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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

食品表示—悪しき多数決に陥らないために

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2012年4月3日

 食品表示問題について先週、『どうなる?「食品表示一元化」ー消費者団体の大暴走』という特集を組んだ。私も3月28日の意見交換会について、「特定の消費者団体が主張を展開した意見交換会」という記事と傍聴記録「中間論点整理にかんする意見交換会 傍聴録~選択の権利の保障を訴える消費者団体と、現実を見る事業者団体」を書いた。

 私は今回の表示一元化の問題は、食品業界と消費者にとってかなり大きな問題だとおもっているのだが、どうも社会の関心は低い。その結果、今回の意見交換会は広く多分野の関係者が発言する機会とはならず、特定の消費者団体に所属する人たちが、それぞれ別の団体の代表者として参加し、同一の意見を主張するということになった。同じ意見というのは、加工食品の原料原産地表示の義務化であり、遺伝子組換え表示の変更を検討会で取り上げろ、というものだ。

 特集原稿でも書いたが、特定の消費者団体に所属しながら名称を変えて別々に同じ意見を述べるというのは、 私には“団体原産地偽装”のように見える。自らは原産地ロンダリングをしながら、原産地表示を要求するという構図が、奇妙に感じられる。

 こういうのはよくないなあ、消費者庁はまさか、意見交換会の多数決で義務化を決めるつもりはないだろうけれど……と思いながら原稿を書いた。そうしたら、本ウェブサイトでコラム「GMOワールドⅡ」を連載している宗谷敏さんが、非常に興味深い記事「どうなる?米国の遺伝子組み換え食品表示請願の行方」を今週始め、出してくださった。

 米国の遺伝子組換え表示を巡る昨今の動きを丹念に追った内容で、組換え食品表示義務化をFDA(食品医薬品局)に求める組織「Just Label It キャンペーン」の請願についても触れている。この組織は、100万人署名を添えて「表示義務化を」と請願した。これに対して、FDAは、どのような対応をしたか? 宗谷さんの記事のそのくだりを、そのままご紹介しよう。

 しかし、FDAは問題の複雑さからもっと多くの時間が必要だとして回答を先送りした(そのような事例は過去にもあったらしい)。FDAからの反論は、受け取った有効な署名はたった394人分しかないというものだ。これは、JLIキャンペーンが用意した既成のフォームに署名されただけの請願(フォームド・レター)は、仮に100万通あってもあくまで一つの意見としてカウントされるからだ。
 これはパブリック・コメントに関する以前の苦い経験から、ポピュリズムが支配しがちな多数決のリスクを、政策決定から可能な限り排除しようとする米国の考え方だ。なにがなんでも多数決は、時に国益に反する衆愚政治を生む。パブリック・コメントを出したいなら、他人に扇動されずに自分のアタマでちゃんと考えて作文しろ、ということだ。

 この問題については、Chicago Tribuneも詳しく報道している。
 なんだか、日本のさまざまなパブリックコメントや、消費者庁の今回の表示を巡る意見交換会の「見方」にも通じる話ではないだろうか?

 悪しき多数決に陥ってはならないのだろう。一定の書式を配って「この通りに書いてパブコメに出して」と頼んでも、その運動に対する共感がなければ多くの人はやってくれない。したがって、米国の「Just label It」が一定数の市民を巻き込むだけの力を持っている、という事実は尊重しなければならない。だが、その中味はしっかり検討させてもらいますよ、とFDAは“宣言”している。

 日本でも、特定の消費者団体の人々の、それぞれが自分の時間を費やして運動に賭ける真面目さ、社会をなんとしても動かそうとする意欲には敬意を払いたい。だが、そのうえでやっぱり、特定の考え方に引きずられ社会が歪むのはなんとか食い止めたい、と思う。だから、特集記事を読んでいただきたい。

 日本でも、海外でも同じような現象が起きている。消費者運動は難しい。そして、消費者の意向、サイレントマジョリティの気持ちを反映させる消費者行政は、なおさら難しい。

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