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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

健康食品の体験談広告、厳しい規制へ

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2017年8月17日

表示例6

●改善しなければ、景品表示法違反のおそれも

 こんなタイプの広告を、新聞や雑誌などでよく見かける。だれにとってもおなじみだろう。
 だが、今後は変わるはずだ。健康食品業界にとってはもしかすると、 “危機的”事態かもしれない。消費者庁が7月14に出した「打消し表示に関する実態調査報告書」である。報告書の体裁だが、現状の「体験談広告」はもう許さない、という消費者庁の強い姿勢が示された。

 打消し表示とはなにか?
 広告宣伝においては、品質や価格などについて「よいものですよ」と強調する表示をするのが普通だ。それが、すべての消費者にどのような場合でもあてはまるのであれば、まったく問題ない。だが、例外、制約がある場合にはその旨を伝える「打消し表示」もセットで掲載しなければならない。たとえば、保険の宣伝で「入院、手術、通院の保障が一生涯!」と強調され、片隅に「医療行為や医療機関および適応症などによっては給付対象とならないことがあります」とある。この片隅にあるのが、打消し表示だ。

 健康食品の典型的な広告は、「体重が5kg減りました」などと体験談が強調され、片隅に「個人の感想であり、効果には個人差があります」「個人の感想であり、効果を保証するものではありません」などが書かれるもの。この個人の感想うんぬんが、打消し表示だ。

 今回の報告書は、さまざまな商品・サービスについて実態調査や消費者の意識調査を行っている。健康食品の広告宣伝におけるもっとも効果的な手法である「体験談と打消し表示」のセットについても、多くのページを割き非常に詳しく、問題視せざるを得ない実態を浮き彫りにしている。そして、改善しなければ景表法違反に問う場合もある、ということが明確に書かれている。

 私見だが、健康食品の体験談広告はいいかげんすぎる。「個人の感想」と書いておけば大丈夫、免罪符になる、という錯覚が事業者側にあるように思う。消費者庁の強い姿勢は消費者にとって朗報だ。どんどん取り締まってもらいたい。以下、報告書の一部、健康食品に関係の深い体験談の問題を中心に、紹介する。

●デモ広告を作成し、消費者の認識を調査

 消費者庁の今回の報告書が画期的なのは、広告(新聞広告と動画広告、ウェブ広告)約500点を集めてどのような打消し広告があるかを解析し、そこからデモ広告を作り、ウェブアンケート調査で消費者1000人に見せて、どのように認識したのか調査を行った点だ。これにより、消費者が初めて広告を見たときに、なにを見てなにを見ないのか、打消し表示がどう受け止められているのかがわかってきた。

 デモ広告はノートパソコン、インターネット回線、紳士服など6つの種類が作られた。その一つが冒頭においた健康食品広告だ。もう一度よく見てほしい(クリックすると、大きな画像が見られる)。

●9割が「個人の感想です」を見落とし

 強調表示は、体験談のコメント4つ。『「お腹周りがスッキリした」と最近、妻も満足げです』『カロリーを気にせず食べられる! ガマンしなくていいって幸せ!』などだ。一方、『個人の感想です。効果には個人差があります』というのが打消し表示である。どこにあるか、おわかりだろうか。真ん中に小さく入っている。

 実際の広告を数多く集め詳細に検討して作られた。こんな広告、あるある〜という声が聞こえてきそうだ。

 これを、消費者1000人に見せた。すると、44.3%が4つのコメントのいずれかに気づいていた。一方、90.3%は、打消し表示を見落としていた。

 でも、この手のダイエットサプリに関心がない人は詳しく見ないよ。どうせ、そんな人ばかり回答者に選んだのだろう……。そんな声が聞こえてきそうだ。
 アンケートはそのようなバイアスがかからないように、年代や性別など日本の人口構成を反映させたものになっている。なおかつ、ダイエットサプリに関心があるかどうかも尋ねて、関心がある層とない層に分けて解析も行っている。すると、関心がある層でも、状況はあまり変わらない。関心層でも実に86.7%は、打消し表示を見落としていた。

●体験談を「大体の人は効果が得られる」と受け止める

 では、消費者はこの体験談広告を見て、製品のダイエット効果はどれくらいと認識したのか?
 広告を見て体験談に気づいた回答者(443人)の53.0%は、「『体験談と同じような効果』が得られる人がいる」と思うと回答し、42.2%は「『大体の人』が効果を得られる」と思うと回答した。
 「自分に効果がある」と思うと回答したのは、39.3%だった。

 健康食品業界が、体験談を多用するはずだ。どこのだれともわからぬ人の話なのに、信じてしまう。アンケートは、なぜ体験談を信用するのかについても細かく問うているのだが、体験談の消費者への訴求力は非常に大きい。

 では、「例外がありますよ」という趣旨を示している打消し表示は、この認識を変えるのか?
 体験談と打消し表示の両方に気づいた人(74人)に同じように尋ねたところ、「『体験談と同じような効果』が得られる人がいる」と思ったのは43.3%、「『大体の人』が効果を得られる」と思ったのは39.3%、そして「自分に効果がある」と思ったのは28.4%だった。打消し表示を見なかった人に比べて、数字が著しく低い、というわけではない。

表示例6-3

 調査ではさらに、もう1度広告を見せて、今度は打消し表示を見落とさないように赤い枠で囲んで示している。つまり、1度目は見落としても、2度目は否応なしに気づくだろう、という仕掛け。そのうえで、この製品のダイエット効果がどれくらいと思えるかを尋ねている。

表示例6-2

 この結果が、私個人にとっては衝撃的だった。
 大きな変化は見られなかった。つまり、体験談の威力は大きく、打消し表示が明瞭に示されていたところで、「効く」という印象はあまり変わらない。これが消費者の実態だった。

有効回答者数:1度目は体験談に気づいたが打消し表示には気づかなかった369人

有効回答者数:1度目は体験談に気づいたが打消し表示には気づかなかった369人

●体験談は今後、数字等の根拠が必要になる

 では、健康食品の体験談広告はどう改善されるべきなのか?

 報告書では、ほかのデモ広告に関する設問により、打消し表示の字の大きさが小さいと認識されにくいことや、配置場所も重要であることなど、さまざまな問題点を指摘している。

 健康食品のデモ広告は、そもそも9割以上が打消し表示に気づかない、という結果。これは論外であり、字の大きさ等、変更が必要だ。
 そのうえで、報告書は体験談広告特有の問題点を指摘し、景品表示法の考え方を示している。

 一般消費者は体験談について、打消し表示が明瞭に記載されていたとしても、「大体の人が何らかの効果、性能等を得られる」という認識を抱く。もちろん、販売する健康食品が「大体の人に効く」ものであれば、現状の体験談と打消し表示のセットで問題はない。

 だが、実際にはそうではないのなら、たとえば「カロリーを気にせず食べられる!」がごく一部の人の事例に過ぎないのなら、現在の打消し表示では、消費者を「実際のものよりも著しく優良である」と誤認させ、景表法違反のおそれあり、となる。

 報告書は、次のように書いている。
「体験談により一般消費者の誤認を招かないようにするためには、当該商品・サービスの効果、性能等に適切に対応したものを用いることが必要であり、商品の効能、性能等に関して事業者が行った調査における(i)被験者の数及びその属性、(ii)そのうち体験談と同じような効果、性能等が得られた者が占める割合、(iii)体験談と同じような効果、性能等が得られなかった者が占める割合等を明瞭に表示すべきである」

 さて、健康食品業者はこれをクリアできるだろうか。体験談は、客の反応の中でももっとも良いもの、インパクトのある言葉を掲載して当たり前、というのが現状だ。横に「個人の感想」と書いておけばなんでもOK、というのが健康食品業者の常識ではないか?
 これからは、数字の根拠のある体験談を広告に載せなければ、景表法違反に問われる恐れがある。たとえば、「カロリーを気にせず食べられる」と答えたのは、被験者の1%とか、客の1人だけ、ということも広告に表示しなければならない。

 もともと体験談については、公正取引委員会が昭和60年に出した「痩身効果等を標ぼうするいわゆる健康食品の広告等について」や、消費者庁が昨年出した「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」で、体験談のねつ造や一部の都合の良い体験談のみを引用することなどは、不当表示に当たる恐れがある、としていた。

 だが、業界はたかをくくっていたところがある。体験談のねつ造は、2005年にアガリクスをめぐる薬事法違反事件が起きた時に、大きく騒がれたことがあり、事業者も「やってはダメ」という認識はあるだろう。だが、都合のよい体験談の掲載は、どの社も普通に行っている、と私は考える。

 さらに悪質な事業者になると、打消し表示の小さい字や目立たぬ配置場所、専門用語の羅列等、「消費者が目をとめない、理解しない」ということをわかったうえで、それを巧妙に駆使している。「書いてあるのに、見ない消費者の方が悪い」という論法だ。だが、それはもう許されない。

 報告書は、体験談広告だけでなくさまざまな種類の打消し表示を分析し、多くの問題点を指摘し、末尾でこう書いている。「本報告書の周知を行うとともに、景品表示法に違反する事案に接した場合には、厳正に対処する」

●報告書は、ガイドラインに近い位置づけか

 行政のこの手の消費者アンケート事業は通常、予算消化のためか、あるいは新たな施策を打ち出すにあたっての言い訳、excuseでしかないものが多い。私はよい印象を持っていない。
 ところが、この打消し表示の報告書は、一読してまったく異なっていた。デモ広告とアンケート結果を基に、景品表示法の意味、考え方、なにが望ましいのか、どれが違反ととられうるのかを示しているのだ。

 カギを握っていたのは、消費者庁表示対策課の大元慎二課長だった。公取委から昨年6月、消費者庁に異動してきた。公取委時代には、多くの景品表示法違反事件を手がけた。

 公取委は2008年、打消し表示の実態調査を行い、「望ましい表示」をまとめている。だが、わかりにくい打消し表示は依然として目立つ。

 大元課長はこう言う。「消費者がどう受け止めているのか大規模な調査を行い、問題点を明らかにし、事業者、消費者にしっかりとしたメッセージを発信すべきと考えた」。そこで、異動後すぐに、この調査を計画し準備にとりかかった。

 説得力のある報告書にするには、調査が消費者の実態を映し出す、バイアスの極力少ないものでなければいけない。特定の事業者の狙い撃ちにならないように幅広く広告事例を集め、そのうえでデモ広告6例を作成し、消費者の認知を調べた。設問は消費者の回答を誘導しないように十分に注意し、第三者の専門家のアドバイスも仰いだ。解析や考察等においても専門家の意見を聞いた。

 そのうえで、消費者の実態を踏まえて、消費者庁の厳正な姿勢を示したのだ。大元課長によれば「調査報告書であるが、その中に景品表示法の考え方をしっかり示しており、単なる実態報告書ではない」。うーん、失礼ながら、なんともまわりくどい。しかし、役所としては、ぎりぎりの発言だろう。

 私はこう受け止めた。この報告書は、景品表示法執行におけるガイドラインに近い位置づけにある、と見て業界は対処した方が良いのではないか。

●一般消費者の視点の活用を

 大元課長は説明する。「事業者は、報告書をすべて熟読して、自らの広告に照らし合わせて問題がないかチェックし、不断の見直し、改善につなげてもらいたい。本来、打消し表示がなくても商品・サービスの内容や取引条件の実際を一般消費者が認識できるような強調表示にすべきです。しかし、やむを得ず打消し表示も行う場合には、一般消費者の視点の活用が重要。打消し表示を消費者がどう認識しているのか、事前に確認していない場合は、景表法違反となる場合もある。具体的な方策も報告書で示しています」。

 報告書は消費者にも、打消し表示をよく読むように注意を促している。個人的には、消費者アンケートの結果に実のところ、がっかりした。「消費者は、こんなに打消し表示を見ていないのか。注意を促されても理解できないほど、ポンコツなのか」としみじみ思った。

 それを大元課長に伝えたら、こうたしなめられた。「消費者はいろいろですよ。強調表示と打消し表示を適切に行うことは、事業者の責務です。消費者には注意を期待しますが、まずは事業者が姿勢を改めなければいけません。今後も、こうした実態調査を継続し、それも基にして、違反事例は事件にして行きます」

 消費者庁は本気だ。本報告書を、健康食品業界の全員に読んでもらいたい。概要版では、消費者庁の姿勢は理解できない。全95ページの報告書全文に目を通すべきだ。業界の自主的な改善に期待したい。

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