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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

試験勉強には“効かない”イチョウ葉なのに……機能性表示食品の今

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2016年4月12日

IMG_2211 (1) まずは写真を見てほしい。都内のドラッグストアで4月はじめ、偶然見つけて撮った。アサヒフードアンドヘルスケア(株)の「シュワーベギンコイチョウ葉エキス」という機能性表示食品の箱が、店の棚の一角にずらりと並べられている。気になるのはPOPだ。

『これから試験がある方! 勉強始める方! 「記憶の維持」に役立つサプリメントなら、シュワーベ社のイチョウ葉がゼッタイ オススメです!』と手書きの文字。だが、消費者庁のウェブサイトで、アサヒフードアンドヘルスケアが届け出た書類を見る限り、このPOPは完全に間違っている。(消費者庁・届出資料A134

 機能性の根拠は、関与成分についての論文をデータベースで収集・精査する「研究レビュー」であり、根拠として採択されたのは論文1報。ブラジル人の60〜70歳の男性を対象に行われたもので、言葉や複雑な図形の3分後の思いだし等で、イチョウ葉エキスを摂取した群が摂取していないプラセボ群に比べ有意に優れ、脳の血流も有意に高まっていることが示されたという内容だ。

 アサヒフードアンドヘルスケアが消費者庁に届け出た「一般消費者向け情報」でも、「当該製品が想定する主な対象者」を「健常な高齢者」としている。春に「試験がある、勉強を始める」と言われた時に引きつけられるであろう高校生や浪人生等は、まったく想定していない。

 いや、高校生や浪人生というよりも、心配な親が店頭で手を出し、子どもに飲ませようとするのかもしれない。いずれにせよ、効くという根拠もないのに訴求するなんて、悪質ではないか? このPOPは、製品の内容を著しく誤認させるものであり、健康増進法違反の可能性もあると思う。

 一義的には、ドラッグストアの責任だろう。だが、アサヒフードアンドヘルスケアの姿勢にも、私は疑問を持つ。同社は、消費者庁に届け出て消費者庁のウェブサイトで公表される書類では、対象者を「健常な高齢者」と明記している。ところが、製品のパッケージには書いていない。機能性としてパッケージに表示してあるのは「本品にはイチョウ葉由来フラボノイド配糖体、イチョウ葉由来テルペンラクトンが含まれます。イチョウ葉由来フラボノイド配糖体、 イチョウ葉由来テルペンラクトンには、認知機能の一部である記憶力(言葉・物のイメージ・位置情報を思い出す力)を維持する機能があることが報告されています。」である。この表示だと、高校生や受験生が勘違いして購入しても不思議ではない。

 そもそも、ドラッグストアのPOPはだれが書いたのだろう? 消費者庁に届け出された書類を読まずにパッケージだけを見て、POPを作ったのか? 薬剤師が書いたのか? あるいは、パート店員が作り薬剤師が黙認したのか?

 消費者は、ドラッグストアには薬剤師がいて薬の購入の相談に乗ってくれる、健康食品もアドバイスもしてくれる、と思っている。消費者庁のウェブサイトでわざわざ届出資料を見るのは、けっして楽なことではない。店頭で見て調べずに購入する人は多いだろう。まさか、パッケージの表示が不十分で、POPには大ウソが書いてあるなどとは思わない。しかし、実際にはこんなことが起きている。

 これが、機能性表示食品の制度が始まって1年の現状だ。
 情報が公開されて、「消費者の誤認を招かない、自主的かつ合理的な商品選択に資する表示制度」のはずだった。しかし、ウェブサイトで公表されている情報は、消費者にとってわかりやすくはない。届きやすいわけでもない。
 イチョウ葉が典型的で、表面的な情報公開は進んでも、理解され活かされるかどうかは、まったく別の事柄なのだ。

 POP問題はさておき、パッケージに表示されている機能性と、根拠となる論文の内容との間に“ずれ”がある、と思われる製品は、ほかにもかなりの数ある。根拠とした論文が論じている成分と製品に含まれる成分の同等性、という観点で、問題のある製品もある。同じ名称の原材料であっても、製造方法や規格が異なれば、効き目や安全性はまったく異なる。プロなら当然の常識だ。しかし、品質管理等に詳しくない消費者は、同じ名称であれば同じもの、と思ってしまう。消費者は誤魔化されているのだ。

 そもそも、情報が公開されているといっても、企業が作った情報を公開しているのだから、恣意的でない、という保証はない。しかも、成分の分析法等が公開されておらず、第三者が製品を科学的に分析検証する術がない。制度が抱えるさまざまな問題については、制度が始まった当初、本欄特集欄で指摘し、国立医薬品食品衛生研究所の合田幸広・薬品部長も詳しく解説してくださった。これらは、まったく解決されず、制度から1年たってますます悪質な事業者と製品が出てきている、という印象を私は持っている。

 消費者庁は今年度、「健康食品の機能性等に係るエビデンスのセカンドオピニオン事業」を行うという。いわゆる健康食品と保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)の表示に係る疑義について、専門家による科学的根拠の文献の査読や検証を行い、問題のある製品については措置をするそうだ。

 特定保健用食品の広告ですら、この3月に健康増進法による勧告が出された(ライオン(株)の「トマト酢生活トマト酢飲料」の新聞広告 )。機能性表示食品の根拠情報やパッケージの表示、広告等を精査すれば、相当数の問題製品が明らかになる、と私は思う。消費者庁は是正に動くことだろう。まさに今年度が、機能性表示食品の正念場だ。

 ちなみに、イチョウ葉エキスは認知機能の改善等を期待され、欧米各国で試験が行われている。機能性表示食品としても、ほかに2社が製品を出しており、それぞれ研究レビューが根拠となっている。だが、世界で行われている試験の多くは高齢者が対象であり、機能性表示において採択された論文のほとんどもそうだ。若者の試験や勉強への効果を期待してはいけない。

 国立健康・栄養研究所の『「健康食品」の安全性・有効性情報』https://hfnet.nih.go.jpで、イチョウを検索して読んでほしい。高齢者が対象であっても、効かないとする研究結果が相当数あることがわかる。また、米国のNational Institutes of Health(国立衛生研究所)・Office of Dietary Supplementsのイチョウ葉のページからリンクされたNational Center for Complementary and Integrative HealthやNational toxicology Programのページは、国の機関が出資して行った大規模試験で効果を見いだせなかったことなどを説明している。

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