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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

トクホ、初の許可取り消しの意味は

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2016年9月27日

 消費者庁が9月23日、特定保健用食品6品の表示許可を取り消した。どれも日本サプリメント(株)の製品で、かつお節オリゴペプチドを含む4品(「ペプチド茶」、顆粒状の「ペプチドストレート」、乾燥スープの「ペプチドスープEX」、サプリメント型の「ペプチドエースつぶタイプ」)と、豆鼓エキスを含む2品(「食前茶」とサプリメント型の「豆鼓エキスつぶタイプ」)である。
 
 同社の「お詫びとお知らせ」によれば、ペプチドシリーズ4品は、「本品は、かつお節オリゴペプチドを配合した食品で、血圧が高めの方に適した食品です」という表示が許可されていたが、 同社の自主的な検証により、関与成分として記載されているLKPNMの含有量が規格値を満たさない疑義があること等が判明したという。そのため、消費者庁に報告し、特定保健用食品としての販売を終了した。

 消費者庁を取材した各社の報道によれば、問題は同社の調査で14年3月に判明していたが、同社は2年以上にわたってその事実を伏せ、そのまま売り続け、今月に入って同庁に報告した。同庁は悪質性が高いと判断し、許可取り消しに踏み切ったという。

 一方、豆鼓シリーズ2品は、「本品は、豆鼓エキスを含んでおり、糖の吸収をおだやかにするので、血糖値が気になり始めた方に適した食品です」という表示を許可されていた。しかし、関与成分として記載されているトリスが含まれていないこと等が、自主検査により判明した。
 許可申請時点で、同社は関与成分をトリスと同定し許可を取得していたが、その後の自主検査で、同社がトリスと同定していた成分はトリスではなく、関与成分はトリスではない、と判明したという。

 明確なルール違反なので、取り消しは当然だ。トクホは、製品ごとに安全性と機能性の審査を受け表示を許可されている。LKPNMやトリスが入っていないのでは、安全性と機能性の審査の根幹が崩れてしまう。

●言い訳には、科学的な妥当性がない

 気になるのは、同社がウェブサイトに載せている“言い訳”。「かつお節オリゴペプチドが血圧が高めの方に適した食品であることは、ACE阻害活性の値から判断することができます」「原料(かつお節オリゴペプチド)レベルにおいてACE阻害活性の必要値が満たされていることを確認しております」だそうだ。科学に詳しくない人を煙に巻く論法としか思えない。
 
 ACEというのは、アンジオテンシンI変換酵素のこと。この酵素は血圧を上げる働きをするため、それを阻害すれば血圧を抑えることにつながる、とされている。いくつかの化学物質が医薬品の「ACE阻害薬」として認可されている。

 食品業界では、食品中のペプチド(アミノ酸が数個つながったもの)が、ACE阻害活性を期待され研究が行われている。かつお節オリゴペプチドはさまざまなペプチドを含んでいるが、同社の研究員が発表した論文によれば、メインのACE阻害活性の強い成分がLKPNM、すなわちロイシン-リジン—プロリン—アスパラギン—メチオニンという5つのアミノ酸がつながったものだ。
 
 これが、表示量を満たしていないが、原料自体の測定で、ACE阻害活性を確認している。ということは、同社はほかのペプチドが効いている、と暗に言いたいのだろう。

 しかし、原料自体を試験管に入れて測定した活性の数値は、ほかの酵素などによる代謝作用をまったく受けていない (こうした実験方式を、in vitroという)。一方、人は、食品を口から入れて消化した後に吸収し、やっとその物質がターゲットの代謝系に届くことになる。さまざまな酵素、物質等の影響を受けるから、試験管内のようには効きにくい。
 つまりは、ACE阻害活性の数値と、人の体内での効き目は、イコールではない。

 原料段階でACE阻害活性がある、と言われて「じゃあ、効いているんだ」と納得する消費者もいるかもしれないが、科学者はだれも納得しないだろう。

 日本農芸化学会の「化学と生物」という雑誌で、松井利郎九州大学教授がACE阻害について解説しており、参考になる。

 実は、このかつお節オリゴペプチドについては、「自然の血圧をサポート」という表示が欧州食品安全機関(EFSA)に申請され、2010年に却下されている。EFSAの見解も公開されている。
 EFSAは理由として、人での科学的根拠はなく、in vitro、すなわち試験管内の試験や動物試験の結果も十分ではない、と説明している。ここでも、in vitroの結果と、人の体内での効果は、明確に区別されている。

 かつお節オリゴペプチドシリーズは、4品中3品が2001年に許可されている。当時は、食品の機能性研究はあまり進んでおらず、食品安全委員会もなく、トクホの審査はユルユルだった。人での試験で効果を確認することも求められていたが、信頼性の低い試験でも審査を通っていた。EFSAへの申請は、トクホとして認められた後に行われた。日本のトクホとしてはOKでも、EFSAでは論外の扱いだったのだ。

 豆鼓エキスについても、同社は「原料は、α-グルコシダーゼ阻害活性の必要値を満たしている」と説明するけれど、これもin vitroでの確認に過ぎない。かつお節オリゴペプチドと同じ論法が用いられている。

 EFSAの却下などの背景情報を知っていれば、日本サプリメント(株)の主張は、虚しく感じられてしまう。

●表示通り入っていないのは、健康食品のお家芸

 それはさておき。
 成分が、表示量どおり入っていない、というのは、健康食品業界のお家芸とも言える。たとえば2008年には、国民生活センターがコンドロイチン硫酸を含む健康食品について「表示量に比べて実際の含有量が大幅に少なかった」と発表した。

 最近では、消費者庁により機能性表示食品の買い上げ調査が行われ(といっても、2015年9月までに届けられた146件中17件のみが対象)、含有量が分析された結果、「機能性関与成分の含有量が、表示値を下回っている、若しくは過剰に含まれている」「同一製品にもかかわらず2ロット(又は2パッケージ)間でのばらつきが多い」などが明らかとなった。
 消費者庁の「機能性表示食品制度における機能性関与成分の取扱い等に関する検討会」第5回会合で報告されている。

 表示というのは消費者との約束事で、消費者はそれを見て購入するしかないので、こうしたルーズな業界体質は、改善を図ってもらわないといけない。

●機能性表示食品の審議に関係する可能性は

 今回の日本サプリメントの許可取り消しは、「トクホですら、こんなにいいかげんなのか」という印象を消費者に与えてしまったと思う。もう一つ、私は前述の機能性表示食品の検討会の審議に影響する可能性がある、と思っている。

 検討会の審議項目の一つは、「機能性関与成分が明確でない食品の取扱い」だ。抽出エキス等、天然成分の複合体であり、「食べたら効く。だけど、どの単独の化学物質がメインで効いているのかとか、複数の物質がどう作用して効いているかなど、確定できない」というものを、機能性表示食品として認めてほしい、というのが事業者の主張だ。

 まさに、日本サプリメントの「関与成分は表示通り含まれていませんが、効いています」という主張と重なる。
 検討会では、多くの委員が「認められない」と強く反発している。関与成分が不明ということは、なにがどの代謝系に作用しているのかまったく不明ということになり、安全性や機能性の考察が非常に難しくなる。さらに、関与成分が明白なら、それを主要指標、ものさしにして品質管理を行う術も出てくるが、ものさしなしでどう製造して行くのか。

 日本サプリメントは、ものさしとして原料のACE阻害活性やα-グルコシダーゼ阻害活性を持ち出したが、その考え方が科学的とは言い難いのは説明したとおりだ。もちろん、1社の2事例に過ぎず、これで機能性表示食品まで言及するのは、我田引水が過ぎるかも。でも、同社は業界では立派な大手でもある。「こんな業界に、関与成分が明確でない食品の機能性表示なんて複雑なことを任せて大丈夫?」。私はしばし、考え込んでしまった。

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