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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

NHKのコラーゲン番組への疑問

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2017年3月15日

 NHKの番組「ガッテン」が、睡眠薬を用いて糖尿病の症状改善を図る、という内容を流し、3月1日の放送冒頭で謝罪しました。この睡眠薬は、糖尿病患者の症状改善に処方できるものではなく、厚労省も口頭で指導したと報じられています。

 しかし、今回取り上げるのはこの話ではなく、お詫びの後に放送された「決定版!コラーゲン100%活用SP」。これもまた、科学的な妥当性を疑われる中身でした。

●注目されているのは、特定の「ペプチド」の効果

番組では、「効く」を信じている、という意見と信じていない、という意見があることを最初に示し、でも「スーパーパワーあり」と断言します。根拠として示されたのは、次の通りです(番組は、NHKオンデマンドで見られます)。

(1)6人に食べてもらって影響をみる。→3人が効果あり
(2)コラーゲンの破片が、繊維芽細胞の増殖を促進している可能性(細胞実験の結果)
(3)褥瘡予防に役立つ可能性(日本褥瘡学会誌報告)
(4)京都大学教授の「ダメージがある人がとると効く」という話
(5)大学駅伝部が、コラーゲンを積極的にとっている
(6)ディレクターが、わざわざ、やすりですり傷を作ってコラーゲンを食べた時と食べなかった時の傷の治り方を比較。食べた方が、治りが早い。
(7)関節の軟骨破壊を抑制する、という研究結果があり、ドイツでは医療現場で関節炎に使われている
(8)愛媛大で、コラーゲン1日5g摂取で血管年齢が5歳若返ったという試験結果
(9)国立健康・栄養研究所のデータベース「健康食品」の安全性・有効性情報では、効果あり、となし、の結果の両方が示されている。コラーゲン研究は、研究が進められている途中のもの。
(10)手軽にとる方法。ゼラチンと同じだが、コラーゲンの方が血中への吸収量は1.8倍(ガッテン調べ)。でも、ゼラチンを料理に使う方法が紹介される

一つ一つ検討してみましたが、どうもいろいろごまかし、飛躍があります。それに、一番重要なことを、きちんと説明していないと思えます。

現在、コラーゲンのメカニズムとして一般に考えられているのは二つの機能です。一つは、アミノ酸を体に補給する役割。コラーゲンはたんぱく質でアミノ酸が大量につながったもの。分解されてアミノ酸になりそれがまた、たんぱく質の再合成に使われます。しかし、この場合には、肉や魚のたんぱく質と役割はなんら変わりありません。コラーゲンが分解されたアミノ酸が、コラーゲンになりやすい、というわけではありません。

もう一つ、最近注目されているのが、たんぱく質が分解されてできるペプチド(アミノ酸が何個かつながったもの)。これが、特定の生理活性を持ち、細胞に対してシグナルを伝えることで、特定の代謝生合成系に作用するのでは、というのです。各種のペプチドが、体内でさまざまな働きをしていることが今、どんどん分かってきており、ペプチド創薬も盛んに研究されています。コラーゲンのペプチドも、可能性はあるのです。

従来、「コラーゲンは分解されてアミノ酸になるのだから、お肌の改善などに効くはずがない」と切り捨てられてきましたが、実はこの説はちょっと時代遅れ。とはいえ、コラーゲンからできたペプチドの生理活性物質としての効果はまだ、細胞実験や動物実験のレベルの段階でわかってきたにすぎず、「人に効く」と確かな根拠を持って言える状態にはない、というのが私の認識です。

本来、こういうことをきちんと分けて説明すべきだったのに、番組作りはごちゃごちゃ、グダグダ、としかいいようがないものになっていました。

●挙げられた“根拠”を一つずつ検証!

6人の試験参加者は、コラーゲンをとっていることを知って食べており、コラーゲン摂取以外の生活が大きく変わっている可能性もあるため、試験結果は参考にもならない(番組の一場面のスクリーンショット。以下同じ)

6人の試験参加者は、コラーゲンをとっていることを知って食べており、コラーゲン摂取以外の生活が大きく変わっている可能性もあるため、試験結果は参考にもならない(番組の一場面のスクリーンショット。以下同じ)

 伝えられた中身を、順を追って見てみましょう。もちろん、(1)6人に食べてもらった、とか(6)ディレクターがすり傷を作って、治り方の速さを比較した、とか、実験としてはなんの意味もありません。対照群がなく、ブラインド試験でもなく、思い込みによるバイアスが非常に大きくかかります。とくに、(6)のわざわざ傷を作って「効果があります」というのは、コラーゲンを食べた時と食べていない時と、食べる以外の条件が同じ、という保証がまったくないのに「そこまでやった」体験談としてのアピール力は強く、テレビ番組特有の極めて悪質な印象操作、だと思います。

細胞試験の結果。人で効くかどうかは、細胞試験ではわからない

細胞試験の結果。人で効くかどうかは、細胞試験ではわからない

(2)については、番組で紹介されたグラフに出典が記載されており、調べたところ論文が見つかりました。コラーゲンを食べた後に、消化され血中に出てくるペプチド(プロリンと水酸化プロリンがつながったもの)が、マウスの皮膚細胞からとられた繊維芽細胞の増殖を促した、という内容です。
しかし、これはあくまでも細胞実験での話。人の体の中で同じことがおきるかどうかは不明。調べましたが、人で実証した研究は見つかりません。

J Agric Food Chem ・Effect of Prolyl-hydroxyproline (Pro-Hyp), a food-derived collagen peptide in human blood, on growth of fibroblasts from mouse skin.

(3)の褥瘡予防への効果は、それなりに研究が行われているようですが、メカニズムに至る、というよりも「食べてもらったら効いているようだ」というタイプの研究がほとんど。褥瘡予防以外の効果の実証にはつながりません。

メディカルオンラインで、二つのワード(褥瘡・コラーゲン)で検索

(4)は、(2)の研究を行った京大農学部教授が登場。コラーゲンを食べた人で、コラーゲンペプチドが血液中から見つかったという研究に名を連ねていますが、試験参加者数は少なく、まだ予備的実験です。人でのメカニズム解明に至る介入試験には至っていません。なのに、効果は確定的だと言わんばかりの話しぶりに疑問を持ちました。

同じような研究をしている城西大学の研究者が、「コラーゲンペプチドの食品機能性」という総説を、日本食生活学会誌に書いています。日本語でわかりやすく、人体での作用メカニズムはまだ不明であり基礎研究が必要であることが明確に書かれていて、好感が持てます。

(5)も単なる体験談、(6)はダメ、(7)は番組に登場した研究者のフルネームすら示されない始末です。しかし、説明した時に示したコンピュータ画面にStimulation of Cartilage by FORTIGELとあったことから、FORTIGELで検索して、いろいろわかってきました。FORTIGELは、ドイツのGelitaという企業のコラーゲンペプチド製品。Gelitaは、グミやマシュマロなどの原材料としてゼラチンを提供し、機能性を持つ成分としてコラーゲンペプチドも供給しており、この企業のパンフレットに根拠として示されている図にあるOesser という科学者がどうも、NHKでもエッサー博士として登場しています。

FORTIGELの試験結果。FORTIGELは製品名なので、一般的なコラーゲンでこうした効果が示されるかどうかは不明

FORTIGELの試験結果。FORTIGELは製品名なので、一般的なコラーゲンでこうした効果が示されるかどうかは不明

FORTIGELは、パンフレットによれば、ランダム化二重盲検群間比較試験がいくつも行われて効果が実証されているとのこと。学術論文として発表されている研究もありますが、試験の参加者数は多くなく、また、研究資金がGelitaから出ていますので、その効果の妥当性については割り引いて考える必要があります。

 

番組構成上、引っ掛かるのは、関節の軟骨破壊を抑制するなどの効果は本当だと仮定しても、あくまでもFORTIGELという特定の製品の結果であるのに、番組ではコラーゲンの効果というふうに一般化されていること。Gelita社は、牛の皮や骨、豚の皮や魚から特別な技術で抽出し酵素処理して濃縮精製した製品であることを強調しています。製法、とくにどのような酵素でどう処理するかで、できるペプチドはかなり変わってくるはず。この製品と、そのあたりに売っているあまたあるコラーゲン製品を同じとして扱って良いの?

●言い訳、保険のテロップ、説明が盛りだくさん

傷の治り具合をみているが、科学的には意味がない。わざわざ「コラーゲンサプリは食品」と言い訳が字幕で流れた

傷の治り具合をみているが、科学的には意味がない。わざわざ「コラーゲンサプリは食品」と言い訳が字幕で流れた

(8)(9)(10)……。もう説明はこのあたりでいいですね。前回の糖尿病と睡眠薬の問題で懲りたのか、ところどころで言い訳、保険的なテロップや説明が挟まるのが、笑えました。
「効く」と言っている人の横に小さく「コラーゲンサプリは食品です。薬のような効果が保証されるものではありません」という、まるで、健康食品の通販番組のようなテロップが付きます。さらに、さんざん「すごい効果」といいながら、突然、国立健康・栄養研究所のデータベース「健康食品」の安全性・有効性情報で、コラーゲンが「効く」という報告と「効かない」という報告があるという整理になっていることを紹介し、研究が進んでいる途中なのだ、という説明をします。見ている人たちは、いったいどっちやねん? とテレビ画面にいっせいにツッコミを入れたことでしょう。

●ゼラチンを食べろ、は無理がある

結局、コラーゲンに含まれる特定のペプチドの生理活性効果を語ることと、一般的なコラーゲンやゼラチンを食べることをごちゃごちゃにして「効果あり」「スーパーパワー」などと言っているようにしか私には思えませんでした。

以前、企業の方と偶然、コラーゲン研究の話になり、「うちは、特別な原料のコラーゲンのみを使って、製品を作っている」という話を聞かされたことがあります。その原料を、その企業ならではの製法で作った製品は、「効く」という愛好者、リピーターがいて、着実に売れるのだとか。原料を変えても製法を変えてもダメ。したがって、その原料、製法だから産まれるペプチドがあって、それが効いているのでは、という仮説が立てられ、研究している、というのです。
製品の広告宣伝には十分注意して、特定の効果があるような伝え方はしていない、とか。
なるほど。それなら、科学的にはあり得る話です。

企業人のそんな苦労と仮説を聞いたことがあったので、なにもかも一緒くた、最終的にはゼラチンを食べろというおおざっぱ、かつ無責任な番組作りに、不快感を覚えました。
救いは、最近、この手の番組で食品が取り上げられても、以前ほどの爆発的な売れ行きにはつながらない、という事実です。以前は、テレビ番組で取り上げられた翌日には店頭から消える、というような現象がありましたが、今はさほどの効果はないようです。さすがに、飽きられているのか。いや、テレビの視聴率が下がり、内容が信用されなくなっている、ということか。
さて、ゼラチンの売れ行きは、どうでしょうか? それにしても、NHKさん、こんな番組を作ってしまうとは……。嘆息しか出ません。

 (3月2日発行のFOOCOM有料会員向けメールマガジン第289号より抜粋しました)

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