ホーム >  専門家コラム > めんどな話になりますが… > 記事

めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

船出です。よろしくお願い致します

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2011年4月1日

 東北地方太平洋沖地震と津波により、多くの人の尊い命が失われました。謹んでお悔やみ申し上げます。また、被災され苦しい思いをされている方々に、心よりお見舞い申し上げます。
                       FOOD COMMUNICATION COMPASS

 

 
 3月11日、私は港区にある三田共用会議所で開かれていた会議に出席していた。大きな揺れが来て会議はストップ。家族に電話しようとしたがつながらない。ショートメッセージサービスでメールを送り、夫からはすぐに返信。高校生の娘からは30分後くらいに返事が来てほっとした。この時は、東北や北関東を大地震が襲ったことを知らず、そしてまさにその瞬間、津波が来ていたことも知らなかった。20数キロの道のりを歩いて帰り深夜、埼玉県内の自宅にたどり着いてテレビをつけ、想像を絶する事態となっていることを知った。

 かれこれ4年前のこと。消費生活コンサルタントの森田満樹と私との世間話の中でどちらからともなく、「マスメディアを批判するだけではダメ。ウェブサイトで、迅速に情報発信し、記者や市民に覗いてもらえるような活動ができないか」という話題が出た。その後、森田が家人の転勤でタイへ行き2年間中断。森田が帰国してから二人で、「ウェブサイトを作りたい。でも、運営資金をどうしよう? 企業化しようか、でも、お金儲けをしながら情報を出しても、その情報の中立性が疑われてしまうのではないか?」と考え続けた。

 「とりあえず、自分たちが読みたいと思うウェブサイトを作るのが大事」と踏み出したのが昨年秋。消費者行政がおかしくなり、一部の消費者団体の声ばかりに迎合してほとんどの消費者の利益にはならない施策が公然と展開されている今だからこそ、消費者団体として活動しようと決めた。最初の運営資金を二人で出し合い、有料会員も募って支えてもらおうと考え、4月初めの団体設立、ウェブサイトオープンへ向けて準備を急いだ。そんな時期に、地震が起き津波が発生し、福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染が始まった。

 「ウェブサイトのオープンの時期として適切ではない」「どの人も余裕がない。有料会員が集まらないのでは」。不安が膨らむ。一方で、「こんなに混乱している時期だからこそ、科学的に適切な情報を出すべきだ。私たちのサイトで、さまざまな識者の意見も伝えて行くことで、風評被害を抑えることに少しでも役立ちたい」という気持ちが募った。予定通り、4月初めから活動を始めることを二人で確認した。

 そして今日オープン。準備不足だが、大勢の人たちの助けをいただき、なんとか船出に漕ぎ着けた。私たちが、連載記事を書いて欲しいとお願いした専門家のほとんどが快く応じてくださり、今後も新しい連載が次々に始まる予定だ。食のさまざまな分野の深い情報、鋭い視点を提供できると思う。私たち事務局も、国の動き、企業の動向など、迅速に提供していくつもりだ。

 一般の市民、消費者、生活者に読んでもらいたい。もちろん、生産者や食品事業者、行政職員などにも見てもらいたい。一人一人がしっかりと考え、判断していくためのサポートを微力ながら展開したい。

 
 私は、森田がタイから帰ってきて発した言葉が今も忘れられない。「日本はおかしい。本当におかしい。こんなに豊かに暮らしていて衛生状態だって食品の安全性だってものすごく高いのに、みんな不安ですごく質の高い食品をどんどん捨てている」。森田は怒っていた。森田の中ではその頃から、「消費者運動をしたい」という気持ちがむくむくと高まっていたそうだ。

 森田は、それまで懸命に働き続けた。自分は東京で勤め、夫が名古屋に転勤になった時には、幼い男の子を抱え、しかも妊娠中だったにもかかわらず、東京と名古屋の中間の静岡に居を構え、森田は東京へ、夫は名古屋へ新幹線通勤をした。もちろん、会社は新幹線代を出してくれないから、給料のほとんどは交通費と保育料に消えた。これほど頑張って働き続けた女性は滅多にいないだろう。
 夫がタイへの転勤を命じられた時も、付いて行くかどうか迷っていた。私はその気持ちを汲み取れず、気楽に「家族は一緒の方がいいよ」と言ったのだ。

 森田は、2年間を海外駐在員の妻として過ごした。タイで貧しくとも活気にあふれる人々を見ながら、豊かな日本人として暮らした。そして、自分のために働くだけでなく、よりよい社会を目指し貢献する新しい消費者運動を始めたい、と考えるようになったという。

 森田の日本、社会、そして既存の消費者運動に対する怒りに、私は心を揺さぶられた。私も、何年もマスメディアの混乱した報道を批判する原稿を書きながら、「じゃあ、お前は社会に対して何ができているの? 単に高見の見物をして偉そうに斬ってお金をもらっているだけではないの? ずるい評論家になっていない?」と自らに問い続け苦しんでいた。森田との共同作業が、その問いに対する答えの一つとなる。

 期せずして、二人とも1963年生まれの九州女である。さてなにができるか? 頑張って行こうという決意は固いが、肩肘張らず、地道に、面白がりながら情報収集し、発信していきたい。多くの方と情報交換を重ね、多角的な視点を市民、生活者に提供したい。社会を大きな湖にたとえれば、私たちの活動など本当に微小な一粒の水滴。でも、その一滴がなければ波紋は生じない。ちっちゃな波紋がいつか、大きな変革につながりますように。皆様にもご支援、ご指導いただきたい。

⇒ めんどな話になりますが…記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM お役立ちリンク集