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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

炒め野菜にほどほど注意〜アクリルアミドの発がん性問題

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2016年2月9日

 食品安全委員会が2011年から審議してきた加熱由来の天然成分「アクリルアミド」の食品健康影響評価が、2月1日の会合でほぼ固まった。発がん性について「公衆衛生上の観点から懸念がないとは言えないと判断した」という。このため、「ALARAの原則により、合理的に達成可能な範囲で、できる限りアクリルアミド低減に努める必要がある」という結論となった。

 うーん、わかりにくいなあ。科学的な厳密さを追求すると、こんな持って回った言い方になってしまうのか。要するに、「少々心配だから、減らす努力をしましょうか」ということだと思う。

 ただし、今回の食品安全委員会の評価から意外なこともわかってきた。これまで、アクリルアミドといえばポテトチップスとフライドポテトが“戦犯”扱い。新聞や雑誌やインターネット等でも批判の的だった。だが、現在の日本の食生活では、どうも違う。じつは、もやしや玉ねぎ、れんこん等、野菜全般の炒めや揚げ調理が問題。フライドポテトやポテトチップスは思いのほか、摂取量が少ない。

 FOOCOM.NETでは、2014年10月に記事『アクリルアミドの発がん性問題 「ポテチに多い」で慌てる必要はない』、12月に『家庭でも生成するアクリルアミド・・・調理の秘訣、教えます!』を掲載している。
 今回の食品安全委員会の評価などを基に、日本人がどんな食品から主に摂取しているのか、そしてその対策をご紹介しよう。

●遺伝毒性発がん性あるが、ゼロは追求しない

 アクリルアミドは、食品中のアスパラギンというアミノ酸とブドウ糖(グルコース)や果糖(フラクトース)などの還元糖という糖類が120℃以上で加熱されるとできる。アスパラギンやブドウ糖、果糖は食品にごく普通に含まれる成分なので、人類は火を使って調理し始めた時から、アクリルアミドを食べているとみられる。食品安全委員会は、遺伝子を傷害する力を持つ「遺伝毒性発がん物質」とみなしている。

 ほぼまとまった評価書案(今後、パブリックコメントなどを経て確定する)によれば、日本人のアクリルアミド摂取量の推定値は、0.240μg/kg体重/日。つまり、体重50kgの人なら、1日に12μgを食べている。
ばく露マージン(MOE)などの検討から、食品安全委員会は冒頭でご紹介したように、「日本人は、摂取量を減らす努力が必要」と結論した(MOEについては、食品安全委員会の資料や農水省の食品中のアクリルアミドに関する情報等を参照してほしい)。

 遺伝毒性発がん物質は、できるだけ食べない方がいいとされている。だが、「食品に発がん物質が入っているなんてけしからん! ゼロを目指せ」とはならない。それは、遺伝毒性発がん物質が、普通の食品に当たり前に入っているからだ。農薬や食品添加物など人が意図して食品に加えるものは、遺伝毒性発がん性がある場合には認可されない。しかし、同じく加熱でできる多環芳香族炭化水素類やヘテロサイクリックアミン類、カビ毒のアフラトキシンなど、自然天然の遺伝毒性発がん物質は数多くあり、ゼロにしようと思ったら、なにも食べられなくなり、栄養成分の摂取が足りなくなるという弊害も起きる。

 そこで、国際的には「ALARAの原則(As Low As Reasonably Achievable;合理的に達成可能な範囲で、できる限り低くする)」という考え方がとられ、食品安全委員会も今回、従ったのだ。

●フライドポテトやポテトチップスは、意外に少ない

 では、どのような食品に気をつけて、アクリルアミド摂取量を減らしたらよいのか?
 これまでやり玉に挙がっていたのは、フライドポテトやポテトチップス、パン類など。アクリルアミド研究は2002年にスウェーデンの機関が発表したのを皮切りに欧米で先行した。そのため、欧米で多く食べられるこれらの食品が注目され、日本でも非難の的となった。

 ところが、今回の食品安全委員会の評価内容は、その思い込みをくつがえした。日本人のアクリルアミドの推定摂取量の56%を占めるのは、高温調理(素揚げ、炒め、下炒め)した野菜。しかも、フライドポテト(じゃがいも素揚げ)からのアクリルアミド摂取量は、1日に体重1kgあたり7.5ng。これに対して、じゃがいも(炒め)は13ng、たまねぎ(下炒め)6.7ng、もやし(素揚げ・炒め)66ng、れんこん(素揚げ・炒め)11ng、キャベツ(素揚げ・炒め)9.0ngなど、フライドポテト以外の野菜からの摂取が圧倒的に多いのだ。

 野菜の後に、飲料(コーヒー、緑茶・ウーロン茶、麦茶など)17%、菓子類・糖類(ポテトチップス、小麦系菓子類、米菓類など)16%、穀類(パン類、炊飯米など)5.3%と続く。これらの個別品目の数値を見ると、レギュラーコーヒー (浸出液)から摂取するアクリルアミドは、1日に体重1kgあたり12ng、ポテトチップスからは9.4ng、成形ポテトチップスからは7.8ng、小麦系菓子類からは10ng、食パン(トースト、含みつ糖不使用)から1.1ng、炊飯米から3.9ngなど。意外な品目が、意外に高い。これらを合わせて、トータルで1日の体重1kgあたりの摂取が240ng、すなわち0.240μgだ。

●カレー用の玉ねぎ下炒めでも、アクリルアミドができる

 食品安全委員会も当初、普通の野菜は視野に入っていなかったらしい。だが、「家庭では、どうなっているんだろう?」「たとえば、カレーを作る時に野菜を炒めると、どの程度のアクリルアミドができるのか?」という疑問が生まれ、2015年度に食品安全委員会の研究費で、家庭調理における炒めじゃがいもや玉ねぎのアクリルアミド濃度の調査が行われた。

 評価書案におけるこのあたりの記述はとても面白い。まず、カレーやシチュー、肉じゃがを家庭で調理する際にじゃがいもや玉ねぎを下炒めするか、250人あまりに尋ねたという。すると、じゃがいもについてはカレーが67%、シチューは62%、肉じゃがは59%が下炒めすると回答。玉ねぎは、カレー90%、シチュー83%、肉じゃが73%だった。

 そこで、答えた人で調理協力を申し出てくれた人に依頼し、実際に家庭で下炒めしたじゃがいもや玉ねぎを送ってもらった。集まったじゃがいも53点の1gあたりのアクリルアミド平均値は11ng、最大値120ng。玉ねぎ58点の1gあたり平均値は36ng、最大値420ngだった。

 家庭の調理の仕方によって、こんなにもアクリルアミドの生成量が異なるのか。FOOCOM.NETで以前に紹介した家庭でのフライドポテトの揚げ具合のばらつきやトーストの焦げの違いにも共通する話である。

 こうしたデータや国立医薬品食品衛生研究所、農水省の調査結果等を用い国立環境研究所環境リスク研究センターが、平均的な日本人の摂取量を推定した。食品安全委員会はさらに、農水省の最新の調査結果も加味して摂取量をまとめた。

 推定結果を見て、ポテトチップスやフライドポテト(じゃがいも素揚げ)が少ないことに違和感を抱く人もいるだろう。じつは、以前はこれらのアクリルアミド濃度はもっと高かった。だが、メーカーやファストフード店などの低減対策が進み、農水省も製造者向けの低減指針を作り指導している。そのおかげか、アクリルアミド濃度は大きく下がった。食品安全委員会は、現在の食生活を反映できるように、推定に新しいデータを用いている。

 それに、アクリルアミド摂取量は、「その食品のアクリルアミド濃度×その食品を食べる量」によって決まる。濃度が下がったうえ、平均的な日本人はポテトチップスやフライドポテトをそう大量に食べているわけではない。こうしたことが、食品安全委員会の推定での少なさにつながっていると思われる。

 ポテトチップスやフライドポテトは、私から見れば誹謗中傷に近いほどの非難を新聞や雑誌、ネットメディアなどから受け、事業者は低減に努めた。その一方で、家庭などでの炒め・揚げ調理は、気がつかれず注意喚起がほとんどなされず、問題として取り残されてしまったのだ。

●煮る・蒸す・ゆでるの活用を

 では、具体的な対策は?
 食品安全委員会事務局は、評価内容を説明する記者会見で、 (1)食品はアクリルアミドだけでなく栄養成分も含むので、アクリルアミドを避けて栄養摂取が不足することになってはいけない(2)アクリルアミドの摂取源として野菜が挙げられているが、野菜を食べる健康上のメリットは大きい(3) 加熱は食品をやわらかく食べやすくするうえ、殺菌効果もあるので、必要な加熱を避けることがないように……などと強調した。

アクリルアミドを減らす調理法(農水省資料を整理した)

アクリルアミドを減らす調理法(農水省資料を整理した)

 具体的な方法については、農水省が昨年秋頃から盛んに、家庭向けの情報として出している。まずは食事の栄養バランスに気をつけること。むやみに食品の加熱をやめたり加熱食品を食べる量を減らしたりしないように、ということも注意している。そのうえで、調理については(1)食材の準備段階で、炒めたり揚げたりするとアクリルアミドに変わるアスパラギンや還元糖を増やさない(2)調理の条件を工夫し、アクリルアミドを増やさない—という二つの観点から、表のようにアドバイスしている。

 水の沸点は100℃なので、「煮る」「蒸す」「ゆでる」は食材が120℃以上になりにくく、アクリルアミドができにくい。したがって、炒めや揚げ調理の時間を減らしこれらで置き換えられたらいい。だが、炒めや揚げは、よい風味が出るおいしい調理法でもあるので、その兼ね合いが難しい。
 たとえば、きんびらごぼうでは、火加減を弱くしてかき混ぜながら短い時間炒め、その後は調味料と水を加えて蒸し煮にし、最後に炒めて汁気を飛ばす、という方法を、農水省は紹介している。

 農水省のウェブページ「家庭で消費者ができること」で、リーフレットなどもダウンロードできる。同省の「レギュラトリーサイエンス新技術開発事業」研究成果報告会での、小野 裕嗣・農研機構食品総合研究所上席研究員の発表資料も参考になる。

●「○○を食べるとがんになる」には惑わされないように

 私事を明かせば、我が家は野菜の炒め物がメニューの定番だった。娘は野菜炒めで大きくなったようなものだ。なにせ、短時間ででき、野菜をたくさん食べられる。煮物もよく作るが、どうも単調。子どもの受けもあまりよくなかった。一方、炒め物は豆板醤、甜面醤、コチジャン、オイスターソース、ハーブソルトなど調味料を工夫すれば、まったく違う料理になる。たぶん、野菜の炒め物は働くお母さんの強い味方だ。

 時間があるときには、じっくり玉ねぎを炒めたカレーも作る。玉ねぎをじっくり炒めて美しい黄金色にして、というのはおいしいカレーを作る秘訣だ。だが同時に、アクリルアミドも大増産していたのだ。

 おいしさや野菜をたくさん食べる、という大きな利点と、アクリルアミド摂取というリスクと。だから、調理法をすっかり変えるというような極端な策ではなく、ほどほどのところで折り合いたい。強火でさっと作ったもやし炒めもフライドポテトも折々楽しむ。コーヒーブレイクは欠かせないし、ポテトチップスもおいしいおやつだ。
 ほどほどの変更を。「○○を食べるとがんになる」という類いの情報が今後も出るだろうが、どうぞ、惑わされないように。

 もう一つ大事なこと。アクリルアミドの摂取源としてとても大きいのは喫煙だ。米国の国家毒性プログラム(NTP)のデータが、食品安全委員会の評価書案で引用されている。体重70kgの成人が1日20本喫煙すると、平均吸入ばく露量は0.67μg/kg体重/日。食事からの摂取に比べてかなり多い。非喫煙者も、いくばくかの煙を吸い込むのは避けられず、たばこから一定のアクリルアミドを摂取している。

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