ホーム >  専門家コラム > めんどな話になりますが… > 記事

めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

NHKあさイチ紹介の「イノシシの刺身」、食べてはいけません

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2016年9月28日
9月27日放送のNHK「あさイチ」で、イノシシの刺身を紹介した場面

9月27日放送のNHK「あさイチ」で、イノシシの刺身を紹介した場面

9月27日朝、NHKの「あさイチ」島特集をぼんやり見ていて、驚いた。島のスペシャリストという写真家が、沖縄県・西表島の「イノシシの刺身」を紹介している。

肉の生食はリスクが高い。特に、野生鳥獣の肉の生食は極めて危ない。E型肝炎や肺吸虫症などさまざまなリスクがある。すぐに、あさイチのウェブサイトから、問題がある旨を投稿した。twitter(@waki1711)にも書いた。
刺身が紹介されたのは、放送開始後21分あたり。そして、1時間半の番組が終了する直前、「生食は危険。訂正してください」という別の方の投稿が紹介され、有働由美子アナウンサーが「イノシシの生食は、八重山福祉保健所が申請を受け付けた店でだけ提供できます。感染症の危険があるので、それ以外では食べないでください」と説明した。

えーっ、そんな許可、保健所が出すわけない!  NHKの言い分と、それに科学的な妥当性がなく「生は危険」と考える旨を再度、ツイートした。そして、八重山福祉保健所に電話。ところが、27日はまさに台風17号が通過中で、それどころではない。そのため今日28日午前、保健所に電話して、きちんと当事者である生活環境班に確認した。

担当者の回答は次の通り。

◆イノシシの刺身を出して良い、という「許可」はない
◆飲食店で、イノシシを生で出していることがわかった場合には、厚労省の野生鳥獣の衛生管理に関する指針(ガイドライン)に沿って「生はダメ」と指導している。
◆まんべんなく指導しているつもりだが、島は離れているので目が行き届かない部分はある。だが、出しているのがわかれば必ず「生はいけない」と指導している。
◆飲食店が野生鳥獣の肉を提供する場合には、食肉処理業の許可施設で解体されたものを仕入れなければいけない。飲食店が、飲食店営業の許可に加え、食肉処理業の許可を受ければ、とさつや解体、調理ができる。そのあたりのことが、混同され、「申請受け付けうんぬん」という話になったのではないか。
◆私は番組を見ていないが、yahooニュースなどを読む限り、なぜ、NHKがここまでの内容を流してしまったのか、不思議だ。

話は、この解答に尽きる。NHKは、せっかく指摘があったのに(おそらく、かなり多くの投稿が番組中、あったはずだ)、それを活かせず、さらに恥の上塗りをしてしまった。番組は、NHKオンデマンドで、有料視聴できる。

●E型肝炎、肺吸虫症……リスクは高い

イノシシをはじめとする野生鳥獣の生食は、E型肝炎や肺吸虫症等、さまざまなリスクがあり、多くの機関が注意喚起している。たとえば、下記のようなものがある。検索すれば、多くの自治体のウェブサイトで情報が出されていることがわかる。
国立感染症研究所 イノシシ肉の生食を原因に発生が続く肺吸虫症:鹿児島県産イノシシの筋肉における寄生状況の調査
厚労省・E型肝炎ウイルスの感染事例・E型肝炎Q&A
厚労省・ジビエ(野生鳥獣の肉)はよく加熱して食べましょう

「九州南部で発生する肺吸虫症例の約7割がイノシシ肉の喫食に起因する」と言われているそうで、国立感染症研究所と鹿児島県などの調査では、捕獲した7頭中3頭が陽性だったという。
E型肝炎については、関東、中国、九州地方で調べたイノシシの8〜42%が陽性だったと、厚生労働科学研究で報告されている。実際にイノシシの肉が原因とみられる発症例がある。
E型肝炎は、感染してすぐには症状が出ず、感染源を突き止めにくい。さらに、劇症化して死亡した例もある。怖い。

●野生鳥獣の生食は、法的禁止ではないが……

これらの寄生虫やウイルス等は、加熱すれば死ぬ。だから、どの行政機関も「生食はダメ」と言うのだ。野生でなく飼育されていても、感染する可能性がある。養豚場で飼われている豚も、E型肝炎に一定数、感染している。したがって2015年、食品衛生法に基づき、豚の肉や内臓の生食用としての販売や飲食店での提供は禁止された。

一方、イノシシの生食は法的には禁止されていない。安全だから禁止されていないというわけではなく、リスクは豚肉以上に高い。しかし、法的な禁止措置は、その徹底や監視など結構なコストがかかる。食文化ともかかわり「いちいち、おかみが食べる、食べないを決める社会なんて、まっぴら。もっと事業者や消費者の自主性に任せるべきだ」という意見も強い。

厚労省薬事・食品衛生審議会に設置された調査会で2013年から14年にかけてこのあたりが検討され、豚肉・内臓についてはE型肝炎による死亡例があり、提供する飲食店が増える傾向も見られ、公衆衛生上のリスクが高いとして禁止の方向性を打ち出した。
一方、イノシシを含む野生鳥獣については、市販品の流通量が少なく多くの人が食べる、という状況にはないこともあり、食品事業者への監視指導を強めて行くこととなった(調査会報告書)。

こうした検討の後に豚肉・内臓の生食は禁止に、そして野生鳥獣肉については八重山福祉保健所の担当者が触れた「ガイドライン」が作られ、厚労省や自治体などが「生食をしてはいけない」と強く呼びかけるようになっている。ただし、飲食店を実際に指導する自治体職員の間では、「弱腰過ぎる。事業者は聞く耳を持たないのだから、法律で禁止しないと危ない」という声も強い。

法律で禁止されていないから安全だ、食べていい、というふうに、飲食店に理解してほしくない。プロフェッショナルとしてしっかりと、食のリスクを知り、対応して欲しい。だが、そうではないプロもいる。

私は2013年、本欄で「生のジビエ料理なんて紹介しちゃダメ! 週刊文春さん」という原稿を書いた。飲食店にも問題がある。そして、イノシシの生食が危ないことなど、ネットで検索したらいくらでも情報が出てくるのに、公共放送が未だに紹介してしまう実態もある。
早く「肉の生食、特に野生鳥獣の肉の生は、絶対に食べてはいけない」を、市民の常識にしたいと思う。

⇒ めんどな話になりますが…記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM お役立ちリンク集