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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

農薬、添加物をdisる農水省広報誌に驚いた

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2017年6月1日
あふ5月号。体裁は立派な広報誌なのだが……

あふ5月号。体裁は立派な広報誌なのだが……

 ひさしぶりに農水省の広報誌「aff」(あふ)を見た。あんまり面白いとは言えない雑誌なので、時たましか見ない。そして、5月号 に仰天した。農水省は、多くの生産者を貶めて、思い込みの情報、科学的には間違った情報を拡散している、と私には思えた。税金を使ってどうしてこんな広報をするの? 皆さんはどう思われるだろうか?

●食の安全と外食の原産地表示、関係ある?

 たとえばP10。こう書かれている。

90年代〜2000年代初頭にかけて発生したBSE問題や、2002年に発生した輸入農作物の残留農薬問題、2000年代以降相次ぐ食品偽装問題など、食の安全を脅かす問題が頻発し、消費者が食の安全性に高い関心を寄せるようになりました。とくに 外食産業に対し原材料の原産地表示を求める声は強く、農林水産省は2005年に「外食における原産地表示に関するガイドライン」 を整備。消費者に対する外食産業 への信頼回復を促すよう努めてきました。

 産地で安全性は識別できない。国産だって、きちんと衛生・安全管理をしていなければリスクは高い。中国産であっても、国内の工場より高い衛生管理を行っているところがいくらでもある。
 そもそも、外食産業の原産地表示は、提供した国内の飲食店がウソをついていたから消費者は怒ったのだ。なぜそのことを、安全の話と結びつけるのだろう。

●農薬使用量を低減しているから、安全性が高いわけではない

 あるいはP11。こんな文章がある。

表示に留まらず、原材料のトレーサビリティや安全基準をより高いレベルで実現している企業もあります。居酒屋「○○」「△△」など多くの外食店を持つ○○グループは、食材の安全性に強いこだわりを持ち、農薬使用量を低減した野菜など食材の独自基準を設定。基準を満たしているかを確認するための検査機関も社内に設置し、結果を公表しています。

 事業者をことさらに非難するつもりもないので、店名や企業名は伏せた。この文章では、農薬使用量低減=より高いレベルの安全、というふうにしか読めない。しかし、残留農薬が基準以下であれば、リスクは検出できない。農産物にリスクをもたらす可能性のある要因(ハザード)は、残留農薬だけではない。カビ毒、微生物、重金属等、さまざまある。とくにカビ毒は近年研究が進んでおり、健康リスクが高いものもあるため、それを制御するために農薬を効果的に使った方が良い場合もある。低農薬=安全ではない。

 そもそも農薬は、高温多湿で病害虫の多い日本では、高品質の農産物の安定生産に不可欠であり、だからこそ農水省が厳しい規制をかけてリスク管理しているのではないか。自分たちで「必要な場合に適正に使って安全を守り、高品質の農産物を安定生産しましょう」と生産者に言っておきながら貶めるとは、組織内で自己矛盾をきたしている。

●添加物は、ボツリヌス菌増殖防止のためにも使われている

 P18の記事も気になった。無添加ソーセージの販売に取り組む生産者を紹介している。そこにあるフレーズはこんな感じ。

子どもにも安心な豚肉と加工食品を。
自分たちの子どもを授かったときから、より強くなった安心安全な “食”への思い。 父母の視点から取り組む自社豚肉の無添加加工食品に、子育て世代を中心としたファンが増えています!

妻の◆◆さんが離乳食を始めるにあたりいろいろ調べたところ、肉の加工品は添加物が多いことを知りました。そして、着色料や化学調味料などの添加物を使用していないソーセージは高価で、子育て世代が手軽に購入できない現実と直面したのです。 「安心して子どもに食べさせられる無添加のソーセージをうちの豚肉で作って、購入しやすい価格で販売したら?」。まさに、消費者目線の◆◆さんの提案で、■■は6次産業化をスタート。2014 年のことです。

 個人の取り組みをどうこう論評するつもりはないので、こちらも名前は伏せた。とはいえ、「食品添加物=安心できない」は主観だ。添加物は、食品安全委員会がリスク評価を行って問題がないと判断されたものが、使用量や使用方法などのルールに従って使われている。化学調味料(うま味調味料)として用いられるグルタミン酸ナトリウムは、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同食品添加物専門家会議(JECFA)で、「人の健康を害することはないので、一日の許容摂取量を設定しない」とまとめられている。

 文中では触れられていないが、ソーセージ製造に用いられる発色剤は、単に色や風味をよくするためだけでなく、ボツリヌス菌の増殖を防ぐためにも用いられている。ボツリヌス菌は自然界にごく普通にいて、非常に強い毒素を産生する。蜂蜜によるボツリヌス菌食中毒で赤ちゃんが亡くなったのは記憶に新しい。

 ボツリヌス菌は肉にも付きやすい。そのため、付かないように増殖しないように、肉の加工業者は細心の注意を払うけれども、それに加えて発色剤も使って万全を期したい、という業者もいる。たとえば大手ハムメーカーは、ウェブサイトで発色剤を含め食品添加物を用いる理由を説明している。

 個々の事業者や生産者がどんな考えでどのような商品を作ろうと、食品衛生法等、関連する法律を守る限り自由だ。そして、その主張が科学的には間違っていても、それはそれで仕方がない。
 でも、農水省が誤解を招く情報を拡げてはいけないはずだ。

●こんなステレオタイプの広報誌、意味があるの?

 実のことを言えば、この手の細かい誤情報の指摘は、農水省に対してこれまで何度も行ってきた。先日も、省内の会議に事務方から平然と、「社会の健康志向に応じて、オーガニック推進を」という案を書いた資料が出され、驚いて「いくら省内の非公開資料といえども、こんなの書いちゃダメでしょう」と発言したばかりだった。オーガニックは好みの問題であり、栄養価や安全性と関係ないことは、多くの論文で示されている。世間と同じような誤解、勘違いは、残念ながら省内でも日常茶飯事だと思う。科学的な理解など進んでいない。

 それに、「これが悪いから、これを使っていない私たちの食品を」というdisり商法は、いまの時代、感じが悪い。心ある有機農家は今や、「農薬は悪いから、無農薬の野菜を」「添加物は毒だから、無添加を」の古臭さを捨てて、「美味しいから、私の野菜を、加工食品を」と言っている。久松達央さんの著書を読みなさい!

 間違っていて古臭い。とはいえ、農水省のことだからまあ、特段の話ではない。でも、二つのことがどうしても気になって仕方がない。

 一つめは、これが農水省の広報誌だということ。だれでも、広報誌の内容を農水省の考え方だ、と受け止める。ああ、農薬はダメ、無添加が安全だから、このような事業者や生産者をわざわざ紹介するのだなあ、と思う。
 こういう記事が、多くのまじめな生産者や事業者、品質や安全性、価格などを考えて、輸入食品も上手に使い、農薬や食品添加物を適正使用している人たちを傷つけている、ということが、どうして役人にはわからないのだろう?

 もう一つ。取材の甘い女性誌、ウェブ媒体レベルの、どこかで何度も読んだことのあるようなステレオタイプの情報を、わざわざ税金で記事に仕立てて広報しますか? 農水省にはもっと伝えるべきことが数多くある、と思うのだが。

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