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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

風評被害は起きて当たり前。市民をバカにしないでほしい

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2011年4月19日

 週刊誌「女性自身」の記事を読んで、その科学的根拠の欠如と、「おどろおどろしい話で誌面を埋めときゃいい」的仕事に対してあまりにも腹が立ったので、昨日のコラムで「女性週刊誌は信用するな!」と書いてしまった。短絡的だったなあ、と反省しきり、である。女性週刊誌だっていろいろだし、得意分野もあるので、「信用するな!」はやっぱりまずい。「いろいろ考えながら読みましょうね」くらいが妥当なところだろう。

 食品関係者の多くが記事を読んで立腹していると思うが、私が怒った理由は、おそらくほかの人とは異なる。同業者だから、この記事のつくりがいかに安易か、わかる。こちらの希望に応じて自在にコメントしてくれる知り合いの“ジャーナリスト”に電話してチョチョイのチョイ。2ページあっという間にできあがり、だ。記者が自分で調べた気配がみじんもない。工夫もない。だから、イヤだったのだ。

 いずれにせよ、放射能汚染の科学的解説なしに、「女性週刊誌はだめ」「学術誌は信用できる」という思考を押し付けるのは、ダメな科学ライターのやることである。「国や企業の言うことはウソばかり。信用するな」と、中身の変遷を見ずに十年一日のごとく繰り返す一部の消費者団体の行動と同じである。深く反省します。

●“風評被害”の原因は…

 それに、「女性自身」の熟読は私にとって意義もあった。 “風評被害の原因”がうっすら見えてきたような気もするのだ。

 私が「読むな」と書く原因となった「魚の選び方&食べ方」の記事は、次のような食品ジャーナリストのコメントで始まっている。

「現時点で放射能汚染のリスクが高い魚介類は、宮城沖から茨城沖で水揚げされたものですが、国の“暫定規制値”そのものが信用できません。“規制値以下だから食べても大丈夫”と言われても納得できるわけがない」

 記事の大前提はこれ、国に対する不信感なのだ。

 今まで「安全である」としか言われてこなかった原発が事故を起こした、という事実。そしてそれ以上に、後の対応の不手際、情報をきちんと明らかにせず、普通の市民に分かってもらおうという姿勢を見せず、決まりきった文言を繰り返す姿勢に、国民はいらだっているように思える。

 信頼できない相手がいくらリスクを語っても、理解にはつながらない。同志社大学心理学部の中谷内一也教授が「リスクコミュニケーションに信頼は不可欠」と常に言うけれど、信頼が根底から崩れた今、国や原子力安全・保安院、東京電力などがいくらリスクの大きさを国民に分かってもらおうとしても、難しいだろう。

 記事はそのポイントを見事に冒頭に突き、「全部信じられないでしょう。自衛するしかないんですよ」と、買い物や調理のコツを伝授する。それがどれほど非科学的でも、「何かしなければならないはずなのに、何をしたら良いかわからない」と焦っている女性達の心に、すっぽりと入り込む。

 そういう意味で、この記事はよくできている。「科学的に意味がないから、そんな無駄な努力はやめなさい」では、女性たちの心は落ち着きどころがないのだ。

●矛盾する情報の垂れ流しが不安を産む

 では、科学的な理解を踏まえて心を落ち着かせてもらうにはどうしたらよいだろう。安心にはほど遠いが、「感情を抑えて、少し理性的にならなくては」と市民に思ってもらうにはどうしたらよいだろう?

 国や関係者はまずは、率直に情報を公開し、きちんと説明することからはじめる必要があるのでは。一つは原子力発電所の現状と見通し、二つめが、事故に起因する環境や食品、水などの汚染の状況と対処法について、である。

 私は原子力発電については不案内なので、後者について考えると、食品や水の汚染に関して、ていねいに説明する努力がなされているとはとても思えない。二つの矛盾する情報が同時に流されていて、多くの人たちが、わけがわからなくなっているのではないか。

 「放射性物質の摂取、放射線への曝露はできるだけ少ない方が良い」といいつつ、暫定規制値を設定し、「暫定規制値を下回っていれば安全です」と言っているのだ。この二つは一見して完全に矛盾している。普通の市民が「あれっ、どうなっているの? どちらが本当なの?」と思って当たり前。混乱した市民が風評被害を起こして当然だ。

 食品安全委員会も、緊急取りまとめで「食品中の放射性物質は、本来、可能な限り低減されるべきもの」と言いつつ、健康影響がないと考えられる「指標値」をとりまとめた。だが、なぜこういうことになるのか、市民の率直な疑問に答える詳しい説明がない。

 遺伝毒性発がん物質にかんするこれまでの議論、放射線の影響に対する疫学調査結果を知っていれば、この分野の研究にかなりの不確実性があり、データが不足していることが理解できる。それを踏まえて現実に対処しようとした時に、この矛盾する二つのメッセージを国は出さざるを得ない、という事情も分かる(このことについては、明日から別稿で詳しく解説していきたいと思う)。でも、そのまま二つの事柄をぽんと投げ出されるだけでは、背景知識のない一般市民には分からない。

 科学の不確実性を今こそ、率直に語るべきだろう。科学者も国も機関も、「分からないことが多いのだ」と明確に伝えることから始めないと、信頼は回復しない。「分からないことが多いけれども、科学的に確実なことから類推して、なおかつ極力安全側に立った考え方で規制を敷いている」と市民に語りかけ、その限界も語るべきではないか。なのに、現状では多くの科学者も国も、矛盾する情報を垂れ流しながら、不確実性を隠して「安全です。風評被害を防ぎましょう」の一点張りとなっている。

 矛盾した情報を理解できない市民をバカにしているように見えて、不愉快にもなってくる。最初の話に戻ると、女性自身の編集者も漠然とそんな気分を覚えているからこそ、お手軽記事を作ってしまったのかもしれない。

 福島第一原発はまだ放射性物質の外部への放出が止まっておらず、今後の見通しがたたない。現状では、市民が不安になって当たり前、福島産や茨城産の農産物、水産物が売れなくなって当然。風評被害の責任を、市民に押し付けないでほしい。

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