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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

食品安全委員会、非公開の事前記者レクの意味

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2011年10月28日

 食品安全委員会には2003年の発足当初から、記者クラブがなかった。特定の記者たちに便宜を図る、ということも、これまでなかったように思う。この情報公開の透明性、公平性は、食品安全委員会に対する市民の信頼の「要」であった。だれも特別扱いしない。ひたすら誠実にリスク評価を行い、しっかりとすべての市民に向けて情報を出して行く。そうした姿勢があった。

 しかし食品安全委員会は26日、内閣記者会や厚労省、農水省などの記者クラブを対象に「放射性物質の食品健康影響評価に関する説明会」を開いた。27日に開かれた食品安全委員会で、「放射性物質の食品健康影響評価書」を取りまとめる予定になっていた。その事前説明、通称事前レクを行った。つまり恣意的に情報提供する相手を選び、便宜を図ったのだ。
 この出来事が持つ意味は非常に重い。私の食品安全委員会に対する信頼は大きく崩れた。

 各省には記者クラブが置かれ、所属する記者に対してさまざまな情報提供が行われている。日本独特の制度とされており、一部の限定的な記者たちへの情報提供であることなどから、上杉隆氏らが鋭く批判している。

 たとえば、非公開の審議会や委員会などの終了後、委員長などが審議内容を記者クラブで説明することがある。そこには、外部のフリー記者は参加できない。私は新聞社を辞めてフリーになってしばらく経った頃、農水省記者クラブでこの種の非公開審議にかんする内容説明を聞きたいと思ったことがあった。農水省に尋ねたが、「記者クラブの幹事社に言ってくれ」という回答。私も記者クラブに所属していたことがあるので、そのような場合に幹事社が簡単にO.K.することはできず、クラブで会合を開いてすったもんだして時間がかかった挙げ句、断られることは容易に想像できた。そのため、幹事社に申し入れることもなく、断念した。いや、しがないフリーライターの申し出なのだから、会合を開くまでもなく、「ノー」という返事だっただろう。

 民主党が一時、会見のオープン化を目指し、大臣によっては記者クラブに所属していない記者も参加させていた時期もあったが、さて、今はどうなのか。

 記者クラブ制度にはさまざまな問題がある。だから、食品安全委員会が発足した2003年当時、記者クラブを置かない姿勢は私にとっては新鮮に見えた。だれでも行って傍聴できる。まったく同じ情報をみんな、入手できる。もちろん、それを受けての取材努力はしなければならない。各委員への食い込み方の違いによって、より深いレベルの情報に行き着けるかどうかは違ってくる。それは、こちら側の腕次第。あるいは、情報を読み込んで行くこちら側の“頭”次第である。

 食品安全委員会は、これまでもプレスリリースは出しており、農水省や厚労省等の記者クラブにいわゆる「投げ込み」をしていた。しかし、数時間後にはウェブサイトで公表される。だから、最初から記者クラブ以外の者に門前払いを食わせる他省庁と食品安全委員会の姿勢はまったく違う。
 取材の現場にも新しい風が来た、と私は感じた。

 ところが、その食品安全委員会が26日、農水省や厚労省、内閣府など5つの記者クラブに所属する記者だけを対象に事前説明会を開いていたのだ。25日に出された記者クラブ向けのプレスリリースを入手した。26日に委員長と委員長代理が揃って食品安全委員会で説明すること、非公開であること、「扱い」として27日の委員会終了後解禁、と記されている。「26日に説明するが、これはすぐに報道してはだめだよ」という意味で、これをマスコミ用語で「縛り付き」という。

 食品安全委員会勧告広報課に27日、26日のこの縛り付き事前レクについて尋ねたところ、「27日の会合で取りまとめる予定だった『放射性物質の食品健康影響評価書』については膨大な資料があり、市民の関心も高くパブリックコメントもたくさんの数が寄せられた。そのため、事前に少し説明した」との返事だった。こうした事前レクの前例は「ほとんどない」そうだ。ゼロなのか、ほとんどなのか、担当者は即答できなかった。

 あーあ、と思う。記者クラブに事前説明し質問したり勉強したりする時間を与え、充実した報道を期待する。それは、記者を選別し、特定の者に便宜供与することにほかならないのではないか。これは、癒着ではないのか。情報公開の透明性、公平性はどこへいった?

 こんなことを書くと、「記者会見に呼ばれなかったひがみから、文句を言っているのだろう」と言われそうだ。電話に出た勧告広報課の担当者も「こいつは、会見に呼ばれなくて怒っている」と決めてかかっているような口ぶりだった。
 そうではない。私は日々の出来事を速報する記者ではなくじっくりと資料を読み込んでほかの人が気付かないところを書いて行く、深読みしていく仕事を心掛けているライターである。事前レクに呼ばれなくても実害はない。

 一方で、5つの記者クラブには所属しておらず、でも毎日、食品にかんする情報を発信し続けている業界紙の記者らにとっては、実害がある。いや、死活問題とも言える出来事かもしれない。
 なぜならば、26日の事前レクと27日の会合が意味していたものは、放射性物質に対する食品安全委員会の「リスク評価」の内容の大きな変更だったからだ。

 詳しいことは「特集」を読んでいただきたいが、少し説明したい。
 食品安全委員会は、7月に公表した評価書案で「生涯における追加の累積の実効線量がおおよそ 100mSv 以上で放射線による健康影響が見出されている」とした。そして、Q&Aで次のように説明した。

また、本来の食品健康影響評価は、食品による健康影響のデータに基づき、食品のみ の健康影響を評価するものですが、このたびの評価(案)では、食品による体の内部か らの被ばくのみのデータは極めて少なかったため、体の外部からの被ばくも含めた総線量として、どの程度の放射線量で健康影響が現れるのかを示したデータを用いて検討が行われてきました。
評価(案)としては、あくまで食品の健康影響評価として、追加的な被ばくを食品のみから受けたことを前提に、生涯における追加の累積線量(実効線量)として示してい ます(評価(案)の概要は問2参照)が、結果として、この値については、外部被ばく を含めた線量として捉えることも可能と考えられます。

 評価書案を作成したワーキンググループの座長も7月に評価書案を公表した段階で記者から「今回は内部、外部を含めた数値で出したわけだが、これでは食品健康影響評価がまったく行われていないと判断せざるを得ない」と問われて、「今回の評価が、食品健康影響評価を超えて外部被曝を含めて全体の数値を出しているではないかというご質問だと思うが、確かにそのとおりになっている」と説明していた。

 ところが、食品安全委員会は27日の会合後、「100mSvは食品からの内部被ばくのみで」と説明を変えたのだ。
 これは極めて重大な変更だ。だが、リスク評価書の文面自体はそのままで、27日の会合でも、この「説明の変更」は話題に上らなかった。
 だから、事前レクを知らず、今日の会合の傍聴に来た人たちは、会合が終わっても重大な変更があったことを知らなかった。5つの記者クラブに入っていない業界紙の記者なども同様だ。

 FOOCOMの森田満樹も傍聴していたが、これまでの評価書案をそのまま了承した、としか受け止めていなかったそうだ。ところが、知り合いの新聞記者が寄って来て、「今日の会合の意味が分かった?」と問いかけ、「外部被ばくと内部被ばくの説明を変える」という26日の事前レクの内容を解説してくれたという。

 その後、委員長らによる事後レクが開かれ(この開催については、26日にウェブサイトで告知されていた)、説明が行われ、森田もほかの業界紙記者らもやっと、いかに大きな変更があったか、気付くことになった。

 事後レクがあったのだから、事前レクを聞いていなくても情報提供としては同じではないか、と思う人もいるかもしれない。しかし、26日の事前レクに招かれ説明を聞いた大手新聞社やテレビ局の記者などと、いきなり27日に説明を受けた業界紙などの記者は、取材の深さや理解、報道するニュースの質に違いが出て当然だ。食品安全委員会に記者クラブがあって区別されるならまだしも、いきなり不意打ちでこのような重大事に関して、恣意的選別から外された業界紙の記者たちはどんな気持ちだろうか?

 私はがっかりしている。情報公開の透明性、公平性を失った食品安全委員会に。期待していただけに、失望感は大きい。悲しい。
 そんなことをぼやいていたら、某大手新聞社記者に言われた。「バカだなあ。どこまでお人好しなんだ。食品安全委員会は事前レクで大手メディアを懐柔して、会合後は簡単な事後レクで済ませて、業界紙などをごまかそうとしたんだよ。これは食品安全委員会の情報操作の戦略だ」。 そうなのか? 悲しいのは私だけか。

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