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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

遺伝子組換えと自閉症…ニセ科学に荷担する生協、オーガニック販売企業

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2016年2月25日

 遺伝子組換えの反対活動家、Jeffrey Smith氏が来日して、全国3カ所で講演中だ。だれがいかなる主張をしようと自由だが、情報を受け取る側は、十分に吟味したい。FOOCOM.NETでは、宗谷敏さんが米国のサイトを運営するUCデービスの教授の了解を得て、サイトに掲載されているSmith氏に関する解説全文を翻訳し、紹介してくださっている(GMOワールドII GM反対派が招聘したJeffrey Smith氏のトンでる肖像)。こうした情報も読んで、Smith氏が米国の主流科学界からどのように扱われ、主張が科学的に妥当なのかどうか、じっくりと検討してほしい。

 Smith氏はこの10年ほど、遺伝子組換えについてさまざまな批判活動を展開してきた有名人で、私もいろいろと思うところがある。なぜ、こんな人を日本の反対派は呼んだのかなあ、というのが素朴な疑問だ。なにも、イロモノ扱いされている活動家を呼ぶことはないだろう。笑うしかない、と思っていた。

 だが、東京講演の説明やチラシを見て驚いた。これは笑いごとではない。
 講演は、Smith氏がプロデュースと監督を手がけた「Genetic Roulett」(邦題、遺伝子組み換えルーレット−私たちの生命のギャンブル)という映画の上映とセットで行われる。チラシでは、映画の内容が説明されている。たとえば、米国ではアレルギーや糖尿病、自閉症、不妊などが急増しており、遺伝子組換えとの関係を探るチャプターがあるという。さらに、「子どもがあぶない」というチャプターについては、チラシで次のように紹介されている。

米国政府が無料で配布している粉ミルク。大豆由来の粉ミルクから驚くべき数値の遺伝子組み換えが発見されました。自閉症の子どもを持つ母親たちは「食べ物をオーガニックに変えたら症状が回復した」と語ります。

 オーガニック、つまり有機栽培の農産物は、規格により「遺伝子組換え品種は使わない」というルールがある。化学合成農薬も使わない。だから、症状が回復した、というのか。

 自閉症は、先天的な脳機能障害による発達障害とされている(厚労省・自閉症についてなどより)。親が食べていた食品のせいだとする科学的根拠はないし、子どもが出生後に食べたものはなにも関係がない。
 自閉症を食べ物で治すなどというのは、根拠が示されないまま行われるニセ科学そのものだ。不安訴求型ビジネスと言えるだろう。

 遺伝子組換え食品は厳しい安全性評価の末に商用化されているので、開発や審査の段階で人の体に有害性を持つものは排除される。それに、導入される遺伝子やそれによってできるたんぱく質は、人の体の中で消化され代謝分解されることが確認されており、影響のしようがない、というのが実状だ。

 よく一緒に使われる除草剤グリホサートは、国際がん研究機関が昨年、人に対しておそらく発がん性があるとするグループ2Aに分類したが、大きな批判を浴びた。欧州食品安全機関(EFSA)などは、きっぱり発がん性を否定している。いずれにせよ、自閉症とがんは関係がない。

 こうした科学的事実を無視して、一部の母親たちの「オーガニックで症状が回復した」という主観のみを伝えるのは非常に罪深いし、自閉症への誤解を広げることにもなってしまう。

 個人が主張し、映画で伝えようとするのは表現の自由であり、これは止められない。しかし、こうした“間違い”は、情報を取り扱う者たちが伝達をストップさせる良識を持つ社会でありたい。私はそう強く思っている。ところが、今回の講演チラシには堂々と……。

 しかも驚くべきことにこの講演、そうそうたる団体が主催の実行委員会に名を連ねているのだ。生活クラブ東京、生活クラブ連合会、大地を守る会、農民連食品分析センター、パルシステム連合会、パルシステム東京、らでぃっしゅぼーや……。あなた方はこの、人を大きく傷つけるニセ科学を、広めてしまうのですか?

 思い起こせば、遺伝子組換えについては10年前の2006年にも、同じような騒動があった。ロシアの女性科学者が突如として登場し、「遺伝子組換え大豆をラットに与えたら死んだ」などと主張して日本を縦断して講演した。だが、ふたを開けてみると実験条件はめちゃくちゃ。配布資料中に、大豆を生で与えていたとまで書かれており(もちろん、生の豆は非常に有害)、この分野でど素人としか言いようのない科学者のパフォーマンスであることが露呈した。

 この時、毎日新聞の大阪紙面が鵜呑みにして「遺伝子組み換え大豆 子ラット6割死ぬ」と報じ、約1週間後に「実験の正当性に疑問の声」と事実上の訂正報道を行った。
 私はこのことを2007年に出した著書「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」で詳しく書いている。情報を伝える者の責任は重い。

 このロシア人科学者を招聘した「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」は、今回のSmith氏講演の主催実行委員会の組織の一つでもある。10年たってまた、なのか。

 こうした背景情報も踏まえ、遺伝子組換えについては判断してほしい。今、TPPに絡めて遺伝子組換えを批判する “識者”が雨後の筍のように出てきているが、彼ら彼女らが所属する団体が、ずらりとSmith氏講演の主催に並ぶ現実も考えてほしい。

 ちなみに、ロシア人科学者やSmith氏、彼が執筆し、映画の元となった著書「Genetic Roulette」等については、NPO法人「国際生命科学研究機構」(ILSI Japan)が、冊子「遺伝子組換え食品を理解するII」で詳しく触れており、ウェブサイト上で読める。これも参考になるだろう。

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