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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

昔から続けられてきた放射能研究が今、役に立っている

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2011年9月15日

● 継続は力なり

 私は独立行政法人農業環境技術研究所(農環研)の評議員を2004年から務めています。当時はダイオキシン研究が注目されており、農環研はイネが土壌中のダイオキシンをほとんど吸収しないことを明らかにしました。その後は、気候変動の農業への影響研究等で、なかなかに見事な成果をあげています。

 毎年1回評議会に出て説明を聞き意見を述べるのですが、多くの研究テーマが社会の動向に応じて少しずつ変わって行く中で一貫して変わらないのが、インベントリー研究。その中でも特に変化がなかったのが放射能モニタリングとその関連研究でした。

 評議会での農環研からの報告では毎年、こうしたインベントリー研究の重要性が強調されます。評議員たちも「うっかりすると、予算削減の流れの中でこうしたインベントリー研究費は削られてしまう。でも、一度中断すると、この手の研究は価値が大幅に下がってしまう」ということを理解できています。そのため、評議員は「貴重だ」「素晴らしい」と褒めたたえ、「一定程度の予算を割いてしっかりと調査を積み重ねてください」と言うのが常でした。

 そして、今回の福島第一原子力発電所の事故で、その長年の成果が一躍注目を浴びたのです。農環研は、「原子力発電所事故等による土壌・農作物の放射能汚染に関する情報ポータル」で、さまざまな情報を公開しています。

 コメやムギ、土壌などが調査され、経年変化が分かります。また、土壌からコメへ放射性物質がどの程度移行するかについても、研究されています。リスク管理や消費者とのリスクコミュニケーションにおいて利用価値の高い資料が揃っています。

 研究者たちは今、測定調査や研究に忙しいようです。それらのデータも今後、論文として発表され、世界の放射能対策に活かされるはずです。大勢の研究者が関わって地道に測定し検討を重ねて来たからこそ、大きな価値が生まれる。まさに、「継続は力なり」というしかないテーマです。

 農環研は10月7日、新宿で農業環境シンポジウム「放射性部室による土壌の汚染—現状と対策」を開きます。これまでの研究のレビューや、現在進行中の汚染実態把握、農作物汚染の軽減策や汚染土壌の浄化等について、解説するそうです。

● 放射線治療も環境放射能に影響していた

 こうした放射能研究は、農環研だけでなく、独立行政法人水産総合研究センターなどさまざまな機関で行われてきました。過去には、核廃棄物をこっそり海に沈めてしまう国などもありましたので、研究が切実だった時期もあります。多くの研究により、平時の海の放射能汚染は意外にも、放射線治療で患者に投与された放射性物質の影響が大きいということも分かってきました。放射性物質が患者から排出され、下水を経て海に出ているのです。放射能検査は非常に感度が高いので分かります。

 ようこそ「日本の環境放射能と放射線」で、これまでのデータを調べ、グラフ化することができます。1950年代から60年代にかけての核実験による放射性物質の降下量が驚くほど多いことや、自然の放射性物質であるカリウム40の食品中の濃度が意外に高いことなども分かります。

 今後のリスコミでは、こうしたデータも示して、繰り返し懇切丁寧に説明していくことが重要でしょう。事故からしばらくは、こうしたデータを示そうとすると「話をすり替えるつもりか」「データで、市民を丸め込もうとしている」などの反応が返って来たものです。
しかし、市民も一部の人たちを除き、落ち着きを取り戻して来たように感じられます。だからこそ、これからが大事。科学的根拠に基づいて多角的に説明し、総合的な判断を市民に求めて行かなければ、と思います。

(有料会員向けメールマガジン8月4日付け第13号に掲載した記事を一部変更して掲載)

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