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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

“健康食品で安全に楽に痩せる”はあり得ない…消費者庁のメッセージは制度を揺るがす

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2017年12月1日

葛の花由来イソフラボンという成分を含む機能性表示食品を販売し、「痩せる」などと広告していた16社が11月上旬、景品表示法違反として消費者庁から措置命令を受けました。その後、各社は続々とウェブサイトや新聞に謝罪広告を出しています。

機能性表示食品が行政処分を受けるのは初めてのこと。とはいえ、一般メディアは「効かないものを、痩せると言っていたのだから処分も当たり前」と、あまり新味もなく受け止め報じたようです。

図1 (株)太田胃散がウェブサイトに出していた広告(消費者庁資料より)

図1 (株)太田胃散がウェブサイトに出していた広告(消費者庁資料より)

が、この措置命令、実のところ、機能性表示食品や特定保健用食品(トクホ)制度を揺るがすほどの判断ではないか、と私は考えています。

担当の表示対策課課長は記者会見で次のように述べました。「食品で痩せることはない。健康食品で痩身効果をうたうのはいけない」。
科学的には至極当然、常識的な発言です。でも、日本の制度ではこれまで、これが当たり前、ではありませんでした。この発言は、とてつもなく大きなインパクトを持っています。もう少し詳しく解説しましょう。

●太田胃散など16社が、景品表示法違反

今回、景品表示法違反に問われたのは(株)太田胃散、(株)スギ薬局、(株)ニッセンなど16社。
たとえば(株)太田胃酸は、図1、2のようにウェブサイトで宣伝し、謝罪広告で次のように詫びています。

図2 (株)太田胃散がウェブサイトに出していた広告(消費者庁資料より)

図2 (株)太田胃散がウェブサイトに出していた広告(消費者庁資料より)

あたかも、 対象 2 商品を摂取するだけで、誰でも容易に、内臓脂肪及び皮下脂肪の減少による、外見上、身体の変化を認識できるまでの腹部の痩身効果が得られるかのように示す表示をしていました。
弊社は、本件表示が対象 2 商品の内容について、それぞれ、一般消費者の皆様に対し、 実際のものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するものであったことを確認し、本広告により周知いたします。

●研究で確認された“効果”はごくわずか

機能性表示食品は、安全性や機能性、効果について国がガイドラインを定めたもの。企業は、それをクリアしたと考える製品を消費者庁食品表示企画課へ届け出て、根拠を説明する書類も提出し、その後に販売を開始します。
でも、書類の中身、根拠が妥当なのかどうか、だれも審査しておらず、企業の自己責任。同課は、提出された書類の書式等が整っているか確認して、その資料をウェブサイトで公開するのみです。

この製品は(株)東洋新薬のOEMなので、16社の製品の機能性の根拠はほぼ同じ。届出書類では「腹部総脂肪面積、腹部内臓脂肪面積、腹部皮下脂肪面積、体重、胴囲の有意な減少が認められた」と書かれています。
葛の花由来イソフラボンを含むサプリメントや茶飲料、含まれないけれど外見、味等がそっくりで被験者には区別できない「プラセボ」を4〜12週間摂ってもらって、脂肪面積や体重、ウエストサイズへの影響を比較し、4研究 を統合して解析した結果、統計的に有意差あり、としているのです。

腹部総脂肪面積の減少は平均して11.7cm2、腹部内臓脂肪面積はマイナス7.0cm2、皮下脂肪面積はマイナス7.4cm2です。
体重は平均して0.9kgの減少、ウエストサイズは平均して0.7cmの減少です。

たしかに減っている。でも、被験者がどういう人たちかを知ったら、見方は一変するでしょう。
被験者のほとんどは、体重70kgを超えBMI25〜30という、日本の基準では「肥満」の人たち。腹部総脂肪面積は、300cm2を超えています。それがマイナス11.7cm2です。腹部皮下脂肪面積も200cm2を超えている人たちが、マイナス7.0cm2。わずかな違いです。

さらに問題なのが体重とウェストサイズ。70kgを超える体重の人が、摂取してマイナス0.9kg、90cmを超えるウエストサイズがマイナス0.7 cm。

消費者庁表示対策課が記者発表で記者に配った説明資料を入手しました。こう書かれています。「実験結果の約1kg、ウエスト約−1cmは、通常1日の変動範囲」。ばっさり、一刀両断です。

今回適用された景品表示法では、一般消費者がその広告表示をどう受け止めるのかが判断の基点となります。広告で痩せる、ウエストサイズが減ると言われて消費者がイメージするのは、一日の変動範囲程度のものではありません。広告は、実体とかけ離れているのです。

それに、広告が多く登場させている若い女性、既に適正体重なのに、さらにダイエットしたい、ウエストが細くなりたい、というような人に効くかどうかは、まったく不明。加えて、試験の被験者は、12週平均で一日に約8000-9000歩も歩いていました。「誰でも容易に」という広告は、こうした点にも問題がありました。

●海外でも、「食べて痩せる」は認められていない

体重マイナス0.9kg、ウエストサイズのマイナス0.7 cmは、機能性表示食品の届出書類に「統計的に有意な差あり」と示されているもの。機能性表示食品制度は、根拠があれば表示して良い、とするものですから、企業は「胸を張って表示できる」と思い込んでいたはずです。そして、広告内容を考える段階でエスカレートして、「こんなに痩せる」と宣伝してしまいました。

その乖離は当然ダメ。でも、表示対策課はそれだけにとどまらず、「統計的に有意差ありとしても、そんなものは一日の変動範囲に過ぎない。意味のある差、科学的根拠に合理性あり、とはみなしません」という趣旨を今回、伝えたかったのではないか。

だからこそ、表示対策課の大元慎二課長は、記者会見で、あえて踏み込んだ発言をしたのだと私は考えます。記者から「消費者への注意喚起は?」と尋ねられて、大元課長はこう答えています。「健康食品のQ&Aにも書いてあるとおり、食品で痩身効果を得られるということはまずありえません。痩せようとするなら、消費エネルギーが摂取エネルギーを上回る状態を作っていただくことです。食品で痩せるということは通常ありません。健康食品で痩身効果をうたっては、そもそもいけません」。

消費者庁消費者安全課が作成した「健康食品Q&A」のQ3と答え

消費者庁消費者安全課が作成した「健康食品Q&A」のQ3と答え

消費者庁消費者安全課が中心になってまとめた健康食品Q&A
は「食事のコントロールも運動もせず、健康食品だけで安全に、楽に痩せることはありません」と明記しています。

課長の発言は、科学的には見てもごく常識的なもの。欧州食品安全機関(EFSA)でも、食品に対して痩せる表示など認めていません。米国は、こうした特別の成分を含むタブレットや飲料等を食品ではなく「ダイエタリーサプリメント」という分類にしています。担当局(ODS)はWeight-loss(体重減少)について特別ページを設けて成分を列挙し、「体重を減らすのに根拠のある方法は、健康的な食事、カロリー制限、運動。体重減少をうたうダイエタリーサプリメントは根拠が不足しており、多くは高価で医療に支障を来し、有害性があるかもしれないものもある」と説明しています。

ODSが効果が希薄として挙げているのはカプサイシン(Capsaicin)、コリウス・フォースコリー(Coleus forskohlii)、緑茶とそのエキス(Green tea and green tea extract)、プロビオティクス(Probiotics)等、多岐にわたっています。

●トクホが抱える大きな矛盾

ところが、非常に興味深いことがあります。特定保健用食品(トクホ)制度が、この見解と不一致なのです。トクホでも、葛の花由来イソフラボンを含む「葛の花エキス(テクトリゲニン類として)」が表示を許可されています。「本品は、体脂肪やお腹の脂肪に作用する葛の花エキスを含んでいるので、お腹の脂肪が気になる方、お腹周りやウエストサイズが気になる方、体脂肪が気になる方、肥満が気になる方に適しています。」という表示が、2016年3月を皮切りに8製品で許可されています。申請者はすべて、機能性表示食品のOEM企業、(株)東洋新薬です。

トクホや機能性表示食品の有効性、機能性の根拠となっている論文はすべて、同社の研究員が執筆しています。根拠となった論文は、トクホと機能性表示食品でほぼ同じのようです。

今回、消費者庁表示対策課が熟考したあげく、「実験結果の約1kg減、ウエスト約1cmは、通常1日の変動範囲」と説明資料に記したのは、実際のところ、「トクホの許可に問題あり」と言っているのと同じなのです。

(株)東洋新薬は今回の処分にからみ、「あくまでも広告表現に対する措置命令であり、葛の花由来イソフラボンの科学的根拠や表示しようとする機能性(届出表示)が問題とされたのではありません。」とウェブサイトで説明していますが、問題の本質をとらえていない、と私には感じられます。

トクホの審査や根拠資料は非公開ですが、固有名詞を伏せた議事録が後に公開されます。今年1月に開かれた消費者委員会・新開発食品調査部会第38回会合で、今回、表示対策課が問題にした内容が既に議論されています。

私は、トクホの審査内容が時代遅れとなっている、と考えます。制度が始まった1990年代は、質の低い臨床試験で1、2度、統計的に有意差あり、となった程度で表示が許されました。この手の成分研究や臨床試験は急速に進化し、市民の受け止め方も変化しているのに、審査のレベルが追いついていません。だから、表示対策課が「一日の変動範囲」とみるようなものに、「お腹周りやウエストサイズが気になる方、肥満が気になる方に適している」などの表示を許してしまう。トクホの審査も今後、変えてゆく必要があります。

●打消し表示の問題も指摘

もう一つ、今回の行政処分には注目点があります。「打消し表示」に対する判断です。各社共に、「個人の感想です。効果効能を示すものではありません」等の打消し表示を行っていました。これを付けておけば、広告の多少の行き過ぎも黙認される、言い訳になる、という考えていたのでしょうか。しかし、表示対策課は、打ち消しになっていないと説明しています。

打消し表示の報告書については以前に、健康食品の体験談広告、厳しい規制へという記事を書きました。この時の方針通り、具体的な事件においても、打消し表示に対する厳しい姿勢が明確に示されるようになりました。

業界には、今回の行政処分に対して反発があると聞きます。しかし、私には科学的、かつ国際的にも常識的な判断であるように思えます。やっと、機能性表示食品、特定保健用食品に正常化の兆しが見えてきたのです。

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