ホーム >  専門家コラム > めんどな話になりますが… > 記事

めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

「エビデンスに裏付けられない機能性表示食品がある」 日本アントシアニン研究会が申し入れ

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2016年8月1日
フルーツとしての人気のブルーベリー。サプリメントになっているのはビルベリー由来のアントシアニンで、ブルーベリーとビルベリーは別種。ブルーベリーでは、機能性の根拠はほぼない

フルーツとしての人気のブルーベリー。サプリメントになっているのはビルベリー由来のアントシアニンで、ブルーベリーとビルベリーは別種。ブルーベリーでは、機能性の根拠はほぼない

 世間は、アントシアニン業界の業者同士の内輪もめ、と勘違いしたのかもしれない。あまり話題になっていないようだ。だが、これは、機能性表示食品制度が抱える複雑な問題点を、くっきりと浮かび上がらせる出来事だ。
 日本アントシアニン研究会が7月はじめ、八幡物産(株)に対し、同社の機能性表示食品「北の国から届いたブルーベリー」の届け出を取り下げるように、文書で要請し、その内容をウェブサイトで公開した。

 同社は「目の疲労感にアントシアニン」と盛んに広告宣伝しており、機能性表示食品としては目立つ存在。これに対して、アントシアニンにもっとも詳しい専門家グループが、取り下げを求めた。画期的な出来事だろう。詳しく解説したい。

●「目の疲労感を緩和する」と宣伝されるが……

 八幡物産の機能性表示食品A164の「北の国から届いたブルーベリー」(以下、北ブルーベリーと呼ぶ)について、日本アントシアニン研究会(会長・矢澤一良・早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構研究院教授)が最初に、「届け出書類に、事実に反する記載がある」と指摘し、内容の訂正か届け出取り下げを文書で申し入れたのは、販売直後の今年1月のことだ。

 同社から回答が来たが、届け出書類に書かれている以上の説明はなく、訂正、取り下げはしない、との内容だった。そのため、研究会は3月、弁護士の代理人を通して、品質保証の問題点や論文の解釈等について同社に質問した。その際に、回答の有無や内容について、研究会のウェブサイトで公開すると伝えた。

 すると、同社が非公開を求め、3月31日に東京地裁に仮処分命令を申し立てた。地裁で何度かのやりとりをし、裁判所の判断を待つばかり、となっていたが、同社は6月24日、仮処分の申立てを取り下げた。研究会は7月はじめ、ウェブサイトで申し入れをした事実や、細かな指摘内容等を公開した。これに対し同社は、弁護士と協議中である旨を公表した。さらに、裁判手続きを検討している可能性もあるようだ。

 研究会の指摘は主に二つ。(1)機能性の根拠である論文で用いられ、機能性が確認されたビルベリーエキスと、製品に入っているビルベリーエキスが同等である、という根拠が示されていない(2)表示の内容が、「研究レビュー」で採択した論文の結論と矛盾している……である。

●原材料の同等性が示されていない?

 北ブルーベリーの届出表示は、「本品にはビルベリー由来のアントシアニンが含まれます。アントシアニンには、パソコン作業、事務作業など目をよく使うことによる、目の疲労感、ピント調節機能の低下を緩和することにより、目の調子を整える機能があることが報告されています。」である。
 機能性の根拠は、アントシアニンにかんする既存の文献の研究レビュー(システマティックレビュー)だ。

 もう機能性表示食品制度なんて忘れたよ、という方のために、若干の説明をしておこう。この制度は、機能性の根拠として(i)製品、あるいは製品と同等のものをヒトが摂取して影響をみる「臨床試験」で、効果を確認(ii)他者が実施した試験結果の文献を論文データベースから収集し適切なもの(複数の場合も一つの場合もある)を選び出す「研究レビュー」を行い、結果が機能性について肯定的である場合−−の2通りのやり方を認めている。

 ただし、(ii)の場合には、他者が研究に用いて論文化した「成分」と、機能性表示食品の「機能性関与成分」が同一、あるいは同等でなければいけない。

 これは、よくよく考えれば当たり前の話。たとえば、トマトであれば、品種や栽培地等で成分は異なる。さらに、トマトの抽出物であれば、抽出法の違いで、成分は大違いとなる。だから、トマトという名称が同じでは意味がなく、同一か同等であることを、根拠を持って示すのがとても重要だ。

 これを踏まえて、日本アントシアニン研究会の主張をみてみよう。まず(1)の原料の同等性について。
 八幡物産の届出書類を読むと、研究レビューで採択した論文は二つ。それらの論文に用いられている成分は「ビルベリー由来アントシアニン」。北ブルーベリーの機能性関与成分も「ビルベリー由来アントシアニン」。同じ名称だが、同じものではない。

 ここでまた、背景情報が必要だ。ビルベリー由来アントシアニンは、ブルーベリーの野生種であるビルベリーから抽出した「エキス」を指す。ひと言でアントシアニンというけれども、実は多種類の化学物質の複合体だ。

 ビルベリー由来アントシアニンはさまざまな企業が製造しているが、イタリアに本社があるインデナ社が際だって有名だ。研究開発で先行し、ビルベリーの産地や収穫時期を限り、36%のアントシアニンを含み、混合物の種類や含有量なども把握して「規格」を定めて、「ミルトセレクト」という製品名で販売している。ビルベリー由来アントシアニンについて研究され論文になっているもののほとんどは、このミルトセレクトを使用しており、目の健康維持に役立つとする結果もある。

 インデナ社は、ミルトセレクトについて日本語でも説明しており、学術論文なども示している。

 八幡物産が、研究レビューで機能性表示の根拠として挙げた二つの論文は、どちらもこのミルトセレクトを試料として用いている。ところが、同社の届出書類によれば、製品に用いられている原料は、ミルトセレクトではない。

 では、同社原料とミルトセレクトの同等性は、どう担保されているか。
同社の届出書類では、同等の北欧産 Vaccinium myrtillus L の果実部位を用い、ビルベリー特有の15種かつ36 %(w/v) のアントシアニンを含んでいることを主な理由としている。
 これに対して、研究会は同じ原産地であっても含有量が大きく異なる場合があることや、同社の用いる原料の製法の詳細が開示されていないことなどから、同等性が示されていない、と主張するのだ。

●論文では、群間比較に有意差なし

 研究会の指摘の二つめは、 (2)北ブルーベリーで表示されている機能性の内容が、研究レビューで採択された論文の結論と違っている、というものだ。
 採択された論文は二つある。どちらも、目の疲れの改善について検討したもので、1994年に発表された論文では、群間比較で統計的な有意差あり。ところが、2013年発行の論文は、群内比較では有意な差が出ているが、群間比較では差が出ていない。

 ここでまたも、背景説明をしなければならない。群内比較と群間比較で何が違うか。こうした成分が本当に効くかどうか確かめるには、ランダム化並行群間比較試験を行う。
 人は、「成分が入っているから効くはず」と信じるだけで、偽物を食べても体の調子がよくなる「プラセボ(偽薬)」効果が出る。したがって、ただ食べてもらって効果を確認するだけでは不十分であり、被験者を集めて、その成分が入っている食品を食べる群と、成分は入っていないけれども外見や味がそっくりで区別できない食品を食べるプラセボ群を設定し、効果を比較する。どちらの群の人たちも、「成分が入っている」と信じて食べることになる。

 そうした条件で、成分入りの方がより大きい効果を持つ、つまりは群と群の間で効果に違いがあって初めて、真の効果ありと認められる。これが、「群間比較で有意差あり」だ。
 プラセボ群であっても、食べる前と後という群内比較で統計的に有意な差が出ることもある。これは、食べた人の気分がそうさせている可能性があるので、「群内比較で差あり」だけでは、効果が示されたことにはならない。

 今回のケースで採択された論文は、目の疲れの程度を判断する「症状VAS評価」という指標において、二つの群の間では統計的に有意な差がない。つまり群間比較は差なし。ところが、成分を食べた群で、食べる前と食べた後では差がある。つまり群内比較は差あり。
 こうした場合、学術的には「明確な結論は導き出せない」とするのが普通だ。

 なのに、八幡物産はこの論文も根拠にして、「目の疲労感を緩和」と大々的に広告宣伝している。それはおかしいでしょう、というのが、日本アントシアニン研究会の指摘だ。

●根拠が希薄な製品を、知らずに買う消費者

 私は、論文二つを入手し、届出書類と突き合わせて読んだ。研究会の指摘はもっともだ、と感じた。届出書類や論文から自明のことだけが、主張されている。八幡物産は批判されるべきだ。いや、私はむしろ、こんな製品を容認したままの消費者庁に強い憤りを覚えた。

 日本アントシアニン研究会が、届出取り下げを同社に求めると共に、この指摘を公表して世間にも知ってもらおうと考えたのは当然だ。根拠の希薄な製品を知らずに買わされるのは、消費者だからだ。

 百歩譲って、研究会の指摘が的外れだったとしよう。業界内の足の引っ張り合いだったとしよう。だとしても、研究会は届出書類と論文を基に意見を表明しているのだから、同社は堂々と根拠を持って「その指摘は当たらない」と回答すればいい。そして、“誤解”を招いた届出書類を修正するなりすればいい。それが、表現の自由、言論の自由が保証されたこの社会の仕組みだ。

 実際に、機能性表示食品制度においては、外部からの指摘に応じて、届出書類をより詳しく説明するものに修正している企業、製品もある。消費者庁のウェブサイトでは、書類のどの部分を修正したかまで、わかる形で公表されている。

 だが、同社は科学的な根拠を持った回答をせず、届出書類の修正もすることもなかった。代わりに、研究会の意見の公開を差し止める仮処分を東京地裁に申請した。

 機能性表示食品制度は、企業が情報を消費者庁に届け出て公開され、消費者などが読んで判断する制度。批判が公になされて議論があることを前提としている。にもかかわらず、意見を表明し科学的な議論をしようとする科学者に、企業が正面から答えず裁判所でのやりとりに持ち込む。個人的に、違和感を禁じ得ない。

 ちなみに、研究会は、似たような製品を届け出ている他社にも、問題点を指摘し届出取り下げを求める文書を送っているそうだ。他社とはやりとりがまだ続いているため、申し入れた意見についてはまだ、公表する段階にないという。

 問題のある製品に、専門家が声をあげる。こんな取り組みがもっとあっていい。その情報が、どんどん公開されるべきだ。情報を見て、読んで判断するのは消費者。科学者には頑張ってもらいたい。

⇒ めんどな話になりますが…記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】
FOOCOM お役立ちリンク集