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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

日本科学未来館で24日、「新基準値」と「がまん」について考えよう!

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2012年3月22日

 日本科学未来館が3月24日(土)14時から、「食品の放射能、どこまで許せますか?」というタイトルで、トークイベントを開く。

 同館が続けている「未来設計会議」のシリーズ「after 3.11 エネルギー・科学・情報の民主的な選択に向かって」の一環。これまで、自然エネルギーや科学者の役割について二つのトークイベントで検討して来た。3回目に、食品の放射能汚染をとりあげる。
 「どこまで許せますか?」とは、挑発的なタイトルだ。私は講演等では「どこまでがまんしますか?」と言っているが、まあ、同じような意味だろう。

 DNAを傷つける放射線リスクに閾値はない、とされている。こうした遺伝毒性発がん物質は、極力避けるべきだとされ、農薬や食品添加物などとして人為的に使われることはない。しかし、自然界にはあって、それらへの対処、どこまで許容するかは、科学者の間では近年、大きな問題として浮上して来ていた。
 ところが、一般消費者はそのことをまったく知らず、原発事故を機に一気に、閾値はないとされるリスクに直面してしまった。

 事故がなければ気にする必要のなかったリスク、事実上、ゼロで管理されていたリスクを強要されたのだから、大勢の人たちが怒るのも無理はない。しかし、怒ったところで、リスクをゼロにはできない。どこかでがまんしなければならない。
 そこで、食品に関しての第1のがまんが、暫定規制値だった。状況が大きく改善されたところで出てきた第2のがまんが、新基準値だ。

 でも、リスクゼロを望む人たちは依然として大勢いる。新基準値よりさらに低い独自基準を設けた生協、団体などもある。どのあたりでのがまんが適当なのか? どこまでなら許せるのか?

 その論議に正面から挑むのが、このトークイベントだろう。登場するのは山本茂貴・国立医薬品食品衛生研究所 衛生管理部部長、甲斐倫明・大分県立看護科学大学教授、道野英司・厚生労働省輸入食品安全対策室長である。

 山本部長の専門は、食品の微生物学的リスク分析だが、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会の放射性物質対策部会の部会長として暫定規制値、新基準値をまとめあげた人物でもある。道野室長は、暫定規制値、新基準値に基づく規制を担保する検査体制の構築に、行政として努力して来た。一方、甲斐教授は、国際放射線防護委員会の委員であり、文科省設置の放射線審議会でも、新基準値について真っ向からその是非を論じて来た。現状の検査体制では不備が多く混乱が生じかねないことを放射線審議会で鋭く指摘したことは記憶に新しい。

 この3人が、それぞれの立場から説明し、リスク管理のあり方の提案などを行うのが前半。後半1時間では、安全と安心について意見を交わし、さらに、具体的なリスク管理の方法について、福島農業再生や責任の所在、コストの問題も含めて検討するという。

 私個人は、暫定規制値でもう少しがまんした方がいい、と思っていたので、本コラムで新基準値の問題点について書き続けた。
 一方で、認めざるを得ないのは、新基準値案が公表された途端、市民、消費者の食に対する不安は一気に沈静化した、という事実だ。
 厚労省への苦情電話は激減したという。マスメディアの報道も減った。私は昨秋から今春まで約40回、講演をしたのだが、新基準値案公表以降、聴衆の雰囲気ががらりと変わったことを肌で感じている。

 これまで説明してきたように、暫定規制値から新基準値に変わってもリスクの低減効果はほとんどない。なぜならば、多くの食品は既に新基準値の100Bq/kg以下、いや、検出限界未満だからだ。なのに、新基準値案公表により、まだ施行されているわけでもないのに雰囲気が変わるというのは、「安心」がかなえらたからだろう。

 安心は大切だ。だが、多数の感情が満たされるからといって、福島やそのほかの被災地が犠牲を強いられてはならない。今のままでは、一部の人たちだけにがまん、被害が集中してしまうのではないか、という懸念を私は依然として強く抱いている。それは避けたい。がまんを少しずつ共有し、みんなで分担したい。

 それには、なにが大事なのか? これまで、どんな情報提供が欠けていたのだろうか? どうやって、社会の理解と共感を醸成したらよいのか?

 おそらく、24日のトークイベントは冷静に、事実関係が説明され、リスク管理の事情も明かされる。「がまんを共有」のヒントを与えてもらえないだろうか。期待して24日、科学未来館へ足を運びたい。一緒に考えてみませんか。

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