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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

新規制値の議論、これは科学ではなく政治のお話

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2011年11月3日

 厚労省薬事・食品衛生審議会において10月31日、食品中の放射性物質の新しい規制値設定に向けた議論が始まった。だが、議論が始まる前に、厚生労働大臣が10月28日の閣僚懇談会で行った発言内容「許容できる線量を年間1mSvに引き下げることを基本とする」が事務局から伝えられた。その後の科学者たちの発言はどこかおざなりで、もうすっかり方針は固まっているのだなあ、と改めて感じられた。審議会という体裁はとっていても、これは政治マターの話であり、もはや科学の議論ではないのだ。

● 食品安全委員会は、肝心のリスク評価をしなかった

 そもそも、食品安全委員会が10月27日にまとめたリスク評価書からして、「科学」とは言い難い。7月に公表された評価書案から文面は変わらず、しかし、「健康影響が見出されるのは、生涯累積でおおよそ100mSv以上」の説明を「内部被ばくと外部被ばくと合わせて」から「食品による内部被ばくのみ」に変更する「ウルトラC」をやってのけた。顛末は、特集「食品安全委員会の新見解か、つじつま合わせか」をお読みいただきたい。

 だが、一番大きな問題は、リスク管理機関から諮問があったにもかかわらず、今後のリスク管理にまったく役立たないリスク評価書になったことで、これはもっと批判されてもよいのではないか。リスク管理機関が実行しなければならないのは、食品の汚染状況や被ばく線量の推計からみて、被ばく線量が10mSvを下回るような領域の低線量の放射線リスクに対して、どう対応し管理するか、ということ。だが、食品安全委員会は論文や報告書を羅列したが、結局は「言及することは現在得られている知見からは困難」としてしまった。

 国際放射線防護委員会(ICRP)や全米科学アカデミー・電離放射線の生物影響に関する委員会(BEIR)など多くの組織が、低線量の放射線リスクについて報告書を出し批判され、組織で検討した科学者も“外野席”も、さまざまな主張を繰り広げ議論が続いている。今回も、リスク管理機関が求めた以上、存在するデータが不十分であっても限られていても、それを基になんらかの評価をしなければならないのが食品安全委員会の役割だったと私は思う。だが、ICRPやBEIRのような「とにかくまとめて、批判はいかようにも受ける」という毅然とした姿勢を、食品安全委員会は見せてはくれなかった。

● 核心部分は、政治家が予め決定

 これを受けての、リスク管理機関である厚労省の審議会である。リスク評価書の内容を事務局が説明したが、管理に活かせる内容が書かれていないのだから、議論にはならない。

 厚労大臣の10月28日の発言も、次のように今後の審議の核心部分を先回りして決めてしまったような内容だ。

(1) 食品から許容することのできる線量として、放射性セシウムは現在、年間5mSvとされている。厚労省はより一層、食の安全・安心を確保するため、来年4月を目途に一定の経過措置を設けたうえで、許容できる線量を1mSvに引き下げることを基本として、審議会で規制値設定のための検討を進めて行く
(2) 年間1mSvとするのは食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会の現在の指標で、年間1mSvを超えないように設定されていること/モニタリング検査の結果、食品中の検出濃度が多くの食品で時間の経過と共に相当程度低下傾向にあること
(3) こうした考え方を基に、子どもへの影響について具体的にどのような配慮をするのか/食品のカテゴリー設定と割り当てをどうするか/放射性セシウム以外の放射性元素の取り扱いをどうするか、科学的知見に基づく検討を進める

 事務局は「審議会でしばるものではない。この考え方でいいのかどうか、しっかり審議していただきたい」と説明していたが、委員たちへの“圧力”としては十分だろう。

 年内で審議を終え年明けにはパブリックコメントを行い新しい規制値を決定して、来年度からの施行を目指すというのが規定方針であり、既に事務局から委員に伝えられている。もう実質的に審議する時間はほとんどない、と言って良い。

 会合では、「主な論点と対応の方向」が配られており、厚労大臣の発言内容に加えて、食品加工(濃縮、除去、乾燥等)による濃度変化をどう考慮し規制を行うかも、挙げられている。
 各食品はそれぞれ摂取量が異なるのだから、現在のカテゴリーのまま、ほとんどの食品が同一規制値というのは無理がありすぎる。現在の暫定規制値500Bq/kgを単純に5分の1にするのではなく、食品の摂取量に応じてもう少しきめ細かく設定する必要があるだろう。濃縮や乾燥などによる加工品も、加工係数と摂取量の双方を検討しなければならないはずだ。こうしたことを議論したら、すぐ時間切れ、である。

 審議会の配布資料は既に公開されているので、ご覧いただきたい。

 さて、政治家が「食の安全・安心を確保するため」という荒っぽい説明で打ち出し、審議会がもう議論はしないであろう「1mSv」。この問題の数値は、本当に妥当なのか、リスクはどの程度なのか?

 それらのことをきちんと考えるうえで参考とすべき書籍が先月末、絶好のタイミングで出版された。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室長、畝山智香子さんの『「安全な食べもの」ってなんだろう? 放射線と食品のリスクを考える』(日本評論社)である。
 次回、この本を手がかりに、1mSvを考えてみたい。

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