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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

イオンさん、グリーンピースに褒められて嬉しいですか?

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2011年11月23日

 流通最大手、イオンには、科学ベースの判断力も人の心もないのだろうか?
イオンは11月8日、「店頭での放射性物質“ゼロ”を目標に検査体制を強化」とうたうプレスリリースを出した。検査強化は結構。だが、驚くべき1文があった。「放射性物質“ゼロ”を目標に、検出限界値を超えて検出された場合は、販売を見合わせることを検討してまいります」。
 「ゼロを目標に」は、店頭にもでかでかと掲示されている。

 私は、この判断は科学、サイエンスとして間違っている、と考える。そして、ゼロを望めるという「幻想」を消費者に抱かせ、苦難に喘ぐ被災者に追い討ちをかける、人の道にもとる企業判断だと思う。そのことを、きちんと説明したい。

● 「放射性物質ゼロ」は、科学的にはあり得ない

 まずは、科学ベースで考えてみよう。
 そもそも、目標に掲げられている「放射性物質ゼロ」は科学的にはあり得ない。食品中には、放射性カリウムや放射性ポロニウムなど自然の放射性物質が必ず、含まれている。食品中の自然の放射性物質による被ばく線量は、日本人で平均して年間0.41mSv。どこの店頭にも、放射性物質入りの食品がずらりと並んでいる。
 人は大人であれば常に、放射性カリウム4000Bq、放射性炭素2500Bq程度を体内に持っていて、放射線に被ばくしている。体に放射性物質を持っているのは大人だけでなく子どもも乳児も同様だ。

 「イオンの言う放射性物質は、原発から出てしまった人工核種のことだろう。揚げ足取りの突っ込みをしなくても」。そんな声が聞こえてきそうだ。
 だが、人工であれ自然であれ、出す放射線の性質は同じ。人の細胞が「これは自然だから、DNAを傷つけない。あれは人工核種だからDNAがめちゃくちゃになる」などと区別するはずがないではないか。

 「自然は安全、人工は危ない」という思い込みは、食品の世界で根強く語られてきた間違いだ。イオンともあろうものが、こんな初歩的な科学的誤解をプレスリリースで拡散するとは、驚くしかない。

 さらに、人工核種のみを考えても、ゼロはかなえられない。
 分析の感度、精度を上げて検出限界値を下げて行けば、多くの食品から人工核種が検出されるだろう。それは、福島原発事故由来ではない。1950年代から60年代にかけて行われた核実験や、その後もあった核廃棄物の海洋投棄などに由来する人工核種が出てくる。
 また、水産物から放射性ヨウ素が検出されるケースもあり、医療に使われた放射性ヨウ素が下水、川を経て海に出て、水産物に取り込まれているとみられている。

 環境放射能データベースで検索すると福島原発事故以前、100分の1Bq/kgや1000分の1Bq/kgのオーダーで、食品が分析され続けて来たことがわかるはずだ。

 加えて、イオンの自主検査では、分析における問題が生じている。食品によって検出限界値が違っており、同じベクレレ数値でも食品によって「検出せず」になったり、「検出限界値を超過」になったりする。判断の公平性が失われているのだ。

 イオンの自主検査結果を見てほしい。11月3日に検査結果が出たメジマグロは、放射性セシウム134が「検出せず」(検出限界値9.3Bq/kg)、セシウム137が11Bq/kg(検出限界値8.8Bq/kg)だった。そのため、イオンは販売を取りやめた。

 一方、コメや野菜、果物などは検出限界値が18Bq/kgとか20Bq/kgなどという高めの数字が並び、その検査で「検出せず」であれば販売OKである。つまり、品目によって測定時間など分析条件が違うのだ。したがって、販売を止めたメジマグロよりも放射性物質含量が高いコメや野菜、果物が、イオンの店頭で売られている可能性を否定できない。

 この数値を見てある水産関係者は「水産物だけが、検出限界値を低く設定されているようだ。恣意的ではないか」と憤っていた。もっともな話だ。たとえばコメは、毎日食べるもので摂取量が多いので、より検出限界値を下げて極力正確に測定する、というのが普通の考え方。メジマグロは、コメのように毎日、数百gも食べるようなものではないので、かなり数値が高くても健康リスクという点では問題とならない。

 結局、イオンの自主検査は、消費者のリスクを考えてのことではなく、数値の意味を読み取れない消費者相手のパフォーマンスではないか、という疑念がますます深まって行く。

● 「ゼロ追求」は被災者いじめ

 では、今回のイオンの方針は、企業の社会的責任、道義的な姿勢という観点からは、どうなのか?
 福島や宮城、茨城など各県の陸域、海域に放射性物質が降下し、海には原発から放射性物質が直接、流出した。生産者はなんの過失もなく、自分の“仕事場”を汚染された。

 イオンの言う「ゼロ」を目指すために、生産者はなにをしたらよいのだろうか? 農産物は、表土の除去や土壌の天地返しなどまだ、努力する術がある。だが、思いがけないホットスポットもあり、周辺の林などの影響を受けざるを得ない田んぼもある。農業者の努力次第でゼロが可能、というわけではないのだ。それに、放射性物質が降下して土壌を汚染している以上、検出限界値を下げれば必ず、放射性物質が検出されるだろう。

 水産物はどうか。海の中を、放射性物質が平均して拡散しているわけではなく、地形や海流によって海の汚染に濃淡がある。魚種によっても取り込む程度は違う。
 こちらも、漁業者が努力して汚染低減を目指せばゼロになる、というわけではない。

 にもかかわらず、イオンが勝手に、「検出せず」を強要しようとしているのだ。国の暫定規制値を超えていれば、補償の道がある。イオンは「販売しない」代わりに、生産者に補償をするのだろうか? そうではなく、「ただ扱わない」というのなら、流通最大手の唯我独尊、というよりも、被災者いじめでしかない。

 地震や津波で大きな被害を受け、原発事故に苦しむ生産者たちの多くは、元の生活を取り戻すことで再生したいと願っている。
 私は、福島県南相馬市で先月下旬、大勢の農業者に会って話を聞いた。どの人も異口同音に「早く農業を再開したい」と言っていた。南相馬市は、一部が原発から半径20km圏内の警戒区域に含まれ立ち入り禁止である。海に面した地域は津波に見舞われ、地震の影響も大きかった。だが、原発に近いわりには放射性物質の降下量は比較的少なく、空間線量も高くない。

 その地で、奥さんを津波で流されて失い、自宅も奪われ田んぼも潮をかぶってめちゃくちゃになってしまった男性が漏らした言葉が重かった。「補償金を貰えばいい、というものではない。若いもんが、働く場がなく、仕方なく昼間からパチンコ屋へ行く。それがどんなに辛いことか。このままでは南相馬の農家はダメになる。だから、来年はコメを作りたい」。

 ポケットに奥さんの写真を忍ばせ、農業再開を期すこの男性は、私に尋ねた。「田んぼの除塩はうまくいきそうだ。だから、コメを作れる。でも、セシウムが土にある以上、コメにもセシウムは出てくるかもしれない。消費者は理解して、買ってくれるだろうか?」

 さあ、イオンさん、どうしますか?
 国の定める基準を下回るコメであっても、イオンはダメというのだろうか。消費者はさまざまだ。「買いたくない」という人もいるだろう。だが、「低いベクレル数なら、自然の放射性カリウムによる被ばく線量とたいして変わらない。喜んで買って応援するよ」という客もいるはずだ。

● 巨大広告スポンサーを、マスメディアは批判できない

 放射線は線量の大きさに応じてリスクがある。原発から放出された人工核種については、なるべく摂取量を減らした方がいい。それはそうだ。だが、ゼロは望めない。そして、国立医薬品食品衛生研究所の畝山智香子さんの著書などにある通り、食品にはほかのリスクが多数あり、放射線のリスクだけゼロを追求してもしかたがない。

 消費者だって、考え方、行動はさまざまなのだ。消費者に、科学的にはまやかしの「検出せず」を強いて「ゼロ」を求めさせるのが顧客サービスだろうか。

 イオンが8日にこのプレスリリースを発表して、私の元には何人もの人から「イオンけしからん」「とんでもない」というメールが来た。食品メーカーや流通関係者の多くは怒っていると思う。被災地、福島県の人々も怒りの言葉を口にしていた。でも、どの新聞も週刊誌も批判をしない。そりゃそうだ。イオンは巨大な広告スポンサーなのだから。

 そして興味深いことに、イオンがこの方針を発表してすぐ、NGOグリーンピースは事務局長ブログで「画期的」とイオンを褒めたたえた

 イオンさん、被災者をいじめておいてグリーンピースに褒められて、嬉しいですか?

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