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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

有機スプラウトが、ドイツのO104食中毒の原因だった

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2011年6月16日

 ドイツで起きていた腸管出血性大腸菌O104による食中毒事件で、ドイツ当局は、有機農場で育てられたスプラウト(もやしなど新芽野菜)が原因と断定した。そこで欧米で話題となっているのが、(1)スプラウトはリスクが高いのか(2)有機栽培に問題があるのか——の2点だ。
 日本でも役立ちそうな情報が多いので、簡潔にまとめておきたい。

 
スプラウトは危ないのか?

 European Center for Disease Prevention and Controlによれば6月15日現在、3351人の患者が発生し、うち37人が死亡。患者の中で821人は、溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症している。

 多くの報道は当局の話として、種子が汚染されていたか、農場の労働者がもともと感染していたか、どちらかが原因だと伝えている。
 Der Spiegel紙は、ブロッコリーとニンニク、fenugreek(マメ科の一年草。コロハとも呼ばれ、田辺三菱製薬は生薬の一つとして紹介している)を食べた労働者が感染している一方で、アルファルファ、香辛料の種子をミックスしたもののスプラウトを食べた人は感染していない、と伝えたらしい(Food Safety news が伝えているのだが、Der Spiegel紙の英語サイトには記事がなく、ドイツで掲載されていると思われる)。

 つまり、ブロッコリーとニンニク、fenugreek の種子が怪しい、というわけだ。

 しかも同じ州で、家で育てたスプラウトを食べた一家が腸管出血性大腸菌に感染したと、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は明らかにし、自家製スプラウトに対しても注意を呼びかけた
 ますます、種子の汚染に注目が集まっている。

 スプラウトが原因の食中毒は、これまでに世界で数多く発生している。bitesというサイトにリストアップされていた。サルモネラ菌が多いが、腸管出血性大腸菌O157も目立つ。

 スプラウトは、温度が高め、湿度も高い室内で大量栽培する。多くの細菌にとって増えやすい環境だ。しかも、消費者が生で食べることがほとんど。泥が付いていないのできれいに見えて、十分に洗わない人も多いだろう。何らかの形で栽培の場に有害微生物が入ってしまうと、食中毒のリスクはかなり高いと言わざるを得ない。

 米国食品医薬品局(FDA)は以前から、スプラウトに対する注意を呼びかけ、ガイダンスも作っていた。その中で、種子の生産や貯蔵、輸送、栽培、微生物検査等について述べている。種子の消毒も必須となっており、20000ppmの次亜塩素酸カルシウムによる消毒などを例としてあげている。

 国際スプラウト協会もさっそく反応。今回の問題は、ドイツの一農場が原因であり、協会メンバーは十分に安全性に気を配って栽培していることを伝えている。

 

有機栽培のリスクは…

 そこで出てくるのが(2)の有機栽培の問題だ。有機栽培では、使用を許されたわずかな物質を除き、原則として合成化学物質は使わない。問題となった農場も、種子の消毒に薬剤を使っていなかったのではないか。

 この問題にさっそく目を付け報道したのが、ロイター電Analysis: E.coli outbreak poses questions for organic farmingである。
 
 結局のところ、スプラウトが安全か、危険か、有機が安全か、危険かという二者択一で考えるのではなく、どのような管理をしてリスクをコントロールしているか、が重要だ。

 日本で1996年、カイワレダイコンによるO157食中毒が問題となった時、全国でカイワレダイコンが売れなくなった。あの時、私も事件とは無関係のカイワレダイコン業者を取材したのだが、「栽培している場所もやり方もまったく違うのに、全然売れない。店頭にも並べてもらえない」とこぼしていたものだ。

 その後、日本のカイワレダイコン業者は、衛生管理を非常に厳しく行うようになった。種子の消毒はもちろん、水の安全確保も重要。特に、水道水ではなく地下水を使う場合、業者は細心の注意を払っている。O157を牛の10〜30%は保菌しており、排泄物に大量に含まれているからだ。地下水が排泄物で汚染されれば、大きなリスクとなる。

 ロイター電も、有機栽培における堆肥による腸管出血性大腸菌汚染に言及している。
 国内では、排泄物を発酵させて作った堆肥が、有機農家だけでなく一般の農家でも広く使われている。高温で一定期間、発酵させた堆肥は、有害微生物が死んでいるとされているが、未熟な堆肥も出回っている。堆肥の有害性については、食品安全委員会の委託調査によって作られた「肥料中の有害物質の挙動に関する文献及び肥料の安全性に関する国際的な制度の調査報告書」に詳しく書かれている。
 
 もちろん、スプラウト生産は、種子や水に注意するだけでなく、栽培時に菌が空気や人を介して入り込まないように管理しなければならない。通常の食品工場や弁当工場並みに、中に入るときは着替え、入り口にエアシャワーを備え、工場内の気圧も高めて、菌が栽培工場の中に入らないように努力している業者もいる。

 
ほかのサラダ用野菜農家は大丈夫? 

 実は、私が今、気になっているのはスプラウト業者ではなく、サラダ用ホウレンソウやミズナ、ベビーリーフなどの栽培農家。スプラウト業者は、1996年の食中毒で売れなくなり苦労し、なんとか乗り切った経験がある人が多いので、衛生管理に概して厳しい。厚労省の指導も厳しい。

 一方で、最近は農家が、特徴のある品目を栽培しようとほかの品目からサラダ用野菜に切り替え、水耕栽培もしている。行ってみると、施設は乱雑、汚れていて「こんな衛生管理で大丈夫か?」という農家があったりするのも事実だ。だが、土がついていないので、消費者は注意を向けず、未洗浄のまま食べてしまったりするのだ。

 他国であったアウトブレイクは、衛生管理を見直すよい機会でもある。日本では今のところ、ドイツの事件が消費者に影響を与えていない。だからこそなおさら、日本の関連する業者は衛生管理をしっかりと確認、強化してほしい。

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