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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

適切に怖がりつつ安心して食べるために〜自分で計算しよう

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2011年3月27日

 予想した通り、暫定基準値(暫定規制値)を超える農作物が次々に見つかっている。国が「今、出回っているものは安全です」と言ったそばから出荷規制、さらに摂取の制限まで求めるという混乱した事態である。水道水でも、高い数値が検出された。もはや、一般市民は何を信頼してよいか分からなくなってしまっている。だから、もぐらたたき規制は最悪なのだ。

 適切に怖がりつつ安心して食べるために、基本的な事項をていねいに説明したい。

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適切に怖がりつつ安心して食べるために~自分で計算しよう!

 まず、農作物の放射能汚染とはどういうことか? ということをきちんと知っておきましょう。

 農産物が放射線を浴びて変なことになってしまっている、とイメージしている人もいるようですが、それは違います。農作物に付着したり、中に吸収されたりしている放射性物質を体の中に取り込むことが問題なのです。

 福島第一原発から、放射線を発している放射性物質が大気中に出てしまいました。それが漂い、風にも乗って、周辺の農作物の表面に落ち、付着しています。あるいは、土壌に落ち、水にも溶け、農作物の根から吸収されて農作物の中に入ります。

 現在(3月24日)は、放射性物質が大気中に出てからまだ短く、後者の根から吸収されている分はごくわずか、と考えられ、前者の農作物の表面に付く分を考えればよいでしょう。

 この表面に付いた放射性物質を食べるとどうなるか? 体の中で放射線を発することになります。これが「内部被ばく」です。体に放射性物質が付いた場合、払い落としたり水で流し落としたりすれば、それで放射線の影響はなくなります。ところが、体の中に入った放射性物質は、多くは短期間で代謝されて尿などに混じり排出されますが、一定量は体の中に留まって放射線を発します。したがって、放射性物質を体の中に取り込む内部被ばくはなるべく避けた方がよいのです。

 しかし、放射性物質は自然界にも存在し、普通の農作物、水産物など食品すべてにごく微量ながら含まれており、私たちは常に食べています。放射性物質の体の中への取り込みを完全にゼロにして生き物が生存することは不可能です。私たちは常に、放射性物質と共存しているのです。

 しかも、放射線も微量であれば、私たち人類はその影響をはねのけて健康にまったく問題なく生きられることが分かっています。生き物の細胞は、放射線を受けた時に修復し回復する力を持っています。なので、放射線を浴びても少しの量であれば細胞が頑張ってくれるのです。

 繰り返しますが、自然界にも放射性物質はあり、被ばくする放射線量をゼロにすることはできません。したがって、細胞が頑張ってくれる程度の量に、浴びる放射線を抑えることがとても大事です。放射性物質がほんの少しだけ付いた農作物を食べても、発する放射線量はわずかなので大丈夫です。放射性物質が多く付いた農作物も、1回食べる程度なら人の細胞はまだまだ戦って回復してくれるでしょう。しかし毎日たくさん食べると、体の中に放射性物質がたまり、細胞の戦いは追いつかなくなる恐れがあります。だから、放射性物質が多く付いた農作物は、食べ続けてはダメ、です。

 では、どの程度の農作物であれば食べても大丈夫なのか?

 ここで、少し計算をしてもらわなければなりません。

 今、国や自治体の発表、マスメディアの報道では、Bq/kgという単位が使われています。「福島県産のホウレンソウからも4万ベクレル(1kgあたり)を検出した」という具合です。

 このベクレル(Bq)という単位は、おおまかに説明すると放射線を出す能力、つまり放射能を表しています。Bqの数値が大きくなると、放射線を多く出している、ということを意味します。

 しかし、Bqの数値だけでは人体への影響の程度はよく分かりません。放射性物質といっても、ヨウ素やセシウムなどいくつもの種類があり、またそれが発している放射線もα線、β線、中性子線などいろいろと種類があり、それぞれに人体への影響の程度は異ります。そこで、それらをまとめて評価するための指標としてあるのがシーベルト(Sv)です。シーベルトに換算してまとめると、私たちがトータルで放射性物質からどの程度の影響を受けるのか、ということを検討することができます。

 Bqの値をSvにするには「実効線量係数」という数字をかけて算出する必要があります。この数字をかけると、放射性物質を体の中に取り入れて50年間にあびる放射線量が算出されます。

成人の場合、次のようなかけ算をしてください。なお、1シーベルト(Sv)=1000ミリシーベルト(mSv)=100万マイクロシーベルト(μSv)です。

【放射性ヨウ素131の場合】

Bq × 0.022 = μSv

例えば、放射性ヨウ素が50,000Bq/kgのホウレンソウを1日に200g食べた時の計算をしてみます。

1日分は

50,000×0.022×【200g/1000g】=220μSv=0.22mSv

10日続ければ、2.2mSvの被ばくです。

【放射性セシウム134の場合】

Bq × 0.019 = μSv

例えば、放射性セシウム134が10,000Bq/kg含まれているクキタチナを1日に100g食べた時の計算をしてみます。

10,000×0.019×【100g/1000g】=19μSv=0.019mSv

1週間(7日間)続けて100gずつ食べれば、0.133mSvの被ばくです。

【放射性セシウム137の場合】

Bq × 0.013 = μSV

例えば、放射性セシウム137が5,000Bq/kg含まれているブロッコリーを1日に200g食べた時の計算をしてみます。

5,000×0.013×【200/1000g】=13μSv=0.013mSv

3日間続けて200gずつ食べれば、0.039mSvの被ばくです。

 こうして算出できた放射線量(mSv)で、体にどのような影響が出るのかを考えてみましょう。

 まず、1年間に何シーベルトを被ばくすると、どんな影響が体に出てくるのか、これまでの調査研究結果を見てください。

4000mSv以上 60日以内に半数の人が死亡
3000mSv以上 脱毛
1000mSv以上 吐き気 がん死亡が生涯で5%増加
500mSv以上 白血球が一時減少 がん死亡が生涯で2.5%増加
250mSv以上 緊急作業従事者の被ばく限度
100mSv 以上 発がんリスクがごくわずか(0.5%程度)増加
10mSv/年 ブラジル・ガラバリ海岸の一部で自然に受ける放射線
2.4mSv/年 一人当たりが自然に受ける放射線の世界平均

6.9mSv/1回 CTスキャンを1回受けた時の放射線量
0.6mSv/1回 胃のX線集団検診を1回受けた時の放射線量

 近藤宗平さんという有名な科学者は、「年間に50mSvの被ばくは、リスクゼロ。人体は少しの放射線にはびくともしない」と言っています。国は、より安全側に立った判断として、「一般市民が、自然界からの放射線や医療行為(X線撮影やCTスキャンなど)を除いて、受けてもよい限度量」として「1mSv/年」という数字を決めています。

 1mSvという数字と比較すると、放射性ヨウ素50,000Bq/kgのホウレンソウを200g食べた時の0.22mSvという数字は約5分の1。したがって、1回食べたからどうかなる、ということはありませんが、結構高いかな、という印象です。これを食べ続けると1mSvは簡単に突破します。でも、50mSvにはほど遠いです。

 国は、こうしたことを考慮して、食品に規制値を設けました(急いでいたので、暫定規制値ですが、食品安全委員会が今、大急ぎで評価を行っています)。

 放射性ヨウ素の暫定規制値は、飲料水と牛乳・乳製品が300Bq/kg、野菜類は2000Bq/kgです。放射性セシウムは、飲料水と牛乳・乳製品が200Bq/kg、野菜類や穀類、肉・卵・魚・その他は500Bq/kgです。

 これらの規制値は、先ほど計算した50,000Bq/kgとか10,000Bq/kgなどの数値と比較すると、非常に低くなっています。放射性ヨウ素50,000Bq/kgのホウレンソウを200gというかなりの大量食べても1mSvには至らなかったことを思い出してください。

 こうした厳しい規制値で食品を管理することによって、日々の食事で取り込む放射性物質を、細胞が戦って回復できる量にとどめようとしているのです。

 基準を超えた食品が見つかったら、それは警告の印。「この食品は要注意だよ」と数値が教えてくれています。その食品を注意していくつも測定してみて、高い傾向であれば国は、出荷停止の措置をとったり、「食べないように」という指示を出したりしています。

 もう一つ、付け加えたいことは、放射性物質それぞれの性質です。放射性ヨウ素は、放射線を出すとキセノンという安定した物質に変わってしまいます。放射性ヨウ素の量が半分になるのにかかる日数は約8日間です。したがって、16日間で4分の1、24日間で8分の1になり、日を追うごとにどんどん減って行きます。

 このまま、原発事故が終息に向かえば、放射性ヨウ素については、もう少ししたら、心配しなくてもよくなるでしょう。

 一方、放射性セシウム134が半分になる期間は2年、放射線セシウム137が半分になる期間は30年です。したがって、放射性セシウムが農作物にどれくらい含まれているかについては、今後もしばらくは厳重な注意が必要です。

 以上の計算は、農作物を成人が食べる場合について行いましたが、水も同じ計算をします。

 東京都の金町浄水場で22日、210Bq/lの放射性ヨウ素が検出されました。つまり、水道水1リットルを飲むと、210×0.022=4.62μSv=0.00462mSvの被ばく量です。

 重要なことは、水道水や農作物に放射性物質があるかないか、ということではなくて、「どのくらいの量を摂取したか」という「量」です。量が少なければ、人の体自身が戦ってくれて、勝利してくれます。心配するまえに、「私は今日、どれくらいの量を食べたかな?」と考えて計算をしてみてください。そうすれば、体の中に取り込んでしまった量は、多くの科学者が「体に影響が出ない」と考えている50mSvにほど遠いことが、自分自身で実感できるはずです。

 子どもについては、もっと厳しめに判断した方がよいとされています。ただ、子どもは食べる量も少なく、ホウレンソウを200g食べる、というようなことはありません。

 乳児を粉ミルクで育てている場合は、水道水を1日に500~1000mlくらいは飲ませます。摂取量が多いこともあって、国は非常に用心したスタンスで、水道水の放射性ヨウ素が100Bq/kgを超える場合には、乳児には与えないように通知を出しています。

 ただし、乳児でも自然界から浴びている放射線量は世界の平均で年間2.4mSvです。先ほど計算した210Bq/lの水道水を1l飲んだ時の放射線量は、0.00462mSvで、2.4mSvに比べると非常に小さな値であることを知っていただきたいのです。

 私たちはもともと、放射性物質と共存してきました。不幸な事故が起こり、今は大気中に少し多めの放射性物質があります。でも、この状態にも理性的に対処しなければならないのです。パニックに陥らず計算して、適切に怖がり安心して食べて行きましょう。

参考文献

緊急被ばく医療研修のホームページ
原子力施設等の防災対策について
原子力百科事典
安全安心科学アカデミー
食品安全委員会・東北地方太平洋沖地震の原子力発電所への影響と食品の安全性について
福島原発の放射能を理解する
厚生労働省「福島第一・第二原子力発電所の事故に伴う水道の対応について」
原子力資料情報室

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