ホーム >  専門家コラム > めんどな話になりますが… > 記事

めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

放射性物質検査、「安心」から効率化を考えるステージへ

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2017年2月2日

 食品中の放射性物質の今後の検査のあり方を考えるリスクコミュニケーションが1月30日、福島県郡山市で開かれ、来年度の国の検査の方向性が明らかとなった。前回のコラムで予告したとおり、これまでとかなり大きく異なる方針案が示された。

 農水省の担当者は「これまで、検査をしているから安心という考え方のステージだった。しかし、この5年あまりの検査の結果、放射性セシウム濃度は非常に低くリスクが低いことがわかってきた。検査の効率化を考えるステージに移行する時期ではないか」と聴衆に語りかけた。今後、リスコミや関係各団体の意見聴取などを経て、方針が決まる。国からの提案の中身を説明しよう。 

●放射性セシウム濃度は著しく下がっている

 検査は、原子力災害対策本部の策定する「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方 」(ガイドライン)を踏まえて、自治体が計画をたてて実施する。2011年4月に策定され、実情に合わせて何度も改正されてきた。この4年ほどは、年度末にその年度の状況をみて見直しが行われてきた。消費者の不安を招かない手厚い検査、という方針は一貫していた。
 昨年3月に改定された現ガイドラインでは、検査対象品目は(1)前年度に基準値を超える放射性セシウムが検出された品目(2)前年度に、基準値の1/2(一般食品では50Bq/kg)を超える放射性セシウムが検出された品目(3)飼養管理の影響を大きく受ける品目(乳、牛肉)等(4)水産物(基準値の1/2を超える放射性セシウムが検出された品目)……としている。
 また、各自治体において計画的に実施するものとして、摂取量上位品目/主要産品/出荷制限解除品目/市場流通品などを例示している。

 このガイドラインを踏まえ、米や野菜、牛肉など多品目が検査され、年間20万件以上の検査が行われていた。
 しかし、多くの食品は検出限界未満となっている。FOOCOM.NETでも既に、コラム「5年を経た今、食品から放射性セシウムは検出されていない」等で、結果を紹介している。
(自治体によってはこの枠組みを外れた検査も行っており、福島県の米の全量全袋検査は、このガイドラインには規定されない自主検査。こうした別枠の検査でも、放射性セシウムがほとんど検出されない、という傾向は同様だ)

 たとえば牛肉は、原発から放出され降下した放射性セシウムが付いた稲わらを与えられた牛の肉が当初流通したために、大騒ぎとなった。現在は、放射性セシウムが降下する状況にはなく、飼料の管理も進み、放射性セシウムが高い濃度で検出される可能性はほぼない。だが、牛肉は検査され続けている。基準値超えは2011年度だけだったのに検査され続けるのは、もちろん消費者の不安解消の意味合いも大きいが、ガイドラインの「飼養管理の影響を大きく受ける品目」であり、「摂取量上位品目」や「主要産品」等に該当するためでもあった。

 今も、検査し続けて欲しいという要望は、消費者の一部にたしかにある。一方で、企業やスーパーマーケットなどへの消費者の問い合わせは激減しているという。農水省の関係75者(消費者団体、食品事業者、生産者団体、輸出促進団体、マスメディア等)との個別情報交換の結果、検査縮小に肯定的な意見が約4割、はっきりと現状維持を求める意見が約1割だったそうだ。

 それに、検査にはコストがかかる。農水省の調べでは、17都県がこれまでにかけた費用は40億円。少ないように感じられるが、実はこの中には人件費が含まれていない。莫大なコストをかけて、ほとんどの食品が検出されないという結果を得ているのが実状だ。

●栽培/飼養管理が可能な品目群は、検査を縮小

 こうした状況を踏まえ、1月30日の福島でのリスコミで説明された来年度の検査方針案は次のとおり。

A 検査対象品目の分け方
現状は、全品目共通となっているが、栽培/飼養管理が可能な品目群と困難な品目群では、放射性物質の検出状況が大きく異なっていることから、栽培/飼養管理が可能な品目群(野菜、果実類米、麦、肉、卵、乳、栽培きのこ、栽培山菜など)と、栽培/飼養管理が困難な品目群(野生の山菜、野生のきのこ、野生鳥獣類、水産物、はちみつなど)に分け、検討する。

B 検査継続の目安の明示
「栽培/飼養管理が困難な品目群」については、従来どおり、17都県で検査を実施する。一方、「栽培/飼養管理が可能な品目群」については、前年度どころか、かなりの期間、基準値の超過事例がないものについても検査が行われているため、検査を継続する目安を示す。具体的には、都県ごとに直近3年間の検査がすべて1/2 (一般食品では50Bq/kg) 以下になるまで検査を継続する。

 ただし、原木きのこ類(伐採した木に種菌を植え付けて栽培管理するもの。しいたけやなめこ等がある)は、栽培/飼養管理が可能なものだが、伐採した木を用い、比較的高めの数値が出る場合もあることから、栽培/飼養管理が困難な品目群と同じ扱いとする。

C 検査対象品目の例示の見直し
摂取量上位品目、主要産品、市場流通品などを削除する。

●会場からは、反対意見

 会場には参加申込者60数人と関係者など計80人あまりがいて、説明に聞き入った。ディスカッションでは、パネリストから、これまでの結果に基づく検査効率化に賛同する意見が多く出た。登壇した私は、AとCについては賛成だが、Bについてはわかりにくい、と考え、直近3年間を根拠とする意味を尋ねたが、「単年度では判断できない。継続した推移を見るため」という説明はあったものの、なぜ4年ではなく2年でもなく3年なのか等、明確な理由は示されなかった。

 これまで、前年度の検査結果を基に、ガイドラインで「検査するべきもの」を示していたのに、自治体は対象外の品目の検査も止められなかったのだ。だから、止める目安を示す、ということだが、裏を返せば、「前年度に基準値の1/2を超えていなくても、引き続き2年間は検査し続けなければいけない」と明示することになる。

 実際には、既にほとんどの食品が3年、4年とこの条件をクリアしており「もう検査、止めても良いです」というメッセージなのだが、前年という単年度の結果を判断の基準としていたのが3年に拡張した、とも受け取れてわかりにくく、根拠があやふやに感じられたのはたしかだ。

 自治体がBに従ったときに、どれくらいの検査が減るのか、つまり年間20万件の検査が、どれくらいの件数にまで減るのか、試算の数字があればよりわかりやすい、と考えて質問したが、試算はされていなかった。

 ただし、これらは細かい話。大筋で、牛肉や野菜類、果物類など、放射性物質が新たに降下しない限りはもう、原発由来の放射性物質の含有が考えにくい多くの食品が、検査対象外として明確に位置づけられる。この検査を縮小しても、環境省が50年以上続けている環境・食品中の放射性物質調査や、厚労省の摂取量調査などによるモニタリングは続く。
 ガイドラインに基づく検査の縮小は、科学的根拠に基づくリスク管理としては、大きな前進と思う。

 これに対して、会場の消費者からは「今までどおり、検査を続けて欲しい」という意見が複数出た。「ひと一人の命は地球よりも重い。一人の命を救えるのだったら、40億円は全然多くない」と言った消費者もいた。消費者団体の幹部の方は、「今後も検査は長く継続を」と願う人が多い、というアンケート結果を示した。

 不安から来るそういう心情は、わからないでもない。だが、食品中の放射性セシウムの濃度や、ほかの原発由来の放射性物質の濃度は、「命」などと語るような大きなリスクではない。国や自治体の検査結果なんて信じられない、という人もいるが、生協や企業等の検査結果も、国や自治体の検査とほぼ一致している。
 食品が抱える微生物由来の食中毒や重金属、天然由来の発がん物質等のリスクに比べれば、原発由来の放射性物質のリスクははるかに小さい。反対するにせよ、リスクの科学的な評価についてはわかってほしい、それを踏まえて心情から来る反対論について堂々と展開してほしい、と願うのだが、一部の消費者にはなかなかリスクを理解してもらえない。なんとももどかしい。

 2日に東京会場であったリスクコミュニケーションでも、検査縮小に反対意見が多く出たことが、毎日新聞で報じられている。
 一方で、これまでの個人的な取材経験等も踏まえれば、それが消費者を代表する意見ではない、とも私は考える。昨年、福島県と消費者庁共催で行われた2回のリスクコミュニケーションでコーディネーターを務め、約600人に参加していただいたが、会場から「検査縮小した方がよい」という意見も出た。

 おおかたの消費者の心はどこにあるのか? 生産者や食品事業者等の本音を聞くことも必要だろう。諸外国の中には、放射性物質を理由に日本の食品の輸入制限を行う国がまだ残る。そうした国を説得できるような根拠を示し続けることも大事だ。
 今後、さまざまな意見聴取を基に、農水省はさらに検討し他省庁とも協議し、最終的に原子力災害対策本部が今年度末、ガイドラインを決定することになる。

⇒ めんどな話になりますが…記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】
FOOCOM お役立ちリンク集