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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

消費者庁は、改善を求めていない~黒烏龍茶をめぐる誤報

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2012年6月29日

 東京新聞が6月25日、「消費者庁 トクホCMに改善要望 サントリー食品へ通知」と報じた
 同社が販売する特定保健用食品の黒烏龍茶のテレビ広告の内容が、偏った食生活を助長する恐れがあり不適切として、消費者庁が改善を求める文書を送っていたことが分かった、という。

 このスクープを、各社が追いかけた。NHKは「“油もの大丈夫と誤解”CMに改善要請」とし、「消費者庁が商品を販売する会社に広告内容の改善を求めていたことが分かりました」と伝えている。日経新聞も『「黒烏龍茶」CMに改善要請 消費者庁』
、スポーツ報知は、『黒烏龍茶CM「脂肪にドーン」に待った!消費者庁 誤解与えると指摘』である。

 あれっ? そんなニュアンスだったっけ?
 サントリーの黒烏龍茶については、キリンメッツコーラを中心にトクホの問題点をまとめた特集記事の中で、「トクホ 広告宣伝のトリック」として取り上げた。その時に、消費者庁、消費者委員会の黒烏龍茶にかんする動きについても、情報収集した。しかし、私が聞いていた話と、今回の報道内容がかなり違う。調べてみたら、やっぱり事実は報道とは大きく異なっていた。

 実際に起きたことは、消費者委員会の新開発食品調査部会で、一部委員から指摘が出て、消費者委員会が消費者庁食品表示課長に伝えた。その文書を、同庁はそのまま、サントリーに「事務連絡」として「新開発食品調査部会において指摘事項があったので、お知らせいたします」などとする文書を付けて、伝達しただけである。
 私はそのことを、同社と消費者庁の双方に確認した。つまり、消費者庁自体は、同社に対して改善を求めていない。
 別紙、つまり消費者委員会が消費者庁に伝えた文書は、同委員会のウェブサイトでも公表されている。

 各報道機関は、誤報しているのだ。消費者委員会と消費者庁なんて、同じようなものではないか、と思われるかもしれない。だが、消費者委員会は、「消費者問題について調査審議し、建議等を行うとともに、消費者庁や関係省庁の消費者行政全般に対して監視機能も有する独立した第三者機関」と自ら、ウェブサイトで説明している。一方、消費者庁は、消費者行政を司る規制官庁である。規制官庁が一企業に対して改善要請したのか、していないのか。報道機関が絶対に間違ってはいけない部分だ。なのに、多くの報道機関が事実ではないことを報じた。

 私がこの問題を深刻に捉えるのは、これが広告宣伝にまつわる話だからだ。広告宣伝は、ウソを伝えたり誤解を招いてはいけないが、その一方で、表現の自由も保証されなければならない。
 特に、今回のサントリーの広告は、トクホとして許可された表示の文言を大きく逸脱して機能効果を具体的にうたっているわけではない。「脂肪にドーン」というキャッチコピーと、アニメーションやナレーションが醸し出す雰囲気が、問題となっている。

 そうした「あいまいなもの」に国が口出しする怖さを考えなければならない。消費者庁が、薬事法や健康増進法違反の疑いで、健康食品企業に改善指導するのとはわけが違う。
 表現の自由の侵害には、もっとも敏感に反応しなければならないはずの報道機関が、「規制官庁が、広告宣伝に改善要請をした」などと軽々しく報じていいはずがない。そういう情報を入手したら、「本当か?」「具体的に、どのような言い方で?」「表現の自由の侵害はないのか?」と調べ上げて当然だ。なのに……。どこまでマスメディアの感覚は鈍くなっているのだろう。

 そもそも、今回の黒烏龍茶の問題は、3月12日の消費者委員会第8回新開発食品調査部会での、ある委員の次の発言が皮切りとなっている。「実際にテレビの宣伝や電車の吊り広告を見ている限りにおいては、とてもそんな淡々とした感じの印象は受けずに、これを飲めば油ものを食べても大丈夫とか、そういう印象を受ける取り扱いになっていると思うのです。私たちがやっていることは、どうせ飲むならこれよりこっちというのが大前提だと思うので、あの宣伝でこれを許可することは絶対に私は阻止したいと思います」

 それに対して、座長と思われる委員が「この調査会は、科学的知見に基づいて効能があるかどうかということを判定するので、許可を受けたものがどのように広告宣伝されるかということについては基本的に消費者庁の管轄になると思います。消費者庁の方で誇大広告と認めれば、当然、景表法で取り締まることになるので、その運用については正直言って消費者庁にお任せしているので、この委員会として、意見は消費者庁に申し述べることはできると思います」と答えている。

 さらに、消費者庁食品表示課職員が「恐らく『脂肪にドーン』という表現のことをおっしゃっているのかと思いますが、許可文言を使った中で、それに追加的に、個人個人のとらえ方によって学術的に判断できない表現を行っているものについては、正直なところ、判断がしにくい状況でございます。一方で、健康増進法の中では、虚偽誇大な判断の基準として、『消費者を著しく誤認させるようなもの』ということがございます。例えば、一般の方からお問い合わせ、御指摘が非常に集まってくるような案件に関しては、申請者様に個別に御連絡をさせていただき、広告等の修正を求めている場合もございます。こちらの広告に関しましては、現在のところ、消費者庁にそういった意見は入ってきていないという状況ではございますけれども、御審議をいただいております先生方から、審議をした内容と違うということで、本日、御意見をいただきましたので、その旨をもとにして申請者に注意を促したいと考えております」と答えている。

 これらのやりとりは、既にウェブサイトで議事録として公開されている。

 消費者委員会から消費者庁への申し入れについては、6月5日に開かれた消費者委員会第91回会合と、その後の記者会見でも触れられている(委員会議事録記者会見記録

 こうした経緯を受けて、消費者庁は消費者委員会から来た文書を、サントリーに伝達したのだ。
 消費者庁によると、消費者などから広告宣伝について届く意見については、企業に口頭などで常日頃から伝えているそうだ。今回は、消費者ではなく消費者委員会から文書が届いたので伝達した。消費者庁の担当者が、消費者委員会の調査部会で「申請者に注意を促したい」と発言しているので、その意図を消費者庁に確認したが、常日頃から企業に伝えているという事実を踏まえての発言でしかなく、だからサントリーへの事務連絡が“注意”だ、というわけではないとのことだ。

 もちろん、ウソや間違いは法的根拠を持って指導して当然である。しかし、そうではない内容については、消費者庁は伝えるのだ。それを、「国からのプレッシャー」として受け止め変更するか、受け流すのかは、それぞれの企業に任される。そうやって際どいところで国と企業の関係が作られ、広告宣伝の自由、そして表現の自由が守られている。
 そして、サントリーは3月に文書を受けとった後もCMを流し続けたし、今もウェブサイトで見られる。電車や地下鉄での広告も続けている。

 5月末に高橋久仁子・群馬大学教授に寄稿していただいて本サイトで特集した時にも、広告表現が与える印象の是非と、科学的な評価の妥当性について、私自身はかなり区別して原稿を書いたつもりである。高橋教授も、その区別はしっかりとつけてくださった。CMをおかしいと感じる人は異論を述べ、面白いと感じる人は支持をする。こうした非常に繊細な問題は、そうやって意見を戦わし、企業が意見を反映させながらよりよい広告宣伝を目指して自主的に努力するのが、健全な社会ではないだろうか。

 ちなみに、この黒烏龍茶問題について、取材先等で会う、食品業界ではない人たちに意見を聞いてみたのだが、多かったのは「あれを飲めばバランスの取れた食生活を考慮しなくていい、なんて思う人はいないのでは」という反応。「脂肪にドーン」をなんとなく面白く受け止めていたけれど、記事を読んで「なるほど、そういう商品だったのか」と改めて気付いたという人もいた。「記事がかえって、いい宣伝になったのでは」という意見まであった。

 なるほど、そうした見方もあったか。黒烏龍茶だけでなく、キリンのメッツコーラや、ほかのトクホ製品についても、表示や広告宣伝については冷静に検討していかなければいけない、と改めて思っている。

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