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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

「健康食品で解毒」を信じてはいけない

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2011年7月9日

 前回、AERA6月13日号の記事について、「実際の汚染状況に基づかずに放射能抜きを指南している」と批判した。その記事には、もう一つ大きな問題がある。チェルノブイリでの臨床研究を基に、「スピルリナ」という健康食品を「体内のセシウムやストロンチウムを吸着し、排出する働きがあると考えられている」と紹介している。健康食品メーカーの部長の「日本での認知度は低いですが、ヨーロッパでは高い。福島の事故後、ヨーロッパの人からスピルリナを薦められたなど、問い合わせが増えています」という言葉も掲載している。

 AERAに限らず、多くのメディアが同じようなことはしている。サンデー毎日7月3日号は「アップルペクチン」を紹介した。アップルペクチンは、テレビでも取り上げられているそうだ。

 「これらの効果の科学的根拠は?」と論文などを調べてみると、はなはだ心許ない。こうした報道はすぐに、食品の売上増につながり、特定の業者の利益に結びつく。したがって、科学的根拠が慎重に吟味されるべきだと思うし、根拠に欠ける「フード・ファディズム」の問題点は、高橋久仁子・群馬大学教授などによって繰り返し指摘されてきた。だが、メディアはまた同じ間違いをおかしているようだ。

スピルリナ効果は論文がない

 AERAが、スピルリナの効果の根拠として挙げているのは、ベラルーシの放射線医学研究所が行ったとする試験で、子ども100人にスピルリナを1日5g、20日間にわたって食べさせたら、尿中の放射能レベルが50%低下したという。この結果を受け、国が子ども49人に45日間摂取させたところ、「8割の子どもで尿中の放射能レベルが減少した」と書く。

 当然、論文があるだろうとPubmed(米国国立医学図書館が運営する医学論文のデータベース)でSpirulina(スピルリナ)とChernobyl(チェルノブイリ)という2つのキーワードで検索したが、該当する論文が出てこない。ほかのキーワードをいろいろと組み合わせて探したが、わからない。そのため、論文だけでなく学会発表や報告書も拾い上げることができるgoogle scholarで検索したところ、面白いものが見つかった。

 スピルリナの本を出し、AERAにも登場した健康食品企業の研究者と共に論文を出しているAmha Belay氏が福島原発事故後、ハーブ販売サイトでスピルリナによる放射線防御効果についての文書を発表しているのだ。「現在までに発表されている科学文献を基にスピルリナの効果を明らかにする。しかし、これを基に診断したり治療をしたりしてはいけないし、消費者は医師と相談のうえスピルリナを用いるかどうか評価すべきである」と最初に説明しているから、比較的良心的な姿勢だと思える。

 その文書の中で、AERAが紹介した研究にも触れているのだが、根拠は学会発表。ほとんどの学会発表は事実上、なんの審査もなく行われており、これは科学的根拠とは言い難い。
 Belay氏は、ほかの研究も紹介してスピルリナの効果について語っているが、研究は学会発表が多く、論文報告はわずか。この程度では、スピルリナの放射線防御効果は、学術界では認められない。

 スピルリナは、健康食品としての有害性を指摘している研究がかなりある(詳しくは独立行政法人国立健康・栄養研究所のウェブサイト「健康食品」の安全性・有効性情報』で検索を)。無責任な報道は、許されるものではない。

アップルペクチンは論文あるが、こてんぱん

 サンデー毎日は「セシウムを排出するアップルペクチンの効能」というタイトルで記事化している。紹介しているのは、ベラルーシの研究機関「BELRAD研究所」が行ったという研究。アップルペクチン(2g相当)を添加した食品を3週間食べさせた場合と食べさせない場合の体内セシウム量を比較したところ、未摂取の子どもは13.9%減だったが、摂取した子どもは63.6%減っていた、という。

 pubmedで、pectin(ペクチン)とcaesium(セシウム)という二つの言葉で検索すると、たしかに2004年に、Institute of Radiation Safety Belradが論文を2つ出している。

 この研究所は、ウェブサイトによれば、民間組織であり、アップルペクチンにビタミン類や微量元素等を加えた食品添加物「Vitapect」を作り、売り出していることが明記されている。そして、21日間子どもに食べさせた結果、プラセボ群は体内の放射性セシウムが14%減、Vitapectを食べさせた群は66%減となったことが説明されている。この内容がサンデー毎日の記事に近い。

 では、論文の中身はどうか?
 Vitapect摂取による体内セシウム濃度や心臓疾患への影響などを調べている。地元でできる汚染された食品を食べながら、Vitapectを1日に2回、5gずつ16日間にわたって摂取した結果、もともと体内セシウム濃度が中程度のグループでは、体内セシウムが39%減った。高程度のグループでは、28%減である。心臓血管系や心電図の異常も、Vitapect摂取により軽減されたという結果が出ている。

2004年1月の論文
2004年12月の論文
  
 ところが、興味深いことにこの2つの論文を、けちょんけちょんにけなしている公的機関があるのだ。フランスの放射線防護原子力安全研究所(IRSN)である。2005年に「Evaluation of the use of pectin in children living in regions contaminated by caesium」という報告書が出ている(IRSN ニュース)。

 ベラルーシに駐在するフランス大使がペクチンの効果についての評価を依頼してきたので、IRSNが検討したようだ。だが、論文をとことん批判している。実験設計がおかしく、説明されるべきことが説明されていない、被験者の数に矛盾がある等、容赦ない。
 
 IRSNは、この2004年の研究以外のペクチン研究も含めて評価し、現状ではペクチンが放射性物質の除去に役立つとする根拠がないことを示し、必要な試験等を懇切丁寧に提言している。

 だが、提言に沿う実験が行われ発表された気配はない。一つだけ、2007年にBELRAD研究所とドイツの研究者の共著で論文が出ている。取り寄せて読んだが、これまた奇妙な研究だ。
 今度は、子どもたちに放射性物質に汚染されていない食事を摂らせながら、Vitapectと食べさせた群と食べさせないプラセボ群で比較している。Vitapect摂取群は体内セシウムが33%減、非摂取のプラセボ群が14%減という結果だ。論文には、セシウムが消化管内に分泌してくるので、食べたペクチンがセシウムと化学的に結合して排出される、という“仮説”が書かれている。

 だが、論文では仮説の前提となるべき文献が示されていない。セシウムが消化管に選択的に蓄積しているという研究結果、筋肉や内臓など全身にあるとされるセシウムがわずかの間に選択的に消化管内に集まってくるという証拠が、なにも示されていないのだ。セシウムについて、ICRP(国際放射線防護委員会)等は筋肉など全身に分布する、としている。これでは、仮説は受け入れられない。
 この研究は、論文として発表されたが、BELRAD研究所の関係者以外からは引用されていない、という事実も付け加えておこう。要は、レベルの低い論文である、ということだろう。

 ちなみに、フランスでラットを用いて、実際に被ばく治療に使われたことがあるプルシアンブルーという物質とアップルペクチンのセシウム排出効果を調べた結果が、2006年に論文として発表されている。結果は、プルシアンブルーは「効果あり」、アップルペクチンは「なし」である。

効く「健康食品」はない
 
 ほかにもいくつか、「効果がある」と話題になった食品があるが、どれもいい加減な説である。内部被ばくの軽減については、放射線治療や事故における被ばく対策として、医学的研究がかなりの程度蓄積しているが、決め手に欠ける(緊急被ばくの医療研修のホームページ参照)。こうしたことからみても、特定の食品による排出効果など期待できない。そんなものがあれば、とっくの昔に放射線治療を受けている患者さんの食事に活かされているはずだ。

 科学的な検証を確認せずに、「あれがいい」「これがいい」と報道し、それを信じてしまうのは、特定の業者の利益につながるだけだ。報道機関の倫理が問われている。その事実に、消費者も早く気がついてほしい。

 厚生労働省が今年3月、「健康食品の正しい利用法」というパンフレットを作成した。役所のパンフレットには珍しく、実に小気味よく明確に、健康食品の問題点を指摘している。合わせて読んで、判断を。

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