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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

子どもには力がある〜Z会の“挑戦”を聞く(3)

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2016年11月8日
出典:中1「総合」4月 P3

出典:中1「総合」4月 P3

Z会が中1・中2生向けに2016年3月に開講した通信教育講座「総合」。グラフの読み方や地球温暖化を詳しく解説して科学リテラシーを育てる月もあれば、オリンピックの功罪を検討して社会学的なアプローチを教えたり、表現の自由を考えさせたり、多彩な教育内容となっている。単に受験に打ち勝つテクニックを教えるのではなく、「人を育てる」ことがとても意識されているように思える。Z会の目指すものは……

お話しくださった方:情報誌の編集を担当する安西優子さん、冨田麻美さん、通信教育の教材作成を担当する中谷祐介さん、小澤碧さん、プロモーションを担当する池田節美子さん

グラフの読み解き方も教材に

同じグラフが見せ方でどう変わるかを示したページ。クリックで拡大できます 出典:中1「総合」4月 P4-5

同じグラフが見せ方でどう変わるかを示したページ。クリックで拡大できます
出典:中1「総合」4月 P4-5

松永 私は仕事柄やっぱり、科学リテラシーを育てる内容に目が向きます。中1生向けの4月は、「じっとグラフを見る」がテーマです。

小澤 「グラフは、誰かが、何かの意図を持って作っている」ということを、子どもの時から意識する、というのはとても大事なことだと思います。ウォーミングアップでは、同じデータであっても、こんなに違うということを見せて、考えてもらうようにしました。

松永 その後の「添削問題」では、少年の凶悪犯罪やいじめが増えているから、「道徳」という教科が必要だという主張についての設問。平成の少年凶悪犯罪は増えているように見えるけれど、戦後の長い経緯を見ると、実は凶悪犯罪は激減していることなどに、問題を解く中で気付くようになっています。さらにいじめの件数の推移をグラフで観察し、一方でいじめ対策として道徳の教科化が打ち出されたことを解説しています。
そして、最後の300字以内で書く意見論述問題で、『あなたなら、いじめ問題に対してどのような対策を打ち出すのがよいと考えますか。道徳を正式な「教科」にすることがいじめ問題にもたらす結果やその理由にも触れながら、300字以内であなたの考えを述べなさい』と問うています。つまり、グラフの適切な理解を踏まえて、心の問題や政府の施策にまで思考を拡げることを求めているわけです。

いじめ問題への意見を述べさせる問題 出典:中1「総合」4月 P15

いじめ問題への意見を述べさせる問題
出典:中1「総合」4月 P15

小澤 この論述問題に、絶対の「正解」なんてありません。この問題では、本やインターネットなどを使って自由に調べて書き、その際には必ず「どこから調べた情報なのか」という出典を示すように求めました。調べて行くと、道徳の正式教科化に賛否両論があることを子どもたちも知るはずです。大切なのは、「対策の結果についての自分の推測」「そういった結果に至る理由」「理由を裏付ける根拠」を論理的に説明することなんです。

松永 科学リテラシーって、化学物質が危ないか、危なくないか、とか、環境影響が大きいとか小さいとか、現在の科学的知見に沿って「正しいか正しくないか」を判断しなければ、みたいな話に矮小化されてしまいがちなのです。でも、実はそうじゃない。科学リテラシーは結局は、どんな社会をどういうふうに作って行くか、という問題そのものに直結しています。子どもたちの思考をきちんと、そちらの方向に伸ばすように工夫されているので、素晴らしいなあと思いました。

学校で教わらないことを、教えたい

お話をうかがったZ会の(左から)中谷さん、安西さん、冨田さん、池田さん、小澤さん

お話をうかがったZ会の(左から)中谷さん、安西さん、冨田さん、池田さん、小澤さん

松永 小澤さんは前回お目にかかった時に、京都大学の理学部ご出身で大学院へ進まれて博士号の学位も持っておられる、とお聞きしました。Z会の教材作成においては、科学コミュニケーションに力を入れているのですか?

小澤 Z会の教材制作に携わる人の多くは、理科、数学、…といった教科のスペシャリストで、教科の面白さを子どもたちに伝えたいという情熱をもっています。とくに、理科教育に熱心な人の中には、科学コミュニケーションを意識して入社してくる人もいますよ。

松永 人材がたくさんいらっしゃるから、ここまで深い内容の講座ができるのでしょうね。中2生向けの教材では、「表現の自由」をテーマにした回があります。インターネットの時代の表現の自由の話から実際の社会問題についても取り上げています。とてもタイムリーです。

中谷 できるだけ多くの「気づき」を提供してあげたいと考えています。中学生くらいの子どもたちの多くは、「疑う」ということに鈍感です。書かれていること、教えられることは全部正しい、と思っている。そうじゃないよ、全部正しいなんてことはないんだよ、思考力・判断力・表現力を働かせていくことが大切なんだということに気づいてもらいたい、と思っています。

松永 それって、「学校も疑う。先生も疑う」ということにつながりそう。結局、子どもたちは学校でいろいろとおかしなことが起きている、先生も往々にして間違う、ということを知っています。なのに、「学校はすべて正しい」みたいな建前で、学校生活は成り立っていて、子どもたちも従わなければいけない状態です。

小澤 学校では教え辛いことも教える、というのは私たちの強みですから。

中谷 それに、「疑ってほしい」というのは、決して「否定してほしい」ということではありません。そうではなくて、情報に対して自分のフィルターを通して考えてほしいということです。だからこそ、「総合」では、簡単には答えが出ない問題、答えがない問題を出題したいと考えています。

子どもたちの思いを聞き、取り入れる

冨田 「正解がない」ものを考えることに価値がある。こういうことを保護者にもわかっていただきたいのですが、現実にはなかなか、というところもありますね。まだ時間がかかります。

プロモーションを担当する池田節美子さん

プロモーションを担当する池田節美子さん

池田 ただ、保護者の中には「自分で考える習慣のないまま、受験用の学力だけ付けていい大学に入って自立できるのか? 勉強できるだけではダメ」と考えている方もいらっしゃいます。

安西 そういうこともあって、最初にご紹介した情報誌「Z3」は、中高生本人だけでなく、保護者にも読んでもらいたいと思って作っています。家庭での話題にしてほしい。

松永 お話をお聞きして強く思うのは、皆さん方が子どもを信じているのだなあ、ということです。「中高生なんて、幼い。こんなものだ」ではなく、きちんと情報を提供して思考の筋道を作ってあげたら、深く考えることができる、自分の世界をどんどん拡げて行ける、無限の力がある、と信じているから、大人として知恵を振り絞り、挑んでいる、という感じがします。

安西 勉強して受験をくぐりぬけて大学生になって、「自分がなにをやりたいか、わからなくなっている」という人たちがいます。とにかく受験が大事、まじめに学校生活を過ごすことが大事で、すごく閉ざされた世界で生きてきて、社会とのつながりを実感しないまま成長してしまう。そうではなく、中高生という一番多感な時期にこそ、学校以外の社会との接点をもつことで、自分の関心のありかや将来の進路が見えてくるのではないかと私たちは考えているんです。

冨田 同時に、中高生の意見もきちんと聞く。子どもたちとの双方向の関係性を作っていこうといろいろ工夫しています。特集企画を作る前に必ずアンケートをとるのも、中高生に「この特集には、自分の意見も反映されている」と思ってもらいたいからです。情報誌の創刊号では、18歳選挙権について、高校生や大学生を集めて座談会をして掲載しました。大人からの押しつけでなく、同年代のリアルな考えが反映されていると、読者も「自分の考えと同じ」とか「この子は、もうここまで考えているんだ」などと感じます。情報誌やウェブサイトでの交流などを、中高生の「気付きの場」として機能させていきたいのです。

多数決は正しい? 考え踏み出す力を与えたい

ゼットキューブ第3号の特集は『「合意形成」はなぜ難しい?』 出典:ゼットキューブ第2号 P97

ゼットキューブ第3号の特集は『「合意形成」はなぜ難しい?』
出典:ゼットキューブ第2号 P97

安西 先日、情報誌第3号の特集のために、アンケート調査で「メンバーの意見を反映し、みんなが納得いく、よい決め方だと思うもの」について尋ねてみたのです。まだ集計が終わっていないのですが、多数決に関して、「よい決め方だと思う」という回答が多いです。でも、別の質問では、多数決でうまくいかない経験も持っている。面白いエピソードを教えてくれた中学生がいました。35人のクラスで学級目標を決めるのに、1人1案出して、それを多数決で決めたことがあったそうです。それだと、2票で学級目標が決まる可能性だってあるんですよ。多数決をしたけれど、意見が分かれてしまって、もめにもめて、でもやっぱり、一番投票数の多いものに決めた。みんなもやもやしているのに、そう決まってしまった、という。

松永 すごく面白い話ですね。いろいろな学校で同じことが起きていそうです。なんだかおかしな気がするけれど、「多数決すればいい」と思い込んでいる感じ。

安西 多数決以外の方法を知らないから、「こんな決め方で本当にいいのかな」ともやもやしても、どうしたらいいのかわからないんですよね。
そういう例って、まだまだあるように思うんです。深く考えずに「そういうものだ」と受け止めていて、時々「あれ?なんだか変だぞ」と違和感を感じながらも、それ以上深く考えてはいないということが。疑似科学もその典型ですよね。
漠然とした違和感をうまく見つけ出して、「きみはどう思う?」と尋ね、別の考え方もあることを提示する。大人がしていることだって、正しいとは限らないと知ってもらう。
その繰り返しによって、ただ従順に日常生活を過ごすことをよしとせず、立ち止まって考える習慣を育てることができるのではないでしょうか。それが、子どもたちのもつ力を引き出すことになるのかなと思っています。

松永 おそらく、多数決はよい決め方か、なんて中高生は尋ねられたことがないはずですよ。Z会のアンケートで尋ねられてドキッとした子どもが多いのでは。そういうことが、物事を疑ってみる思考につながるのかもしれません。
私もお話をお聞きして、いろいろなことを考えさせられました。FOOCOM.NETの読者で刺激を受けた、という人もとても多いと思います。私なりの科学コミュニケーションにも活かして行きたいです。どうもありがとうございました。

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