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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

「安心」を錦の御旗に、厚労省審議会は新基準値を決めた

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2012年3月2日

 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会及び同会放射性物質対策部会の合同会議が2月24日に開催され、食品中の放射性物質の新基準値案を妥当とする答申が出された。

 私は所用で傍聴できなかったのだが、Foocomではさっそく議事録を作成し、今週発行する有料会員向けメールマガジンで配信する予定。議事録を一読しての感想は「今頃、こんな審議をして、あまりにも不誠実ではないか」というものだ。

 新基準値をめぐる厚労省審議会の審議は実は、議事録がなかなか出ない。10月に行われた1回目の議事録は公開されているが、11月の第2回、12月の第3回については未だに非公開(食品衛生分科会放射性物質対策部会のページ)。そのため、この間の審議の経過と4回目で答申となった 2月24日の議事内容について、少し詳しくご紹介しよう。

 これまでのわずか3回の審議では、多くの時間が厚労省担当者による説明に割かれた。2回目の審議での「最適化」を巡る問題提起が不発に終わったのは、昨年12月1日付コラム「放射性物質の新規制値、下げればいいのか?」で書いた通りである。
 その後、12月22日に開かれた3回目の会合でも、乳児用食品と牛乳の基準の根拠や、一部に経過措置が設けられるダイズやコメなどにかんする質疑応答がほとんどだった。
 放射線審議会が検討したような、生産者への影響や検査の実行可能性などは、厚労省の審議会委員の関心の対象外だったようだ。

 こうして十分な議論がないままに新基準値案がまとまり、2月にパブリックコメントが行われ、リスクコミュニケーションも全国で開かれた。その間、同時並行する形で文科省の放射線審議会が、新基準値案を批判し続けたのは、これまでお伝えして来たとおりだ。

 そして今回、厚労省の審議会の委員は、新基準値案を支える検査体制などについて疑問を投げかけ注文を付けた。一部を抜き出してみよう。

「コーデックス規格に従って厳しい基準にしたということで説得力があったと理解している。しかし、メーカーによってはもっと厳しい自主基準をつくって、絶対超えない体制をとっているところもあるという。基本的には国の基準であれば担保できていることを丁寧に伝えないといけない。ダブルスタンダードにならないよう、この基準値を超えなければ安全です、という一つの基準だということを徹底していくことが大事ではないか。」

「新基準値については、これで消費者の安心が拡大することになる」

「WHOのガイダンスレベルで飲料水は10Bq/㎏とあるが、実際にチェルノブイリやベラルーシ周辺では検査しているのか。10 Bq/㎏だと検査が難しいと事業者から出されているようなので、他の国ではどうなのか、わかれば教えてほしい」

「基準値案に賛成。検査法を今後詰めていくということだが、基準が厳しくなったことで、今全国でやられている検査機関でスクリーニング法ができなくなるという声が上がっている。100 Bq/㎏を超えたものが流通することがないよう現実的な形で、検査機器の精度を検討して頂くと、より一層の安心を確保ができる」

「基本的には新たな基準値案に賛成。消費者の安全、表示の話、モニタリング、買い上げ検査、収去検査を今後どう進めるのか。まず、表示については、先ほどパブコメを見ていれば、消費者庁と相談しているということだが、消費者庁は現在、三つの法律を統一した表示をやる方向だという。放射性物質についてはどのような方針か、特に乳児食品についてどのような方向性があるのか。また、買い上げでモニターして、チェックするのはどのような方向性があるのか」

「今回の食品の年間1mSvは、ある意味で安全と安心の為であることは評価できるが、その一方で誤解を招かないような説明をしてほしい。食品による被ばくが1 mSvとは、ある意味では一年間の内部被ばくが1 mSvという読み方ができる。mSvという単位は、同じ数字では外部被ばくでも内部被ばくでも影響は同じだが、このことで、内部被ばくが1 mSvを超えることで健康に影響があるという間違った考え方につながらないよう、総合的に今回の改定の考え方、安全と安心のためにやったんだということをリスコミで入れてほしい」

「もともと、政府による都道府県の検査体制がしっかりして情報が伝われば、消費者にわたる直前で事業者が直前で検査するなんて必要はない。そこの不信感があるから今の状態になる。政府の検査体制がしっかりしているんだという情報提供を行ってほしい」

「今までの議論たくさんの貴重なご意見が出たので、これを考慮して頂きたい。まさに安全・安心で、新基準が安心の礎になるようにと願う」

「答申の最後に安心ということばがある。これを使った瞬間に、これでリスクが無いと誤解を受けるのではないか。リスクはゼロにならないので、安心と言う言葉を取った方がいいのではないか」

「安心ということばは大事だと思う、決してリスクゼロと言うことを考えているわけではない、総合的に考えている。ここは必要。これまでリスクコミュニケーションが大事と繰り返し言っている。そこをしっかりやって、リスク評価の認識を広がることが安心に繋がるので、安心と言うことばはここでは必要だ」

 いかがだろうか。彼らが新基準値案をまとめたはずなのに、まるで他人事ではないか。
 審議の最後の方、委員たちにとってのキーワードはどうも「安心」である。結局、「多くの問題はあるけれど、国民が安心するからこの新基準値でいい」という文脈になっている。
 福島で今、大騒ぎになっているコメの作付け制限問題も、新基準値によって懸念されている消費者のゼロ志向の助長も、当然触れられない。これが、厚労省の審議会だった。

 ちなみに、後付けの批判と言われないように念のために書いておくが、私は前述の12月1日付コラムでこう書いている。

消費者団体であるFOOCOMは、「拙速でいたずらに規制値を下げる方向には賛同できない。無理をして下げると、社会に混乱を招き、別のリスクを大きくするトレードオフ現象も起きる。食品を作ってくれている生産者の意思も汲み、みんなでリスクを負う『リスク管理』の仕組みを、社会で構築すべきだ」と考えています。

 厚労省審議会の検討内容を、放射線審議会と比較してほしい。その深さの違いは一目瞭然である。だが、厚労省の方は議事録が読めない。だから、ほとんどの人が比較できない。1月に立て続けに計6回の議論を行った放射線審議会は既に、議事録をすべて公表している。
 あまりにも対照的。こうして、放射性物質の新基準値は決まったのだ。

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