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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

米の全量全袋検査について、福島県がジャーナリストらと意見交換

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2017年10月20日
9月29日に開催された福島県とジャーナリストらの意見交換会

9月29日に開催された福島県とジャーナリストらの意見交換会

 福島県産米の全量全袋検査を今後どうするのか? 県と食生活ジャーナリストの会、FOOCOMの合同で9月29日夜、意見交換会を開いた。ジャーナリストや企業関係者、生協関係者など50人あまりが参加した。

 このテーマについて、FOOCOM.NETでは、県の担当課長のインタビュー等を通じて読者に情報を伝えてきた。
・なぜ、放射性セシウムは米から検出されないのか?~福島県課長にインタビュー (前編)
・全量全袋検査に年間60億円を費やす意味は~福島県課長にインタビュー(後編)

 大胆に整理してしまえば、この問題は次の3項目に集約されるように思う。

(1) 米の放射性セシウム含有量はほぼ管理され、食のリスクという観点からは問題がない
(2) 米の全量全袋検査は、野菜や肉等、ほかの食品について行われているサンプリングによる検査とは異なり、多額のコストがかかっている。検査装置や米袋の運搬装置等の耐用年数切れが近く、もうそろそろ今後の方向性を決める必要がある。
(3) しかし、県は検査を「風評被害」対策の一環でもある、とみなしている。消費者、生産者等、関係者の心情は一様ではなく、検査の継続を求めている人もいれば、もう検査は必要ないと思っている人もいて、県はまだ方向性を決めかねている。

 意見交換会では、最初の45分間、県水田畑作課の大波恒昭課長が、検査体制や結果等について説明した。(1)については、本欄で掲載したインタビュー記事と重なっているので、そちらの記事を読んでいただきたい。この日は、(2)に関する内容、検査費用をだれがどのように負担しているのか、損害賠償がどんな手続きで出されているのかという“お金の話”が語られたのが、特徴的だった。そして(3)。多様な意見が出た。これまでのマスメディアの報道に対する批判の意見もあった。(2)(3)について、詳しくご紹介したい。

●全量全袋検査に、どれほどのお金がかかっているか?

 全量全袋検査によりかかっている「検査費用」は、2012年(平成24年)が検査装置の設置・整備費用まで含めて85億4100万円。なにせ、約2000万円の検査機器が約200台設置された。それだけで40億円。米は30kg入りの袋ごと測るので、米袋を運ぶ装置も必要。検査した後にすぐにシールを貼るも設置しなければならない。それらを動かす人件費も必要だ。
 以降も毎年、60億円近くを要している。これが、国の補助事業と東京電力の損害賠償により、まかなわれている。東電からは毎年、50億円程度が賠償金として支払われている(表1)。

福島表1

 この東電への損害賠償請求の流れも、説明された。
 通常の農産物の場合、賠償請求をした後、支払われるまでに1年近くかかる。出荷できなかった分、値が下がった分を請求し、支払い額が決まる。しかし、米は全量全袋を検査し出荷するため、それ自体に相当な費用がかかり、毎年検査が始まる8月頃からいわゆる“運転資金”が必要。農家やJA等がトラックで米を運ぶ人件費や燃料代、検査する人たちの人件費、シールを貼るなどの事務処理経費などだ。

 そのため、県やJA等で「ふくしまの恵み安全対策協議会」(県協議会)を作っており、賠償金が支払われるまでの間に必要な資金については、県が無利子で県協議会に貸し付けている。そして、県協議会が検査に必要な費用を、市町村やJAで作る地域協議会に分配し、検査を進める。その後、一括して東電へ請求し、激しい交渉の末に認めてもらい賠償金として支払いを受ける、というやりとりを毎年、繰り返している(図1)。

図1

図1

図2

図2

 このような仕組みが必要なのは、前払いが必要であることに加え、米の販売流通ルートが図2のようにJA、民間集荷業者等が入り乱れ、さらには自家用米(飯米)、親戚にわたす縁故米など、非常に複雑なためだ。図は震災前の扱い量だが、震災後もこの多様なルートは変わらない。したがって、東電と生産者の個別交渉など不可能で、自治体やJAなどが間に入るやり方をとらざるを得なかった。

 現在は図3のような流れで、全量全袋が検査に供されている。結果は図3のとおり。2012年からずっと、測定下限値(25Bq)未満が99%以上。2015年、16年は基準値超過はない。

図3

図3

図4

図4

●今後考えるべき6つの項目

説明する福島県水田畑作課の大波恒昭課長

説明する福島県水田畑作課の大波恒昭課長

 大波課長は、こうした状況を踏まえ、全量全袋検査について今後考えるべき項目として次の6つを挙げた。

(1)放射性物質の安全対策として、所期の目的を達成
(2)現在は、福島県産米に対する「風評」対策としての側面も
(3)検査への負担が大きいとの声(生産者や検査関係者)
(4)多方面から「もう少し先までの方向性を出してほしい」との意見
(5)国のモニタリング検査のガイドラインでは、「3年間に基準値の1/2を超えていない品目はモニタリングから除外される」
(6)検査には多額の費用が必要、検査機器も老朽化

 とくに、高齢の農家にとっては作業がつらい。重い米袋をトラックに積んだり降ろしたり、という作業を強いられるからだ。それで売るならまだしも、自家用に細々と作っている米だったりすると、負担は体にこたえる。一方で、消費者が理解してくれるのか、という不安もつきまとう。

●検査見直し求める声

 参加者は、安全性についての疑問はなく、全量全袋検査から、一部をサンプリングしての「モニタリング検査」への切り換え、検査縮小を前提に、どのような方法論、スケジュールで検査を減らしてゆくかに関心が集中したように思う。
 エリアを分けて検査縮小を求める声も出た。たとえば会津はもともと放射性セシウムがあまり降下しておらず、米から検出されようもない地域だ。だが、「BSE(牛海綿状脳症)の全頭検査のように、長い時間をかけて検査をとりやめないと、消費者の理解は得られない」との意見もあった。「検査の周知率は4割程度で、内容を理解している人も少なく、安全だということが伝わっていない」として、「まずは、周知率を上げることが大事。周知されない段階でやめるのは時期尚早だ」との意見も出た。

●メディアの責任を問う声

 意見交換には、ジャーナリスト、メディア関係者以外に、企業人や学識者などもいた。その中から、メディアの報道こそが理解を阻害し、消費者の気持ちをゆがめている、という指摘があった。「社会に安全だという共通理解が産まれないことについては、メディアの責任が大きい。日本学術会議が先日、子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題についての報告を公表したが、大新聞は伝えていない。なのに、検査縮小というような内容については手ぐすねを引いて待っていて批判する。県にとってよかったね、という話は報道しない。検査をしていることをちゃんと報道しようとしているのか。私にはそのようには思えない」
 また、「マスコミは絵になるものを撮る。今だと、廃炉作業やゴーストタウン、帰還困難地域の野生生物の姿など。これに対抗するには、県がSNSを活用して、学校給食で県産品を食べているとか、親子で県産品を食べているとか、情報発信して行くのがいい」と述べた人もいた。

 これに対して、参加したジャーナリスト二人も、意見を述べた。どちらも、非常に興味深い意見だったので、そのままご紹介しよう。

「昨年、農水省が検査縮小を打ち出した時に、記事を書いたらデスクが「検査を止めるということは安全なんだね。これはニュースだね」と反応した。消費者の2割は理解していない、というが、必ず理解しない消費者は存在し、それを指標にしている限りは、縮小は無理だ。県が自信を持ってやめられるかどうか。自信があれば、やめればよい」

「メディアが、見出しや写真で引きつけようとするのは、見ている人たちに中身を知ってもらいたいから。見出しはそうであっても、中ではきちんと説明するようにしている。よく読んでもらうと、検査縮小もよいのではないの、ということになる。今春、モニタリング検査の見直しがあった時に、縮小することを報じたが、それに対して「反対」という声はなかった。BSE検査の時もそうだったが、検査に反対するのは消費者ではなく生産者ではないか。BSEの時は、「うちの県だけ止めるのはまずい。ずっと続ける」と生産者が言っていた。生産者に、検査を止めることへの逡巡、不安があるのではないか。消費者は、検査を4割しか理解していない、というが、もうほとんどが忘れているのではないか。アクションを起こさないとずっと続けざるを得ない。アクションを起こして説明するしかない」

●県は「意見を活かしてゆく」

 この意見交換会を翌日、地元紙2紙は「全量全袋検査で意見交換 県、ジャーナリストらと」「コメ全袋検査見直し多数 継続すべきの声なし」などと報じた。県は、県内関係者や首都圏の流通関係者等からの意見聴取も重ねている。今後の県産米の全量全袋検査をどうしてゆくのか。県は遅くとも今年度内には、来年度からどのようなスケジュールでどうするのか、方針を示したいとしている。

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