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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

ようやく地に足がついた議論が始まった?~食品表示一元化検討会報告書案

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2012年6月21日

 6月8日に開催された第9回消費者庁食品表示一元化検討会で出てきた「報告書案」を見て、私は思わず「おおっ」と声を上げてしまった。見方は人それぞれだと思うが、これまで出されていた「論点についての検討方向(たたき台案)」と大きく違う。一部の消費者団体の主張が色濃く出ていたのが一転、事業者側が押し返した印象だ。これまでは、あまりにも一般消費者から遊離した審議内容だったが、やっと現実的になってきた、と思える。検討会も終盤を迎え、新しいステージに入ったようだ。

消費者庁食品表示一元化検討会情報

 報告書案がどのような内容で、どこがたたき台案と大きく異なるポイントなのか、私見を述べてみたい。

 今回出て来たのは報告書案の前半。原料原産地表示と栄養表示について記述される後半は、明らかにされなかった。たたき台案では、「食品表示の目的」として、消費者団体側に配慮し「消費者の権利」が強調されていたが、今回の報告書案では、「消費者の権利の尊重」と共に「消費者の自立の支援」がくどいほどに触れられている。 消費者政策の基本を、「保護される者」から「自立した主体」とするものである、ととらえ、「消費者が自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができるよう消費者の自立を支援する」には、適切な情報提供が前提であり、だから食品表示は重要だ、というロジックである。たたき台案では、事業者側の責任に重きが置かれていたのが、消費者側にかなりシフトした、という印象を受ける。

 さらに目立つのは、コストという言葉。たたき台案の時点では一つもなかったのに、報告書案では随所に出てくる。規制を行うための社会的コスト、事業者の遵守コスト、容器包装の表示を行うための相応のコスト、事業者の実行可能性に影響を及ぼすような供給コスト、監視コスト、その他の社会コスト……。もう、コストだらけである。 たしかに、消費者の多くが表示を必要としていないのに、一部消費者の求めに応じて表示が義務化されてコストがかかり、それが商品価格に転嫁されて消費者全員で負担、という事態は避けたい。だが、事業者の努力の前に報告書案で、一見もっともらしいが内容が不明の項目を書き連ねた「過大見積もり」を見せられている気分。これは、消費者としては納得できない、と思うのは私だけだろうか。

 もう一つ、興味深いのは遺伝子組換えにかんする記述だ。パブリックコメントで、遺伝子組換え食品の表示の検討を要望する意見が数多く寄せられたのを受け、たたき台案では「考え方を整理することが必要」と書かれていた。だが、報告書案では「これらは一部の消費者にとって関心が深い事項であるが、このような表示方法を見直すに当たって、仮に、関連する全ての情報の表示を容器包装上に義務付け、全ての消費者に情報提供させるような形で見直しを行えば、かえって見やすさが低下したり、不相当なコスト上昇を引き起こすおそれがある」と、一気にトーンダウン。これは、遺伝子組換えに強硬に反対する“一部の消費者団体”が激怒するのは間違いなし、である。

 報告書案はこのほかにも、随所に事業者側に配慮した、いや、し過ぎた記述がある。8日の会合ではその、一部の消費者団体から出ている委員ら、これまで消費者の権利を盛んに主張していた人たちが、あまりの変化に毒気を抜かれたのか、あまり発言しなかったという。したがって、議論は活発ではなかった。ただ、このままでは済まないだろう。次回の会合はどうなるだろうか? 嵐の前の静けさか。
 ぜひ、報告書案ご一読を。また、本サイトでも、「食品表示・考」で板倉ゆか子さんが、この報告書案とそれをめぐる審議について「第9回食品表示一元化検討会」の中で詳しく書いてくださっているので、お読みください。

(有料会員向けメールマガジン第57号の一部を修正して掲載しました)

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