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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

「不検出」なのに、放射能抜き指南?

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2011年6月30日

 食と放射能汚染をめぐるトンデモ報道の特集を始めた。まず取り上げたのは、朝日新聞社発行の「AERA」6月13日号の「1日2杯の味噌汁」について(森田満樹執筆)。なぜまず、AERAなのか、というと、簡単な話。AERAはこの数年、食の安全業界の関係者の注目の的なのだ。
 健康的な食生活として、「添加物批判者の食卓」を特集し、高塩分のメニューをずらずら並べた(2006年10月16日号)。高塩分の食事が発がんリスク、生活習慣病のリスクが高いのは明白。適正に使われればリスクを無視できると国際的に見解がほぼ一致している保存料などの食品添加物を排斥して、自らリスクの高い食事をするとは……と、一部の人たちの間でしばらく話題となった。
 また、中国製冷凍ギョーザ事件の後には、中国「有毒」全リストと称して、中国からの輸入食品の食品衛生法違反事例を表にして掲載した。「違反割合は他の国に比べて高くないぞ! 輸入数が多いから違反事例が多いだけなのに」と批判された(2007年8月1日号)。
 今回も、森田はシンポジウムの会場で出会ったとある知人に、「AERAがとんでもないことになっているから、書いてくださいよ」と耳打ちされたそうだ。AERAは業界の“人気者”である。

●検査では、不検出が続出

 というわけで、今回もAERAについて。
 6月13日号の食品の放射能汚染にかんする読み物は2本の記事で構成されている。「こうすればおいしく除去できる 放射能抜きは和食の基本」という記事で、さまざまな食材の調理法を伝え、続いて「1日2杯の味噌汁が効く」の記事に読み進める流れとなっている。
 正直に書くと、私は味噌汁に関する記述はあまり気にならなかった。1日2杯の味噌汁なら、日常的に食べている人がいそうだ。そして、私にとって絶対に看過できない問題が、味噌汁以外のところの記述に2つあった。
 
 1つは、さまざまな放射能抜き指南が、実際の農産物、水産物等のモニタリング検査結果や流通状況をまったく反映していなかったことだ。
 たとえば牛乳。「牛乳そのものは基本的には、工業的な方法で放射性物質を取り除く方法しかない」と書き、識者に「チーズやバターは、牛乳から乳清と呼ばれる水分を取り除いた部分から作るのですが、放射性セシウムやストロンチウムは、ほとんどが乳清部分に移るので安心と言えます」と語らせている。

 だが、厚労省のまとめた検査結果を見てほしい。 牛乳、原乳共に、事故当初は福島県産を中心に検出があるが、4月の半ば以降はほとんど不検出、検出限界以下なのだ。
 コープネット事業連合がエクセルファイルにまとめており、福島第一原発事故にともなう放射性物質問題へのコープネットの対応について からダウンロードできるようにしている。このエクセルファイルで、品目別に見てみると、よりわかりやすいだろう。

 酪農家は、栽培中に放射性物質の降下(フォールアウト)に見舞われた牧草などを餌として食べさせないように気をつけ、水にも気を配って飼育している(農水省・原子力発電所事故を踏まえた飼料生産・利用等について参照)。その結果が、この2カ月、ほとんど不検出、放射性セシウムが検出されても数Bq以下、という結果となって表れている。

 AERAの記者が記事を執筆した時点でも、少し調べれば検査結果は分かったはずだ。だが、記事には書かれていない。これでは、読者は「牛乳は飲まない方がいい」と受け止めてしまうだろう。不検出なのに放射能抜きを指南する記事こそが、風評被害をまき散らしているとしか私には思えない。

● 6000品目の検査結果は尊重していい

 肉にしても野菜にしても、検査結果のかなりの割合が不検出である。肉の対策は、牛乳と同じである。現在出回っている野菜の多くは、フォールアウトの時点ではまだ栽培されていなかったか、小さかったものであり、フォールアウトによる付着は考えにくい。土壌に入った放射性物質を野菜の根が吸収し可食部に移行することは起こりえるが、これまでの研究から移行割合は非常に低いとみられる。また、農水省は品目による移行係数なども公表して、農産物の放射能汚染を防ぐための注意を呼びかけている。

 永年作物である果樹や茶の管理は、野菜や畜産物に比べれば難しいが、モニタリング検査が随時、行われている。そして、暫定規制値を超え実際に市中に出回る可能性がある食品については出荷規制がとられ、規制後も検査が続く。原則として1週間ごとに検査し、3回連続暫定規制値以下でないと制限は解除されないからだ。
 これまでに6000品以上が検査され、現在ではウメやシイタケなど出荷規制が講じられている一部の品目を除き、多くが不検出なのだ。

 「国がまとめた検査結果なんて、信用できない」と思う人もいるかもしれないが、これらは、国の緊急モニタリング検査に加え、各都道府県の検査結果もまとめたもの。都道府県がそれぞれ、検査結果を隠す理由はなく、ここまでの検査数が集積した結果は、尊重してよいのではないか。
 また、東都生協は自前のゲルマニウム半導体核種分析装置を所有し、検査結果を公表している。国のまとめと同様の傾向が出ている。
 企業の中にも検査を行っているところがあるが、国と異なる傾向があるという話は聞こえてこない。不検出が多いこと、規制値を上回る食品についてはすぐに出荷規制が講じられていることは事実だろう。

● チェルノブイリに学ぶ教訓は的外れ

 こうした実態があるにもかかわらず、放射性抜き指南をする。それでは、意味がない。
 しかも、根拠の一部はチェルノブイリ原発事故での検討をまとめた小冊子である。チェルノブイリ原発事故では当初、放射性物質が大量に放出されたことが隠されており、住民は何も知らずに生活し、生産者も農業をしていた。特に、放射性物質が付いた草などを食べた家畜の肉を食べたり乳を飲んだりした結果による内部被ばくの影響は大きく、子どもの甲状腺がん増加などにつながったとされている。

 日本は、当初は検査のサンプリング方法や情報の公開の仕方などに大きな問題があったものの、ある程度は情報が公開され、次第に改善していった。市民が、汚染された食品や水などを知らずに大量に食べる、という状況ではなかったし、生産者も前述の酪農家のように、対策を講じている。チェルノブイリに学ぶことは数多くあるが、こと食品対策に関しては、的外れではないか。

 水産物についても、放射性物質が検出されているのはほとんどが福島県沿岸部で採取されたものだが、福島県沿岸部は地震と津波によって漁業が完全にストップし、その後、再開されていない。放射性物質が多い水産物が市中に出回っているわけではないのだ(水産物の検査結果については、水産庁の水産物についてのご質問と回答が詳しい)。

● 生産側の努力をないがしろにするのか

 こうした生産側のさまざまな努力の結果の賜物である不検出の続出を、記事は完全に無視している。そして、具体的な調理法も現実離れしている。たとえば肉。チェルノブイリにかんする文献を基に、「肉を3か月間、塩水を取り替えながら浸しておくと、セシウム濃度を2〜3倍下げることができます」などと紹介し、「これが面倒な場合、肉をこまぎれにしてゆでたり凍らせてから解凍して肉汁を捨てる」などと記述している。もともと放射性物質が含まれていない肉を、こんなやり方で調理しては、味がまずくなるし栄養成分も失われてしまう。生産者の努力をないがしろにする記述である。

 食品の全品検査が不可能である以上、市中に出回る食品の放射能汚染がゼロである、とは言えない。だが、食品の暫定規制値は、子どもの摂取量なども検討し、子どもであってもリスクを事実上無視できる数値として設定されている。除染を指南するなら同時に、暫定規制値を超えた食品には出荷規制がかかっており、市中に出回っている食品の多くは不検出、検出限界以下である、ということも伝えるべきではないか。両方の事実を踏まえて、除染を行うか、行わないか、決めるのは読者である。

 実態を伝えずに除染指南だけをしているのはAERAのみではない。女性週刊誌でもそうした記事が山のように出たし、「サンデー毎日」2011年7月3日号にも、同種の記述がある。
 AREAに対するもう一つの怒り。それは、健康食品の取り上げ方である。まるで、特定の健康食品の宣伝のような記述がある。そして、この問題についても、サンデー毎日をはじめとするほかの週刊誌、テレビ番組などがまったく同様のミスをおかしている。次回、書きたい。

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