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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

なぜ、放射性セシウムは米から検出されないのか?〜福島県課長にインタビュー (前編)

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2017年8月23日

2011年(平成23年)に起きた東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所の事故。放射性物質の食品への影響が懸念され、福島県は2012年から県産米の「全量全袋検査」をはじめました。玄米30kgを袋に入れてそのまま放射性セシウム濃度を測定し、基準値を超過していないことを確認してから流通させる仕組みを独自に作り上げ、運用してきました。

2015年と16年は、基準値を超過する米は見つかっていません。そして17年6月29日、県議会の常任委員会で担当課長が「将来を見据えた検査の方向性について検討着手する」と表明しました。つまり、全量全袋検査をどうするのか、いつまで続けるのか、今後のことをこれから決める、というのです。

福島県内では、消費者団体などが「ずっと続けて欲しい」と要望する一方、生産者の間では意見が分かれ、議論が伯仲しています。一方で、全国紙は「全量全袋検査の見直し」のニュースを福島県版では取り上げたもの、首都圏や関西圏などではほとんど報じていません。テレビも同様。キー局ではニュースになっていません。
全量全袋検査の主要な目的が「消費者の不安を解消する」「風評被害を防ぐ」であり、首都圏や関西圏で大量の福島県産米が食べられているにもかかわらず、肝心の情報が伝わらないのです。この状態では、消費者の理解は進むべくもありません。

全量全袋検査を続けてきた意味はなんだったのか? なぜ今、見直しを始めるのか? 議会で検討着手を表明し、最前線で動く大波恒昭・福島県水田畑作課長に科学ジャーナリスト、松永和紀が話を聞きました。

●「測定下限値未満ほぼ100%」を踏まえ、全量全袋検査の今後を考える

松永 県が全量全袋検査をはじめたきっかけ、もう覚えている人も少ないかもしれません。

IMG_2889大波恒昭・水田畑作課長 2011年秋に福島県内でも米の収穫と出荷がはじまり、地域ごとに米をサンプリングし、検査で当時の暫定規制値(500Bq/kg)を下回ることを確認していました。米を栽培していない避難指示区域などを除き全県で米が出荷可能だと判断し、知事が10月に全県の米は安全とする見解を出しました。ところが翌月、超過する米が見つかり、県産米への不安が高まってしまったのです。

そのため、県は検査装置メーカーにベルトコンベヤー式で米袋のまま測定することができ、検査後もそのまま食べられる非破壊検査装置の開発を依頼。2012年に199台を導入してすべての米の検査がはじまりました。これが全量全袋検査です。

松永 知事の見解を新聞やテレビは、知事が安全宣言を出した、と報じました。その後に基準超過が見つかったので、こんなことを今さら大波さんに言うのは大変申し訳ないのですが、多くの人が「裏切られた。やっぱり行政は信用できない」と思ってしまったのです。その影響は、米だけでなく、食品全体に対する疑いにつながったように思います。だからこそ、県も懸命に、全量全袋検査の開始を目指した、と言えそうです。それにしても、毎年秋から冬にかけてのわずか3カ月くらいで1000万袋以上を測定する。ものすごい検査を始めたものですね。

大波 最初の2012年は、計71点が基準値の100Bq/kgを超過しました。でも、計1035万点はかっているので、割合はわずか0.0007%です。その後、超過数は次第に減り、15年は玄米30kgが入った袋を1050万点測定して、基準値を超える袋はゼロ。99.99%は測定下限値の25Bq/kg未満でした。16年は、1024万点を測定して、99.996%、つまりはほぼ100%が測定下限値の25Bq/kg未満でした。

出典:福島県

出典:福島県

●わかりやすさが求められていた?

松永 私は当初、全量全袋検査に批判的でした。事故直後に策定された暫定規制値も、12年春に施行された基準値も、それを超えるような食品を食べ続けてはダメですよ、という意味で設けられたもの。基準値を超えたら急に危険になり、以下なら安全、という意味ではありません。2011年のサンプリング調査でも、当時の暫定規制値を超えるような高い数値の米が多かったわけではありませんでした。消費者が、高い数値の米を食べ続ける、というようなことは考えにくかった。もちろん、暫定規制値を超える米は流通を止めなければなりませんが、その可能性のある米、地域は限定的でした。

とくに、米どころで生産量が格段に多い会津地方は、放射性セシウムの降下量が少なく、米の数値が高くなるはずがない。なのにどうしてお金をかけて、県内全域で、全量全袋検査をしなければならないのか。科学的には、とても不合理だと思いました。

しかし、検査されているから安心、という心情面の効果は無視できませんでしたね。県の職員の方が「すべて測定して基準値を下回っていることを確認しているから安全です」と消費者に説明するのを見て、「ああ、このわかりやすさが求められていたのか」と理解しました。

大波 県は、入口対策と出口対策、というふうに分けて考えていました。入口対策は、栽培や収穫時に、米の中に放射性セシウムが入り込んだり表面に付いたりするのを防ぐ取り組み。でも当初は、米作りにおいてなにをしたら放射性セシウムの濃度が低くなるのか、よくわからなかった。同じ地域でも、農家によって放射性セシウム濃度が高かったり、あるいは全然なかったり。放射性セシウム濃度のばらつきが大きくて、地域ごとに何点か選んでサンプリングして調べる検査では、対応しにくい面がありました。だから、出口対策で検査をしっかりやって、基準値を超過するものをはじからなければならなかったのです。

米は販売流通するもののほか、自家用の「飯米」、親戚に配る「縁故米」、粒が小さかったり割れたりしてふるいにかけたら下に落ちて加工に回される「ふるい下米」と呼ばれるもの、それに飼料米など、いろいろある。「飼料米だから、測定しなくてもいいだろう」というようなルールにしたら、「飼料米が、人が食べる米に混ぜられて、放射性セシウム濃度が高い米がこっそり消費される」というような、あらぬ疑いもかけられかねない。だから、混乱を避けるには、これらすべてを検査しないといけない。そうでないと県産米の信頼を取り戻せない。そう考えたのです。

松永 会津地域も含め、県内全域で測定することにしたのは?

大波 地域によって対応を変えると、「どうせ、浜通りや中通りの米を会津に持って行って、検査逃れをするんだろう」というような疑いをかけられる恐れがありました。そうした無用の誤解を招かないためにも、すべての米を検査する必要がありました。

全量全袋検査の流れ

全量全袋検査の流れ

松永 消費者は「米を検査装置にかけたら、数値が出てくるだけでしょ。検査なんて簡単にできる」と思ってしまうのですが、検査の仕組み作りはものすごく大変だったそうですね。

大波 本当に苦労の連続でした。もちろん、検査機器開発が大きなポイント。でも、それだけではなく、どれだけの検査装置をどこに配置し、だれが玄米の30kg入った袋をそこに持ち込み、検査済みのQRコードを貼ってどこへ運んでゆくのか、そもそも、玄米を袋に入れて封をし、検査用のバーコードラベルを貼る作業をだれがどこでどのようにしてやるのか、そのラベルを農家にだれがどうやって配布するのかなど、ロジスティクスの整理が難しかったのです。

私は地震発生当時、県庁におり、同年6月に、会津にある喜多方農業普及所の次長になりました。会津は米どころで、取り扱う量が非常に多くて、2012年秋に全量全袋検査にこぎつけるには、大変な苦労がありましたよ。市町村が検査の事務局を務めてくれたのですが、どこも震災対応業務で手一杯で、どれほどの業務量になるか検討もつかない全量全袋検査を簡単に引き受けられるはずがないのです。そこを説明し、お願いして回りました。

当初予定の検査機器数では足りないとJAから強く言われて増設にも走りました。米袋を運ぶ人手がどうしても足りず、普及所の所長以下14人全員で、検査場で30kgの米袋を運んだこともありました。私はは、ぎっくり腰になってしまいました。
今、高齢の農家の方々などにとっては、全量全袋検査の労力的な負担はとても大きくて、「体がきつい」「もう止めたい」という切実な声が上がっているのですが、その気持ちはよくわかります。

●「放射性セシウムが検出されない米」の三つのポイント

松永 苦労してはじめた全量全袋検査で、次第に放射性セシウムが減って、今では基準値超過はゼロ、という状況がくっきりと示されています。放射性セシウムが検出されなくなった一つの要因は、放射性セシウムのうちセシウム134の半減期が2年で減衰したからです。でも、それだけではない、大勢の人たちの努力があったとか。

大波 三つの大きな取り組みが実を結びました。(1)ベルトコンベヤー式の検査装置の開発、 (2)カリウム肥料を与えれば、放射性セシウムの吸収を抑えられることを研究者が見つける、(3)高い数値の米が見つかった時には、その原因をとことん調査し、二度と繰り返さないように防止策を全県の農家、関係者に伝える……の三つです。

(1)の検査機器開発は言うまでもないことですね。いくつかの会社が損得抜きで開発を急ぎ、12年秋に間に合わせてくれ、平均2000万円の機器を199台導入しました。検査機器だけでなく、30kgの米袋を運ぶロボットアームや、検査終了後に検査済みのシールを確実に貼る装置なども開発されました。こういう機械がそろったから、1000万袋を超えるような米の検査がスムーズに進みました。

松永 部外者は、この検査装置のすごさに圧倒されるのですが、でも実は、(2)(3)の価値も高い。

大波 (2)のカリウム肥料と放射性セシウムとの関係を確認した県農業総合センターの研究員や、それをバックアップした国や大学などの研究者の方々の力は非常に大きいです。

2011年に放射性セシウム含量の高い米ができてしまった田んぼの現地調査を行って、さまざまな角度から調べました。そのときに、土壌中のカリウム含量がかなり低い、ということがわかったのです。

土壌中交換性カリ含量と玄米濃度   2011年(平成23年)で500Bq/kgを超える放射性セシウムを含む玄米が検出された地区でも、土壌中の交換性カリ含量が25mg/100g以上あれば、玄米からは放射性セシウムがほとんど検出されないことがわかった

土壌中交換性カリ含量と玄米濃度
2011年(平成23年)で500Bq/kgを超える放射性セシウムを含む玄米が検出された地区でも、土壌中の交換性カリ含量が25mg/100g以上あれば、玄米からは放射性セシウムがほとんど検出されないことがわかった

そのため、県農業総合センターなどで栽培試験を行い、カリウム肥料をたくさんやると、米の放射性セシウム含有量が低くなることがわかってきました。そこで県は翌12年から、稲作農家にカリウム肥料を十分にやるように指導し、農家もしっかり守ってくれました。

右のグラフを見てください。2011年に玄米から高濃度で放射性セシウムが検出された地域で、翌12年に現地試験を実施しました。カリウムの肥料の量を変えて施用して稲を栽培したところ、どんな地区、土壌であっても、カリウム肥料をたくさんやれば、放射性セシウムの吸収を抑制できることがはっきりしたのです。
その後、県はカリウムをたくさんやっても米の食味に影響がないことなども確認しています。

松永 カリウム肥料のことは、一般の消費者にはほとんど知られていません

大波 放射性セシウムとカリウムの関係を1年もたたないうちに突き止めたのは見事でした。これにより、福島県産米は救われたんです。

松永 3番目の、玄米で高い数値が出た場合には県職員が調査に入り、原因を詳しく調べたというのも、目立たないけれどもとても大きな功績です。

大波 米を測定して高めの数値が出た時には、田んぼの地理的条件、たとえば森が近くて放射性セシウムが流入しているのではないか、とか、土の質、成分量、水等、非常にていねいに調べました。それもあって、カリウム肥料の効果もわかったのですが、原因はそうした自然の現象だけではなく、人為的なミスも多かったのです。

とても高い数値の米が見つかり、田んぼの土壌を調べても、カリウムがかなり多くて、放射性セシウムを吸収しているはずがない、という事例がありました。それに、同じ農家が同じ田んぼで作った米なのに、数袋だけが異常に高くて、それ以外はとても少ない。それでよく調べたら、籾すり機が原因だったんです。警戒区域から籾すり機を持ち出して来て、震災後初めて使った。そのとき、籾すり機を十分に掃除せずに、新しい米を入れて籾すりをしてしまった。原発事故直後、放射性セシウムが降下して、籾すり機自体に付いていたんですね。その結果、最初の数袋は、検査で高い数値を示しました。

松永 農家にしてみると、放射性物質が原発事故で降下して付いているかも、というようなことを忘れてしまって、例年通り、いつものルーティンワークで籾すり機を使ってしまったのでしょう。

大波 でも、そうしたうっかりミスで「出た!」ということになり、それが福島県産米全体のイメージにつながってしまう。だから、一つ一つの事例を教訓にして、同じことをしないように、と県職員や自治体職員、JA職員などが農家に伝えて回ったんです。農家はお年寄りも多いので、懇切丁寧に説明しました。

●「検査しているから安全」ではないはずなのに……

松永 15年、16年と基準超過が一つも出ていない、というのは、農家が栽培に気をつけ、そうしたうっかりミスもなくした成果です。それをみんなでできた、というのは、本当に素晴らしいこと。なのに、努力した農家だけでなく県職員もあんまり自覚できておらず、「検査しているから安全です」と言う。つくづく、福島県の人たちって、説明下手だなあ、宣伝下手だなあ、と思っていました。なぜ、「東電にひどい目に遭わされたけど、俺たちの技術ってすごいんだぜ」と胸を張らないんだろう。

1986年のチェルノブイリ原発事故は、放射性物質の放出量が福島原発事故に比べて格段に多く、最初は事故が隠されていたこともあり、健康被害も出ました。それだけでなく、農産物の汚染が長く続いています。日本に輸入されるものの中にも、未だに日本の基準値を超えるジャムなどが見つかります。それに比べて、日本の農産物は、野生鳥獣肉や野生きのこなどを除きもうほとんど出ない。水産物だって、厳密に管理して試験操業で確認しながら出荷しています。チェルノブイリ事故も教訓にして、日本は食品の安全管理を見事にやり遂げているんです。検査の結果は、立派にやり遂げている生産現場の努力の発露の一つでしかない。「検査しているから安全です」と言うのは、もうやめましょうよ。

大波 「検査しなければならないほど、まだ危ないんでしょう」と受け止める人もいますしね。

松永 消費者の多くが、放射性セシウムの挙動などの基礎知識を持たない、あるいは忘れてしまっていて、検査の意味がよくわからなくなっている、ということも感じます。行政や科学者がうまく伝えることができず、私のような報道関係者もいろいろな情報をねじまげて伝えてしまった。
たとえば昨年、国主催のリスクコミュニケーションで「土壌に降下した放射性セシウムは、年数がたつと下にしみこんでいって、また作物の根から吸われて汚染がひどくなるのでは」という趣旨の質問が出ました。現状、検査では検出されなくても、今後はわからないから検査を続けて欲しい、という感じなのです。

まったく違います。土壌中の放射性セシウムは、粘土鉱物にしっかりと結合して、とても離れにくいです。これが溶出してまた植物に吸収されるとか、下にしみ通っていくというようなことはほぼ、あり得ません。ややこしいのだけれど、こういうところまで消費者や関係者に理解してもらわないと、全量全袋検査見直しの議論には入れません。

大波 今後、県内や首都圏などさまざまな関係者や消費者等に全量全袋検査について説明し意見を聞いて回るのですが、その際には必ず、検査結果のほか、放射性セシウムの挙動などの基礎的な情報も提供するつもりです。

松永 検査結果は、その時点での全体の状況が「ふくしまの恵み安全対策協議会」のウェブサイトで公開されており、玄米の30kgごとの個別の袋の結果も、識別番号がわかれば調べられるようになっています。つまり、情報はかなりの程度公開されているのですが、ウェブサイトで確認している流通関係者や消費者はどれくらいいるんでしょうか?

大波 ウェブサイトの閲覧数は2012年度当時は1年間で約64万件ありました。年々、減ってきており、16年度は1年間で約9万3000件です。私自身の体験では、海外、特に、ヨーロッパのメディアからの問い合わせで、このサイトからの情報を元にしたやりとりが多かったです。科学系のドイツ、ロシア、英国などの記者から、実によくできているとの評価を得たことを覚えています。

松永 これだけ努力して実施してきた検査だけれど、公開データを確認する人は大きく減った、ということですね。検査済みのシールが貼ってあればいい、みたいな状態なのか。検査は、風評被害を防ぐため、と言われていますが、本当なのでしょうか? 消費者庁の消費者に対する意識調査でも、「放射性物質の検査が行われていることを知らない」という人がこのところ増えていて、最新の調査では35%に達しています。検査をなんのためにやるのか、社会が再考すべき時期に来ているように思うのです。

(次回へ続く)

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