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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

内村「ブラックサンダー断ち」せず金に、ほっ

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2012年8月2日

 今日未明は、我が家も家族でテレビにかじりついていた。オリンピック体操の男子個人総合で、内村航平選手が見事な演技を見せてくれて、大喜び。内村選手は素晴らし過ぎて、我が家はどちらかというと田中和仁選手に「頑張れ、頑張れ」と声援を送っていたのだが、最後は体力が尽きたように見えた。メダルをとれず残念。でも、本来出る予定ではなかったのに、怪我で欠場の山室光史選手に代わって出場し、6位入賞なのだから、立派だ。

 高校生の娘が「田中選手、よくやった」と盛んに言っていたので、メダルに目を奪われずに大事なことを見つめているように思えて、「ずいぶんと大人になったなあ」とにんまり、親バカです。改めて「オリンピックって、いいものだなあ」と独り言ちている。

 ところで。
 内村選手といえば、ブラックサンダーである。
 コンビニエンスストアやスーパーマーケットで、1個30円也で売っている準チョコレート菓子。ココアクッキーをチョコレートでコーティングしてある。なかなかおいしい。
 内村選手が大好きで、4年前の北京五輪の時には選手村に40個持ち込んだ、いや80個だ、と話題になった。内村選手は野菜嫌い、ハンバーガー大好きの偏食家だそうで、そのことも同時に知れ渡った。

 ところが、今回の五輪前には「ブラックサンダー断ちをしている」という報道が……。週刊ポストによれば、大学を卒業して就職後、会社の指導により食生活の改善に取り組み、野菜を食べるようになり、チョコレート断ちしたという。このほかにも、いくつか同様の報道を見た覚えがある。

 個人的にこの、“○○断ち”というのが好きになれない。食生活は「各食品を、どのくらいの量を食べるか」ということとそのバランスが重要で、特定の食品をゼロにする必要など、ない。チョコレートだって、1日に何個も食べて食事に差し支えるほどであれば問題だが、ほどほどの量を楽しむのなら、いいではないか。

 いっさいダメの○○断ちは、食品を白か黒かで二分するフードファディズムの気配が濃厚。それに、○○を断つくらいの精神集中を、という精神論が重なっている場合が多い。
 家族が、勝利を祈念して「酒断ち」をするのはいいけれど、運動選手本人がそのようなフードファディズムや精神論で動いては、結局は強靭な肉体と精神を作れず、勝てないのではないか。
 そんなことを考えていた。

 だから、内村選手のチョコレート断ち、ブラックサンダー断ちが気になっていた。

 ところがなんと、個人総合で優勝した会場に、ブラックサンダーが登場。表彰で受けた花束を内村選手がお母さんに渡したところ、お母さんがブラックサンダーを返したと、デイリースポーツが報じているではないか。
 あれっと思って調べてみると、ブラックサンダーの製造元の有楽製菓が6月、内村選手に「ストレス発散に」と差し入れをしていて、内村選手が「最近は、白いブラックサンダーを食べています」と答えた、という記事を、スポーツニッポン産経新聞が出していた。

 ああ、よかった。結局、食生活改善の中で、ブラックサンダーを食べる量は減らしているだろうけれど、断っているわけではないのだろう。断っているのであれば、これからまだ、個人の種目別の競技が残っているのに、お母さんが花束の代わりにブラックサンダーを渡すような、お茶目なことをするはずがないではないか。

 やっぱり、一流選手はフードファディズムには取り込まれないようだ。安心した。

 食べ物は、こうした偏狭な「○○断ち」の対象になりやすいらしく、以前にも、プロ野球選手の「ポテトチップス断ち」という記事をスポーツ紙で見つけて、気になったことがあった。

 一般の人々の間でも、炭水化物断ちとかグルテンフリーとか、流行っているようだ。その栄養素を食べない、ということだけでなく、「それほど我慢して、生活を切り替えた」という高揚感、達成感が入り交じるから、短期的には体調も改善して当たり前。だが、そのことがきちんと理解されないまま、やっぱり○○が悪い、という話になってしまう。

 野菜大嫌い、ハンバーガー大好き、駄菓子大好きの子どもが天性の素質と努力で銀メダルをとり、大人になって自らの意志で改善に取り組み、好きな菓子もほどほど楽しんで、金に到達する。いやあ、いい話です。お母さんのブラックサンダーを味わって、種目別も頑張ってください。

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