答をもらって検討して、というようなことをしていました。機能性表示の検討会では、その見立ても企業責任でやってね、ということでしたが、企業側から見ると「やれ」と命じられているわけではないので、もういいや、となっているのでは。
消費者は、急性毒性であれば症状がすぐに出るのでわかります。でも、食べている消費者でも発症までに長い時間がかかる毒性はわからない。食経験に加えて、天然物化学と毒性学をベースにした見立てが重要と考えます。

 

論文の質をどう見分けるのか

松永 機能性表示食品においては、機能性の根拠となる論文の質も、とても大きな問題だと思えます。
合田 論文は、なかなか難しい問題を抱えています。機能性表示食品の根拠として示されている論文を読むと、「この成分を50mg摂取する群とプラセボ群を比較したら、摂取群はこうした効果があった」という結論になっている。だからこの論文を根拠に、その成分を50mg含有する製品において機能性を表示する、というのが、この制度です。でも、成分を50mgというのが本当に正しいのか、論文でそこが押さえられていない。ここで言う成分は、例えば、ブルーベリーアントシアンといった、実際には、複数の成分からなる成分群のことです。医薬品に関する論文だと、米国薬局方(USP)の規格で規定された規格を守って生産されたものを摂取したとか、あるいはこのような分析法で○mgであることを確認したとか、根拠が書かれています。そうした根拠を積み重ねていることで、たしかにその成分50mgが効く、ということが担保されるのです。でも、機能性表示食品の根拠論文は、基本となる、対象物の品質保証をどうしているのかについて、記述のないレベルの低い論文が目立ちます。
 さらには、論文で黒大豆エキス10mgを摂取とか簡単に書いているけれど、そのエキスはどのような方法でエキス化されたのか、なにを含むのか、どう定量しているのか等、まったく説明がなかったりする。そんなレベルの論文を根拠にして機能性を表示して良いのかどうか。

松永 「査読あり」というけれども、論文を受け取って審査し掲載決定までわずか5日しかかかっていない、という論文が根拠になっている機能性表示食品もあります。通常の常識であれば、5日で論文を審査するのは無理です。でも、やっていないということは証明できない。これは「悪魔の証明」で、「査読しました」と言われて終わりです。
Exif_JPEG_PICTURE合田 ジャーナルのある種の格付けが必要です。科学者のところには毎日、一つや二つ、「うちの雑誌に投稿しませんか?」というメールが来ます。オープンアクセス、つまり論文を一般に公開してしまう電子ジャーナルが増え、投稿者から徴収する料金でジャーナルが運営される。だから、金儲けのために掲載する論文集めに必死になっているジャーナルがあります。どれがそういうたぐいのジャーナルなのか、業界にいる科学者ならわかります。そんなところに載った論文は、根拠にできない、というような制度にできればいいけれど、明確に区分する指標がない。オープンアクセスだから悪い、とは言えません。PLOS ONEのように、高レベルの論文が集まってきている電子ジャーナルもあります。でも、PLOS ONEは玉石混交で、ひどいものも交じっている。
松永 学術誌のレベルとか、論文の質とか、一般消費者にはわかるはずもないのに、「情報を公開しているから、消費者自身で判断せよ」という制度になっている。
合田 Pubmedに収録されている雑誌にするとか、インパクトファクターで区切るとか、ということも考えられますが、それだけでいいわけでもない。和文誌だって、中身の質が高いものもありますから。英文誌だけど、実際審査を行っているのは利害関係者ばっかり、というような雑誌もあります。結局、論文の質をすっきり切り分ける方法はない。ルールを作れない。だから、そのあたりの事情も十分わかって見立てもできる人による「審査」を個別製品について行う、という制度の方が、たしかです。
松永 つまり、トクホの方がやっぱり、科学的根拠という点でもレベルが高い、ということですね。

 

論文の成分と製品の成分が一致しない

松永 もう一つの大きな問題は、論文で用いられて効果を発揮した成分と、機能性表示食品に含まれている成分が一致しない場合がある、ということです。回りくどい話ですが、原料メーカーに「この論文で使われているのは、あなたが製造しているものですよね」と尋ねると、「はい」と言われる。では、「その論文を根拠にして機能性を表示しているこの製品に、あなたは原料を納入しているのですか?」と問うと、「納入していません」と返ってくる。つまり、同じ名称の成分であっても、論文と製品でまるっきり違う、という可能性があるわけです。届出書類で、「違うけれど同等であることが、別の論文で確認されています」と説明されていればいいのですが、なにも書かれていない。そんな製品がいくつも出てきています。

合田 それも、品質保証の問題ですね。どこかの企業が、品質保証や機能性、安全性にかんする情報をていねいに開示して、「食品だからすべてがわかっているわけではないけれど、ここまでははっきりしています」と説明する姿勢を見せてくれたらいいけれど。結局、品質保証の公開のレベルで、その企業のスタンス、レベルがわかるんですよ。高いレベルの企業が出て来てほしい。最近のデータですけど、健康食品で売られている製品ですと、同じロット番号のものを買ってきても、成分分析して統計処理すると、まったく違うところに分類されるものがあります。ひどいものだと、同じ箱に入っているのに、カプセル毎に異なってしまう。食品は、成分均一性試験がないですから。それとも、安定性試験が課されていないから、保存で変わってしまったのか、はっきりした原因は、まだわからないですけど。このレベルだと、機能性が、論文と製品と同じであるなんて、絶対いえないですよね。

松永 私は、「こんな低いレベルの論文を根拠にして、しかも原材料が違っていたり、品質保証をどうしているかわからなかったりするのに、『○○に効果』とうたうなんて、詐欺みたいなものじゃないですか!」と言います。そうすると、事業者の人たちから怒られる……(笑)。
それはともかく、消費者庁は近く「機能性表示食品制度に係る残された課題検討会」を設置します。事業者の人たちは、ビタミンやミネラル類、機能性関与成分を特定できないものなども制度の対象にしようなどと張り切っているようですが、消費者庁が事実上の制度の見直しに入るのでは、と推測する人たちもいます。品質保証の問題を解決する制度改革はありうるのでしょうか。
合田 消費者庁が、品質保証にかんする非常に細かい記入フォームを作り、届出書類としての記入を事業者に求める、という手はあります。基原にかんする遺伝子分析や化学分析、各工程で起きている物質の変換、どのような機器で定量や定性分析を行うかなど、詳細に記入してもらうことで、「ここまでしないと、天然物の機能性は保証できない」ということを事業者にわかってもらう。冒頭で述べたように、分析法の公開も必要です。第三者が、崩壊性分析などで各製品の検証を行い公表する取り組みなども重要でしょう。

 

崩壊性試験の意味は……

松永 合田先生はいつも崩壊性を引き合いに出されます。
合田 崩壊性分析は、第三者がもっとも容易に製品を検証できる手段だからです。分析法が公開されておらず、品質保証の詳細もわからない中でなにができるか。再度言いますが、医薬品にしても機能性表示食品にしても、その効果、機能性について、消費者が判断するのは相当に難しい。だから、第三者が客観的に評価できるシステムでなければならない。崩壊性は、その象徴的な項目なんです。消費者団体でも、さまざまな製品、それに複数の製造ロットを買い集めて、日本薬局方に則った崩壊性試験をしかるべき機関に依頼する、ということは可能ですよ。
松永 消費者団体が、そんなコストをかける価値を機能性表示食品に見出すのかどうか。それより、「いわゆる健康食品、機能性表示食品は買わないようにしましょう、機能性は信じないようにしましょう」と言う方が早いようにも思えます。実際に、そういう意見の消費者団体は多い。機能性表示食品制度により、業界はますます信頼を失いつつある、と思えてなりません。詳しいお話をお聞きでき、先生のご指摘がいかに本質を突いているか、よくわかりました。どうもありがとうございました。

<引用文献>
1)Sakai S et al. Identification of the origin of chondroitin sulfate in “health foods”.Chem Pharm Bull.2007;55(2):299-303.
2) Masada-Atsumi S et al. Evaluation of the botanical origin of black cohosh products by genetic and chemical analyses. Biol Pharm Bull. 2014;37(3):454-60.
3)Masada S et al. Genome-based authentication of black cohosh (Cimicifuga racemosa; Ranunclaceae) supplements available in the Japanese markets. Jpn. J. Food Chem. Safety, 2013;20(3):178-189.
4)Sato-Matsumoto N et al. Disintegration Test of Health Food Products Containing Ginkgo Biloba L. or Vitex Agnus-Castus L. in the Japanese Market. Medicines 2015; 2(2),47-54.
5)第6回 食品の新たな機能性表示制度に関する検討会 議事録
6)大森ら. ウコンサプリメントの多元素放射化分析 : 肝障害に及ぼすミネラルの影響. 大妻女子大学紀要 社会情報学研究, 2008;17,137-145.

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