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めんどな話になりますが…|松永 和紀

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職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

米国の4例目BSEは、「非定型」が判断のポイント

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2012年4月25日

 米国で4例めのBSE感染牛が見つかったとテレビニュースで聞き、TPPや、食品安全委員会でリスク評価をしている最中の「米国産牛肉の輸入緩和措置」についての議論が複雑になるなあ、と思った。あわてて米農務省(USDA)のウェブサイトを見ると、なんだ、非定型BSEだと説明してあるではないか。

 非定型であれば、話はまったく変わってくる。科学的な観点から言えば、TPPや食品安全委員会のリスク評価にはほとんど差し障りがないはずだ。ニュースは、肝心のポイントが抜けていた。
 非定型BSEがどのようなものなのか。関連ウェブサイトにリンクしながら、簡単に解説しよう。

 1986年に英国で初めて発見され世界で約19万頭が感染し、人にも影響を及ぼした従来型BSEは、BSEに感染した牛から作られた肉骨粉が牛の飼料に混ぜられたために拡大したとみられている。BSEの感染源であるプリオンが、飼料を介して広がったのだ。したがって、飼料にプリオンを混ぜないための規制と、食肉処理段階での特定危険部位(SRM)の除去、それに検査が主な対策となる。(この間の経緯や対策等は、厚労省の「牛海綿状脳症(BSE)対策の 再評価について」や、国際獣疫事務局(OIE)のBSEポータル参照を)

 米国ではこれまでに3頭のBSE感染牛が見つかり対策が講じられた。そして今回が4例目。乳牛から見つかった。

 だが、今回の事例について、USDAの主席獣医官のJohn Clifford 氏は声明で、「非定型(atypical)であり、従来型とは異なり、プリオンに汚染された飼料を牛が食べたことによる感染ではない」と述べている。

 非定型BSEの原因となるプリオンは、従来型BSEのプリオンとは分子量が異なるタンパク質であり、ウェスタンブロッティング法という検査法で調べると、バンドのパターンも違うため、区別がつく。

 これまでに世界で約60例見つかっており、国内でもこれまでに2例が見つかっている。自然の突然変異で産まれているプリオンではないか、とする説が強いが、なにせ約60例しか見つかっていないので、詳細はよくわからない。

(日本語の文献では、—最近における動物衛生研究情報(III)— わが国の黒毛和牛に認められた非定型 BSEプリオンの性状が参考になると思う。)

 BSE対策見直しを検討中の食品安全委員会プリオン専門調査会でも、非定型BSEは、従来型BSEとしっかりと分けて議論されている。2月27日開催の第68回会合の議事録を読むと、(独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所プリオン病研究センターの毛利資郎氏がP18から説明しており、「これらの BSE は全く違うものであるという仮説の下に現在、第一に解明しなければならない課題と考えて研究を進めてございます」と説明している。(第68回会議資料の資料2「BSEプリオンの感染実験とその解析」と議事録)

 この非定型BSEはフランスで比較的多く見つかっており、その中にH型とL型があることもわかっている(Emerging infectious diseases Jounal2008年2月号)
 人がプリオンに感染して発症する「クロイツフェルト・ヤコブ病」には、BSE感染牛を食べたためと思われる「変異型」のほか、「孤発性」と呼ばれる、100万人に1人程度の割合で発生するものもある。孤発性は原因不明。牛でも、人と同じようなことが起きており、それが非定型BSEではないか、という説が有力だ。おそらく従来型のBSE発生が起きて、世界中で検査が行われるようになったからこそ、見つかってきているのだろう。
 そして、米国でも発見されたのだ。

 この非定型BSEの問題は、一般の人たちにはあまり知られていないが、近年、獣医師、プリオン研究者の間では大きな注目を集めていた。食品安全委員会プリオン専門調査会前座長の吉川泰弘・東京大名誉教授も、語っておられた
 非定型BSEの牛の肉骨粉などが昔のようにまた、飼料に混ざるなどして、プリオンがほかの牛に感染したら、1986年以降の英国のように、BSEの大発生につながらない、とも限らない。対策が必要なのだ。

 厚労省の科学研究費で行われた「非定型 BSE 感染牛におけるプリオンの病原性と体内分布」という研究の成果概要を見ると、従来型のBSEに比べ、非定型BSEの方が、発症までの期間も、そこから飼育困難になるまでの期間も短く、つまりは病気の進行が早い可能性がある。一方で、プリオンは、従来型と同じように、神経系組織以外へは伝播しないであろうことも、わかってきている。

 したがって、もし仮に非定型BSE牛が発生しているとしても、飼料に牛由来のものを入れないことで飼料経由での感染経路を断てるし、フードチェーンにプリオンを入れないように食肉処理時にSRMを除去する措置を続ければ、リスクを管理できる。米国も日本も、この二つの策はしっかりと講じている(米国の飼料規制については、日本より若干甘い、という意見もあるが)。だから、慌てなくてもよいのだ。

 誤解されやすいのは、検査の意味であろう。日本は食肉にする時に全頭検査をしており(20カ月齢以下については、国は必要ないとしており、自治体が予算を割いて検査を継続している)、24か月齢以上の死亡牛についても調べている。しかし、30カ月齢以下の牛は感染していても検査では区別できないことは、多くの方がもうよく御存知のはずだ。

 一方、米国は食肉検査を科学的に意味がないとして実施しておらず、実態を把握する調査、つまりサーベイランスとして、BSE感染を検査で識別できる30カ月齢以上の牛の中から、統計的に意味のある頭数を選び出し検査している。

 USDAの発表を読む限り、このサーベイランスが効果を発揮して非定型BSE牛を発見できた。仮にサーベイランスの対象から、この非定型BSE牛が外れていたとしても、乳牛なので食肉にはならないし、BSE感染牛の乳であってもプリオンは含まれないことは、これまでの研究から明白だ。また、乳牛が年老いて屠畜され食肉になったとしても、SRMがきちんと除去されていれば、感染リスクは無視できる(厚労省Q&A日本酪農協会記事の参照を)。

 したがって、今回の一件は、米国のサーベイランスが一定の役割を果たしていることは証明しているとは言えても、「だから、米国の牛肉は危ないんだ」ということにはなり得ない。米農務省は、肉がフードチェーンに入っていないことや、牛乳ではBSEがうつらないことを説明し、「食の安全」は揺らいでいないことを宣言している。

 同じように、「だから、日本の全頭検査は意味がある」とはなり得ないことも、はっきりしている。こうしたことから、TPPの議論や日本の食品安全委員会で行われているリスク評価において、今回のことが大問題になることはないだろう、と私は思う。どちらも、科学を基盤とした議論が行われるはずだからだ(wedge infinityのコラム「米国牛肉 BSE 輸入規制 
日本の条件、もはや科学的根拠なし」も参照を)。

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