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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

機能性表示食品、消費者と事業者の間の暗くて深い川は…

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2017年1月12日

 2016年1月から開かれていた「機能性表示食品制度における機能性関与成分の取扱い等に関する検討会」(以下、検討会と呼ぶ)が11月末、第11回の会合をもって終了し、12月末に報告書がまとめられた。

 前回のコラムにも書いたが、学識者や消費者団体から選出された委員が事業者の姿勢を追及し、とくに、消費者団体から選出された委員が事業者の「倫理」を厳しく求めたのが印象的だった。
 報告書も結局わざわざ、「事業者の責務」という項目を設けて、次のように記している。

本制度は、企業等の責任において届け出る制度であり、消費者の信頼があって初めて成り立ち得る制度である。平成27年度に実施した「機能性表示食品に係る機能性関与成分に関する検証事業」における買い上げ調査の結果、機能性表示食品の品質管理上の課題が見られた。届出者等には、届出前の届出資料の確認、品質管理、事後的な機能性及び安全性に関する科学的根拠の確認など届出者等自らが倫理観を持って本制度の信頼の確保のために努力することが求められる。

 こうした報告書が、事業者に「倫理観を持て」と書くのは異例のことだろう。

●全国消団連が、糾弾の意見書

 全国消費者団体連絡会(全国消団連)事務局長の河野康子さんは、検討会会合で何度も事業者の姿勢を追及した。全国消団連は同年9月、消費者庁長官や消費者委員会委員長、国民生活センター理事長などに対しても、制度改善を求めて意見書を提出している。

 2015年度に消費者庁が行った二つの検証事業で、製品に相当な不備があることが明らかになっている(一部は、消費者庁のウェブサイトで報告書として公表されている)。買い取り調査で、機能性関与成分の表示含有量を下回るものがあることもわかった。消費者庁は不備を把握しているのに、製品名などを発表しない。そして、「消費者の誤認を招かない、自主的かつ合理的な商品選択に資する表示制度」という。これでは、消費者団体が怒るのも無理もない。

 全国消団連は、全国の消費者団体の寄せ集まりだから、さまざまな意見書を出すにあたって対立し紛糾してしまうことが普通だ。ところが、機能性表示食品に関しては各団体揃って「とんでもない制度。なんとかしなければ」の大合唱になっているそうだ。

●学識者が指摘する企業の倫理

検討会第8回資料より

検討会第8回資料より

 学識者の事業者への不信感も強い。検討会委員を務めた佐々木敏・東京大学大学院医学系教授は、検討会第8回会合で「消費者教育」の材料として、研究における利益相反問題を指摘した。
 甘味飲料についての「メタ・アナリシス」を行った論文を集めてさらに解析した論文を基に、企業が資金を出している研究は、企業にとって都合の良い結果が出やすい、ということを説明したのだ。
 機能性表示食品は、企業が行った臨床試験1報で、その企業が機能性を表示できる制度。佐々木教授は「消費者庁さん、大丈夫ですか?」と問いかけた。まさに、事業者の倫理が問われていた。

●消費者委員会でも、問題に

 昨年9月に開かれた消費者委員会の第233回本会議でも、機能性表示食品制度が取り上げられ、複数の委員が「科学的根拠が不十分なまま、不適切な品質管理によって製造された商品が、健康に関与する成分としての効果、そして、安全性が担保されているとして、既に販売されている」などと問題点を指摘した。

●規制改革推進会議ワーキング・グループは…

 ところが、内閣府規制改革推進会議になると検討の中身が一変する。もともと、機能性表示食品制度は、規制改革推進会議の前身である規制改革会議でプランが出され、創設されたもので、産業振興の色合いの強い制度である。

 16年12月14日に開かれた医療・介護・保育ワーキング・グループの第6回会合でも、検討されたのは届出に係る改善策についてのみのようだ(会合は公開されず、議事録が公開されているだけなので、実態はわからない)。消費者庁が制度を説明し、事業者側の2団体が要望を伝えた。日本通信販売協会の資料が議事録によれば、制度は消費者のメリット(自主的、合理的な製品選択に資するもので、製品の安心・安全が大幅に強化される)、行政のメリット(産業振興・健康長寿の延伸に寄与など)、事業者にメリット(分かりやすい表示で差別化、収益の拡大に寄与)で、「三方よし」だという。

 なるほど、一つの制度であっても、立場が違えば見方はまったく異なるものだ。消費者や学識者、消費者委員会では、制度自体への批判が強く、事業者の倫理を厳しく問うていても、それがなかったかのように、別の場では事業者の見る“メリット”が語られる。

●業界誌が、規制改革推進会議の利益相反に疑い

 政府に対する影響力が圧倒的に強いのは、検討会ではなく規制改革推進会議だ。だが、健康食品業界からも異論が出ている。規制改革推進会議ワーキング・グループの非公開の会合の後、内閣府規制改革推進室が記者説明会を行った。その際、業界誌の記者が「ワーキング・グループの一部委員が利害関係者に該当するのではないか」と質問したという。機能性表示食品制度の届出に必要な研究レビューを請け負う協会の副理事長を務めている大学教授や、機能性表示食品を販売する企業の副社長が、ワーキング・グループのメンバーとなっている。

 業界誌があえて、こうした視点から利益相反について質問し、ウェブメディアでも記事化した。私自身の取材でも、「このままでは良くない」「消費者からの信頼を得られなければ、市場拡大は望めないのに」という事業者もいる。でも、その数は決して多いわけではない。

 混乱を抱えたまま、機能性表示食品制度はもうすぐ3年目に入る。歌の文句ではないが、消費者と事業者の間には、すさまじく暗くて深い川がある。私は、消費者が実態を知らずに製品を買わされている、と考える。この状態をこのままにして産業振興できる、と政府や事業者は本気で思っているのだろうか。

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