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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

虚偽? 誇大? あやしい健康食品広告にどう立ち向かうか?・・・消費者庁食品表示対策室長インタビュー 前編

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2016年5月12日
違反として措置命令が出された広告の数々

違反として措置命令が出された広告の数々

三上伸治・消費者庁表示対策課食品表示対策室 室長 インタビュー 前編

景品対策課に食品表示対策室が設置されてもうすぐ3年になります。食品表示全般の調査や監視、改善指示・命令などを執行する事務を一元的に担う部署と位置づけられていますが、私たちFOOCOMがとくに期待を寄せていたのは、健康食品の広告・宣伝の取り締まりでした。インターネットにはダイエットやがん予防など、目に余る表現があふれ、テレビの通販問題や新聞の広告などでも、もっともらしいグラフや体験談、医師のコメントなどが掲載されています。虚偽の内容としか思えないものもたくさんあります。

食品表示対策室がどれくらい、頑張ってくれるのか? 最近、成果がくっきりと見えてきました。景品表示法(景表法)に基づく健康食品の措置命令件数は2014年度4件、15年度は5件。15年度は、健康増進法(健増法)違反による初勧告も出ました。しかも、その対象は特定保健用食品で、「トクホですら厳しく広告がチェックされるのか」と業界を驚かせました。

15年度末には、広告適正化のための監視指導等にかんするガイドラインの改正もありました。また、今年度に入り4月20日から、「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」の意見募集(パブリックコメント)もはじまっています(5月20日まで)。その内容は、広告の事例を具体的に示してどこに問題があるのか詳細に解説するもので、行政の出す文書としては極めて斬新で、わかりやすいものです。

厳しく監視や行政指導、処分等を執行してほしい。ただし、広告・宣伝の規制は、表現の自由を侵すものであってはならず、慎重な判断も求められます。食品表示対策室の三上伸治室長に、話を聞きました。2回に分けてご紹介します。(2016年4月21日、消費者庁にて、聞き手; 松永和紀、森田満樹)

●機能性表示食品制度を機に、情報提供を強化

三上伸治・消費者庁食品表示対策室 室長

三上伸治・消費者庁食品表示対策室 室長

松永 この1年ほど、健康食品に対する監視規制が厳しくなってきた、という印象を持っています。また、ガイドラインや留意事項等の改正ラッシュです。どのようなお考えで進めているのでしょうか。

三上 昨年4月に機能性表示食品制度がはじまりました。広告の考え方は特定保健用食品と同じ範囲であれば問題がないので、6月に「広告等に関する主な留意点」、11月に生鮮食品に関するQ&Aを公表したくらいで、私たちはそう心配していませんでした。ところが、業界の方たちはいろいろと疑問があったようで、説明してほしいという要望が相次ぎました。
そこで、JARO (公益財団法人日本広告審査機構)で、機能性表示食品だけでなくいわゆる健康食品やトクホ等も含めて、制度の概要や違反となる表示内容等について説明したのを皮切りに、さまざまなところに出向いて話すようになりました。

また、健増法の第32条第1項と第2項の規定に基づく「誇大表示の禁止」に係る勧告・命令の権限が、16年4月には国から都道府県知事、保健所設置市長及び特別区長に委譲されることも決まっていました。そこで、それに合わせてガイドラインや留意事項の改訂を進め、消費者や事業者、それに監視する自治体関係者もよりわかりやすく理解してもらえるように努力している、という状況です。

消費者庁・特定保健用食品に関する質疑応答集
消費者庁・機能性表示食品の広告等に関する主な留意点
消費者庁・生鮮の機能性表示食品の広告等に関するQ&A
消費者庁・「食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関 する虚偽誇大広告等の禁止及び広告適正化のための監視指導等に関する指針(ガイドライン)」及び「食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告適正化のための監視指導等に関する指針(ガイドライン)に係る留意事項」の一部を改正

松永 特定保健用食品、トクホについては、「特定保健用食品に関する質疑応答集」が消費者庁のウェブサイトに掲載されています。国の許可した表示を超えた広告をしてはいけませんとか、許可表示の一部のみを表示するのもいけません、など、詳しく書かれています。これを参考にして、機能性表示食品における届出表示についても同様に判断したらよい、ということですか。

三上 そうです。トクホの質疑応答集では、試験結果やグラフの扱い方などについても示しています。また、「あくまでも個人の感想です」、「効果を保証するものではありません」等の表示をしたとしても、結果的に消費者が誤認すれば、誇大表示に該当しますよ、としています。機能性表示食品も、考え方は同じです。

●留意事項案のパブリックコメントを始める

松永 JARO等での説明に対する反応はいかがですか?

三上 一般紙や民間放送など、各媒体で考査、審査を担当する方々に説明しました。どの方も非常に熱心です。広告の監視指導は役所のわれわれだけでできるものではありません。各媒体の考査の方々の意識がとても重要です。彼らは、新聞や雑誌、番組等のクオリティを保つために必要であり、われわれにとっては応援団なので、考査・審査の方々のご相談には応じています。

松永 たしかに私も考査の担当の方々が懸命に審査をしていることを見聞きしています。一方で昨今、メディアの広告収入が減っているので、健康食品の事業者側が行き過ぎた広告案を持ってきて考査でストップをかけようとしても、押し切られる、というような声も聞こえてきます。

三上 事業者側にもしっかりと、景表法や健増法に基づく違反について理解してもらう必要があります。私は、農水省で食品表示を担当し、消費者庁に異動したのですが、健康食品の表示の規制を担当することになって最初に勉強したのは、2013年12月に策定された「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」でした。これは、消費者委員会から2013年1月、「健康食品」の表示等の在り方に関する建議が出されたのを受けて策定されたものです。

これを理解していただくのが、一番誤解を招かない。健康食品利用者にとってもよい指針になります。そこで、これをもっとわかりやすく全面改正した案をつくり、2016年4月20日からパブリックコメントをはじめました。

「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」に関する意見募集について

●景表法と健増法の一体的な運用とは?

松永 これまでの留意事項の内容よりうんと詳しくて、しかも、とてもわかりやすいですね。なんといっても、ダメ広告の事例が二つも載っているのが画期的です。

三上 まず、これまでの留意事項では対象表示と対象商品を「いわゆる健康食品」とし、保健機能食品については規定の表示を超える場合には対象としますよ、と書いていましたが、改正案では「健康食品」をきちんと定義し、いわゆる健康食品とトクホ、栄養機能食品、機能性表示食品という「保健機能食品」も対象ですよ、と明確にしました。

加えて、これまでは景表法ではこう、健増法ではこう、というふうに別々に整理していました。しかし、景表法と健増法で同じ概念により整理し一体運用を図る部分は、両法合わせて理解できるように記述を変えました。

松永 実は、私が健康食品と広告の問題を取材するにあたって理解がもっとも難しかったのが、二つの法律の違いを把握し、なおかつ有機的に一体運用していく、というのは、具体的にどういうことなのか、ということなのです。

三上 この改正案を読んでいただければよくわかりますよ。景表法は幅の広い法律で、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを厳しく規制するものです。健増法は、健康保持増進効果等についての虚偽誇大表示を禁止するものです。二つの法律での解釈を融合して取り締まるのが、一体運用の主たる内容ということです。

たとえば景表法では「実際のものより著しく優良である」と示すのはダメ。健増法でも「著しく事実に相違する表示をし、または著しく人を誤認させるような表示をしてはならない」となっています。歴史のある景表法では「著しく」という概念が判例で示されていますので、その解釈を健康増進法にも持ってきています。広告は通常、ある程度の誇張を含むもので、一般消費者もある程度の誇張が行われることは想定しています。そのため、社会一般に許容される程度の誇張であれば、取締りの対象とはなりませんが、「消費者がその食品を摂取しても、真の効果は広告その他の表示に書かれているとおりではないと知っていれば、その商品を買うことはない」と判断されるようなものは、「著しく」に該当します。

●“言葉狩り”はしない。広告全体で何を訴求しているかで判断

松永 事業者は、コンサルタントや広告代理店などから「広告では、この言葉は使ってはいけませんよ」などとアドバイスされているようですが。

三上 景表法、健増法共に、特定の用語や文言等の使用を一律に禁止するものではありません。ところが、これまでの留意事項は、言葉による説明が中心だったので、「この言葉を使ってはいけない」「あの言葉はダメ」というような言葉狩り、と受け止められてきました。そうではなく、写真等も含めて広告全体がなにを訴求しているかを判断することを、担当者が作成した広告事例で、具体的にていねいに説明しています。広告事例は、よくできているのではないか、と思います。

健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項(案)のP19に掲載されている広告事例

健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項(案)のP19に掲載されている広告事例

●「個人の感想です」は、通用しない

松永 改正案に掲載されている見事な出来映えの広告事例を見てみましょう。上の広告事例では、「本商品を飲めば、運動や食事制限をせずに痩せることができる」などといった直接的な表現はありません。しかし、「お腹のブヨブヨも気になるんだけど、やっぱり美味しいものが食べたい!」「食事制限したくない方、運動も苦手という方必見です!」などの文言と共に、「普段の食生活や生活習慣を変えずに、たった1粒飲むだけで、スグに体型に変化が出てきた」などの体験談を記載しています。こういうパターンの広告は現状、とても多いです。これを「本商品を摂取するだけで、特段の運動や食事制限をせずに痩身効果が得られるかのように暗示的に表現しているものといえる」と、ずばりと指摘しておられます。これはわかりやすい。

あるいは、「短期間で著しく痩せる」などの直接的な表現はなくても、4週間で約15kgの減量に成功した使用前後の画像や「短期間で驚きの変化が実感できます」という文言、体験談の組み合わせが、「短期間で容易に著しい痩身効果を得られるかのように暗示的に表現しているものといえる」と説明されています。

「個人の感想であり、効果には個人差があります」と注意書きがあっても、それで免罪されるわけではないということも、この改正案ではっきりと書いてありますね。こういうテクニックを用いた広告は、新聞の折り込みチラシやインターネットなどには実際に、山ほどあります。この事例を読んで青くなった事業者も多いのでは。

三上 ただし、広告が主張する内容に科学的に合理的な根拠があれば、景表法、健増法上は、まったく問題はありませんよ。

松永 もう一つ、糖尿病についての広告事例も出して解説されています。「これを飲めば食事療法や薬物治療によることなく、糖尿病が改善する」などというような直接的な表現はありません。しかし、文言を積み重ねることにより「本商品を摂取するだけで、食事療法や薬物治療によることなく、糖尿病を改善する効果を得られるかのように暗示的に表現している」と判断しています。この広告例も、インターネットなどでよく見るパターンです。

健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項(案)のP22に掲載されている広告事例

健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項(案)のP22に掲載されている広告事例

(後編に続く)

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