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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

放射性物質に汚染された農地の対策は…

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2011年10月27日

 独立行政法人農業環境技術研究所(農環研)が10月7日、東京で「放射性物質による土壌の汚染—現状と対策」と題したシンポジウムを開きました。極めて充実した内容でした。配布資料もウェブサイトで公表されています。
 今回は、私が個人的に特に印象に残った内容をいくつか、ご報告します。

 基調講演を行ったのは村松康行・学習院大学理学部教授。マスメディアにも頻繁に登場していますが、福島県にたびたび入り調査研究をしているそうで、現在のさまざまな農作物の問題を解説してくれました。

 多くの聴衆が気になっていたのは、コメの予備調査で福島県二本松市内の玄米が500Bq/kgを記録したことでしょう。村松教授はこの田んぼも2度訪れたそうです。

 村松教授はまず、土壌の種類によって放射性セシウムの吸着の度合いが大きく異なると説明しました。有機物の多い黒ぼく土は吸着しにくくイネを植えた場合には移行係数が高くなります。その一方、福島に多い灰色低地土は粘土鉱物が多く含まれ、放射性セシウムを吸着しやすく、作物への移行係数が低いというのです。

 そして、500Bq/kgを記録した田んぼは周囲を林に囲まれ、林から水が流れ込んで来ている可能性があること、土壌は粘土が少なく砂が多く、放射性セシウムを吸着しにくいとみられること、稲の根の張りが浅いことから、表土に沈着している放射性セシウムを吸いやすい条件にあることなどを説明しました。結局、二本松市内の田んぼの玄米濃度が高くなったのは、複合的な要因によるものではないか、というのが、村松教授の“見立て”です。

 また、果樹が葉や樹皮に付いた放射性セシウムを直接吸収し、体内を転流して実に移行している可能性があること、タケノコも笹から吸収した放射性セシウムが転流して可食部に集まったおそれがあることなど、説明しました。

 キノコについても詳しく触れ、キノコが生える場所は森林の落ち葉層や倒木等で有機物が多く粘土鉱物が少なく、放射性セシウムが動きやすい形態となっているのだろうと推測しました。このため、キノコが菌糸を伸ばし、容易に放射性セシウムを吸収してしまうというのです。

 現在、土壌や森林の落ち葉の表面にある放射性セシウムは、これから歳月がたつにつれ、少しずつ下層へ移行して行くはずです。その層にたまたま、キノコが菌糸を伸ばしていると、放射性セシウムをたっぷり吸収蓄積したキノコとなってしまいます。
 村松教授は「ほかの農作物は、来年は汚染度が低減するだろうが、キノコはわからず、むしろ今年よりも高くなる場合もありうる」と注意を促しました。

 村松教授が特に強調したのは、農地や森林などにおける生態系の循環と放射性セシウムの関係です。有機物に含まれる放射性セシウムは植物に吸収されやすく、今後、放射性セシウムに汚染された落ち葉でつくった腐葉土や稲わらなどを農地に入れると、再び作物に吸収されて汚染が繰り返される恐れがあります。農家は土づくりのために腐葉土や稲わら、堆肥等を農地に入れたがるものですが、そうした物質循環をきちんと整理して、「断つべきものは断つ」農業をしなければならないのです。そのためにも、1年目のデータ収集が重要だと、村松教授は説明しました。

 このほか、財団法人環境科学技術研究所の塚田祥文氏も、土壌からイネの各部位への移行の違いなど詳しく解説しました。放射性セシウムは、白米へは移行しにくいのに対して、糠の数値は比較的高いという結果です。糠は飼料や肥料などとしてよく使われますので要注意です。
 同研究所の研究成果も、ウェブサイトで一部が公開されています。

 また、農環研は農水省の委託を受けて原発事故に起因する農地土壌汚染の調査や除染対策などを検討しています。そこで、谷山一郎研究コーディネータが、これまでにわかったことを説明しました。
 土壌濃度や対策については、農水省のウェブサイトで既に公表されています。
農地土壌の放射性物質濃度分布図の作成について
農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)について

 調査の結果、福島県内で5000Bq/kg以上の農地が8300haあり、県内の農地の約5%を占めることが明らかとなりました。放射性セシウムが5000Bq/kg以上の農地には「表土削り取り」や「水による土壌撹拌・除去」など大掛かりな除染事業が適用されます。この数値を下回る土壌は、必要に応じて土をひっくり返して汚染されていない土を表に出す「反転耕」を行ったり、放射性セシウムを吸着させる資材を投入したりするなどして、作物への移行を極力下げる栽培が求められます。

 谷山コーディネータによれば、放射性物質の濃度や土壌特性などによって除染効果も大きく異なるとのこと。同じ福島県といっても、地域によって土壌の性質が違います。特徴をよく把握して、効果的な方法を選ばなければならないのです。

 また、事故直後から「チェルノブイリ原発事故後に学べ」として、さまざまな対策例がマスメディアや識者によって示されてきましたが、研究の結果、日本では役立ちそうにない策も分かってきたそうです。たとえば、「カリ肥料を多く土壌に入れると、放射性セシウムの作物への移行を抑えることができる」と言われてきましたが、チェルノブイリ周辺の土が痩せているのに対して日本の土壌は既にカリウムを豊富に含んでおり、効果は低いとのことでした。

 農環研は世界中で核実験が行われていた1950年代以降、放射性物質の長期モニタリングを続けています。これらの成果も各担当研究者が説明しました。農環研のウェブページで論文が公表され、研究成果情報としてわかりやすくまとまっているので、ご覧下さい。
原子力発電所事故等による土壌・農作物の放射能汚染に関する情報ポータル

 最後に、会場からの質問も受け付けて各研究者が答え、まとめとしてそれぞれが今後の抱負等を述べました。どの研究者の言葉も含蓄のあるものでしたが、特に環境科学技術研究所の塚田氏の言葉が重かったと思います。塚田氏は、「農業者の被ばくについてきちんと考えたい。春になると、土壌が風に吹かれて舞い上がり農業者が吸い込んでしまう」と訴えたのです。

 消費者の放射能汚染に対する反発が大きく、多くの関係者が振り回されており私自身もどうしても、消費者にいかに説明するかに気を取られがち。しかし、数千〜数万Bq/kgという土壌のうえで作業して外部被ばくし、粒子を吸い込んで内部被ばくもする農業者のリスクが消費者より大きいのは自明のこと。こうした情報と対策も農業者に伝え、そして、消費者にも知ってもらわなければなりません。

(14日に発行した有料会員向けメールマガジン第23号の記事を、一部改変し掲載しました)

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