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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

組換えパパイヤの輸入は始まるか? 大阪でのシンポジウムご案内

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2011年8月26日

 世界の耕地面積の約1割で栽培され、日本にも大量に輸入されている遺伝子組換え作物ですが、消費者に受け入れられているとは言い難い状況です。
 認可された組換え作物で、食品としての安全性に疑念が持たれ認可が取り消された事例はありませんし、他の生き物の種としての存続を脅かすような事例、実際上の生態リスクも報告されていません。全米科学アカデミー・研究評議会は2010年、アメリカの農場レベルのインパクトを、経済と持続可能性という両面から検証し、報告書にまとめています。害虫抵抗性作物は、農薬使用量を大きく減らすことに貢献し、除草剤耐性作物の普及により米国では不耕起栽培が定着して表土浸食が軽減したと評価しています。
 にもかかわらず、なかなか理解されないのが、遺伝子組換え作物なのです。

ハワイのパパイヤをウイルスから救った遺伝子組換え技術

 遺伝子組換えパパイヤもハワイで1998年から商業栽培され、斜陽だったパパイヤ産業の救世主となりました。私も昨年、ハワイでパパイヤ農場を見学し話を聞きましたが、斜陽の原因となったリング・スポット・ウイルスは非常に恐ろしい病気だそうです。木が感染すると、果実に黒い斑点ができて売り物になりません。農薬では制御できず、感染すると木を切り倒すしかなかった、といいます。
 遺伝子組換え技術によって、このウイルスに耐性を持つパパイヤが開発され、パパイヤ産業は盛り返しました。生産者は、ウイルス感染を恐れるギャンブルのような栽培から解放され、消費者も妥当な価格でパパイヤを食べられるようになりました。

 日本で遺伝子組換えを研究する科学者らは、以前からずっと「早くパパイヤを輸入できるようにしてほしい」と待ち望んでいました。組換えパパイヤは、ハワイで生産者におおいに歓迎され、消費者の理解も得ています。おいしくて甘いパパイヤを支えるこんなに素晴らしい技術なら、日本であっても理解されるのではないか? 研究者たちの期待はよく分かります。

papaya

消費者委員会でまとまった遺伝子組換えパパイヤの表示のイメージ

 日本では、審議に時間がかかりましたが、食品安全委員会の安全性評価を経て消費者委員会で表示が検討され、パブリックコメントを経て7月27日の食品表示部会で表示方法がまとまりました。
 ほかの組換え作物と同様に分別生産流通管理(IPハンドリング)が基本ですが、パパイヤは1個ずつ、組換えである旨を表示するシールを貼るそうです。現行のJAS法に基づく生鮮食品の表示ルールでは、1個ずつ表示する必要はないのですが、ハワイの生産者が自主的に行うことになりました。
消費者委員会食品表示部会


日本の市場に受け入れられるのは?

 さて、待望の販売開始はいつでしょう?
 水をかけるようですが、私はそう簡単に販売は始まらないのでは、と予想しています。試しに輸入し販売する、というのはすぐに行われるでしょうが、本格販売はまだまだ難しい、と思えます。

 昨年話を聞いた時、日本向けのパパイヤ輸出の関係者は、組換えパパイヤの取り扱いに乗り気ではありませんでした。それもそのはず。現在、主に米国本土向けの組換えパパイヤと、日本やEU向けの非組み換えパパイヤは厳密に区別され栽培されており、日本向けの流通ルートも明確に区分されています。そこにわざわざ、組換えパパイヤの栽培・流通ルートを設けるには、組換えパパイヤによほど、商売上のメリットがなければいけません。

 ハワイのパパイヤは高級品です。日本の普通のスーパーマーケットで売られているパパイヤはフィリピン産で安いものは300円程度。しかし、ハワイ産は高級フルーツ店などで売られ1個1000円近くします。それなりのこだわりを持ち、財布に余裕のある人たちが、ハワイのパパイヤファンなのです。彼らが、組換え技術にどのような反応を示すのか? わざわざお金を出して食べたいと思うのか? 高級フルーツ店は組換えフルーツの取り扱いと店のイメージをどう考えるのか?
 ハワイのパパイヤ関係者は「せっかく、高級イメージが確立されているのに、それを妙なこと、余計なことで損ないたくはない」という恐れが強いようでした。

多様な議論を重ねるための9月9日、大阪

 人は食品を、科学的な論理だけで買ったり食べたりはしません。イメージや習慣や価格や、さまざまな要因が絡みます。「いいものだから、歓迎されるだろう」だけでは、前には進みません。理解を求めるのに拙速になるのではなく、開発者や生産者の情報を提供し、流通関係者の事情や消費者の好みも検討し、多様な議論を重ねること。それが大事なのかもしれません。

 大阪府豊中市で9月9日(金)、「遺伝子組換え作物の実用化—植物バイオテクノロジーのインパクト」と題するシンポジウムが開かれます。主催は日本植物細胞分子生物学会。組換えパパイヤを開発した米農務省のデニス・ゴンザルベス博士が、講演します。あれほどハワイで感謝されている組換えパパイヤの開発の生の話が披露されるのですから、一聴の価値あり、でしょう。
また、ビタミンAの前駆体を作る遺伝子を導入して開発された「ゴールデンライス」についても、開発に携わったインゴ・ポトリカス博士(スイス連邦工科大)が講演します。

 さらに、日本からは青いバラ、カーネーションを作ったサントリー植物科学研究所の田中良和博士も登壇します。開発の当事者たち、しかも、巨大企業に伍して、個性的な品目を開発した3者が顔を揃えるのですから、なんとも豪華なシンポジウムです。

 講演の後にはパネルディスカッションもあり、私もちらっと顔を出します。まあ、枯れ木も山の賑わいです。私は、3人の研究者の開発物語にしっかりと耳を傾け、消費者の理解を深めるヒントをつかむつもりです。

 海外演者の講演には同時通訳がつきます。当日はゴールデンライスや青いカーネーションなどの展示も予定されています。お出かけになりませんか?

(FOOCOMメールマガジン第14号の一部を転載)

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