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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

トクホの安全性を理解するためのヒント

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2012年9月21日

 前回、特定保健用食品(トクホ)のキリンメッツコーラに浮上した発がん性の疑いについて、解説した。研究の経緯を説明し、キリンビバレッジが、「大人が毎日16リットル以上飲み続けなければ、安全性に問題がない」と説明した理由を考えた。

 だが、その理由を知り、問題になった物質が「ヒトへの発がん性を示す根拠はない」と説明されたところで、多くの人に違和感が残るだろう。「ヒトでは不明でも、マウスでは発がん性が明確。そんなものが含まれるものを、健康効果のある特定保健用食品として売るなんて。普通に売られているのなら勘弁してあげるけれど、わざわざ健康にいいとアピールするのは、やっぱり許せない!」

 当然の感情だと思う。発がん性について報道したニュースサイトも、やっぱりそこが引っ掛かったようだ。「トクホ許可の審議中に情報は収集できたはずで、この許可は消費者庁の怠慢といえる」と記述している。だが、果たしてそうだろうか?

 私はそこに、食品の安全性評価に対する「誤解」が含まれている、と考える。といっても、食品の安全性評価自体が持つ困難さを凝縮したようなテーマであり、多くの人が抱えていて当然の誤解だ。今回は、その部分の若干の解説を試みたい。

食品の安全性を調べるのは、難しい

 まず、トクホの審査の仕組みについて説明しよう。食品安全委員会が安全性を評価し、消費者委員会が安全性と有効性について検討したうえで、厚労省が医薬品の表示に抵触しないか確認し、国立健康・栄養研究所が関与成分量を分析して問題がないことを確認したうえで、消費者庁長官が認可する。

 安全性評価については、食品安全委員会から2005年、「特定保健用食品の安全性評価に関する基本的考え方」が出されている。
極めて重要なことは、安全性評価を個別製品ごとに「ケースバイケース」で行うこと、そして、原則として食品中の「関与成分」について安全性の評価を行う、ということである。

 メッツコーラの場合、成分は難消化性デキストリン(食物繊維)、カラメル色素、香料、酸味料、甘味料(アスパルテーム・L-フェニルアラニン化合物、アセスルファムK、スクラロース)、グルコン酸Ca、カフェインである。トクホ審査で主に検討されたのは、難消化性デキストリンの安全性である。

 なぜ、関与成分なのか? なぜ、食品自体の安全性を調べないのか?
 安全性を確認するというと、多くの人が動物に与え続ける実験や、ヒトが食べ続ける実験を想像する。たしかに、農薬や食品添加物では動物に大量投与するし、医薬品では必ず臨床治験が行われる。だが、食品ではそのような試験はできない。

 食品自体は、これまでも何度も書いて来たとおり、リスクはゼロではないとみられている。食品は未知の物質を数多く含み、すべての成分のリスクを確認することはできない。

 医薬品や農薬であれば、単一成分なのでそれを動物に大量投与することで、影響の程度がわかる。また、医薬品は人の体に影響を及ぼすことを目的に投与するものなので、投与量は比較的多く、安全性も検討しやすい。

 しかし、食品を動物に大量投与したら、エネルギーや特定の成分の過剰摂取が起き、個々の微量成分の毒性などがわかる前に死んでしまうだろう。もちろん、ヒトへの大量投与実験もできない。通常の摂取量で特定の食品を食べさせ続ける試験をしたとしても、今度は栄養の偏りが起きてしまい、結果がなんのせいなのかがわからなくなってしまう。
 結局、食品の摂取試験でリスクを明らかにするのは、ヒトでも動物でも相当に難しい。だから、トクホの安全性評価においても、関与成分の検討が中心となるのだ。

 メッツコーラの場合、難消化性デキストリン以外の成分はどれも食品添加物で、一定の安全性評価を経て使用を認められている。つまり、既存食品と同等の材料を使ったコーラ(ただし、その配合等によって、味、香り等にはオリジナリティが当然あるはずだが)に難消化性デキストリンを追加したのがメッツコーラであり、食品安全委員会も難消化性デキストリンに焦点をあてて、審査をする。

 難消化性デキストリンについては、多くの論文が出ており、これまでにも整腸作用や血糖値の上昇抑制作用などが認められ、トクホの関与成分として数々の実績があるので、今回のメッツコーラの審査においてもなんの問題もなかったはずだ。

 ただし、キリンビバレッジは、メッツコーラそのものを3カ月にわたってヒトに飲んでもらう試験をしており、理化学的検査、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査及び医師診察等で有害事象は確認されなかった、と論文報告している(どのような論文を基にトクホ審査が行われたかについては公表されていないが、国立健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報で、簡単に解説されている)

 今回、問題になった4-methylimidazoleはカラメル色素の副生成物。カラメル色素は、コーラやコーヒー飲料、アルコール飲料、醤油など幅広い食品に使われている(独立行政法人農畜産業振興機構 のカラメルのはなし)。既存のコーラにも含まれているのだから、既存食品との比較で安全性を評価するトクホの審査において問題視されないのは、科学的には当たり前。審査に関わった国の組織の怠慢とは、どう考えても言いにくい。

トクホの安全性評価は、なかなか厳しい

 食品安全委員会の「特定保健用食品の安全性評価に関する基本的考え方」では、じつはもう少し詳しく、安全性の要件が説明されている。
 重視されるのはまずは、「食経験」。いくら、食品のリスクの有無などわからない、といっても、「十分な食経験」があれば、少なくとも急性症状はなく、大勢の人数で食べていても「なにかおかしい」というようなことが察知されない程度にはリスクが低い、ということはわかる。

 したがって、「長期にわたって食されて来た実績がある」食品については、それ自体の安全性評価は必要ではなく、関与成分をしっかりと検証すればいい、というのが食品安全委員会の整理だ。
 一方、十分な食経験がない、あるいは乏しいと判断される食品や、製造・加工や摂食方法などが従来と著しく異なるものについては、安全性について十分に調べることが要求されている。

 また、関与成分については、in vitro試験(細胞を用いて試験管内で行う試験)とin vivo試験(動物を用いた試験)の詳細なデータが要求され、遺伝毒性試験や単回経口投与試験、28日間又は90日間反復経口投与試験が行われる。また、必要に応じて1年間の長期試験やアレルギー誘発性試験、繁殖試験、催奇形性試験、発がん性試験等のデータも要求される。

 さらに、ヒト試験も重視される。リスクがわかりにくいながらも、やっぱり継続した摂取試験が求められているのだ。当該食品を4〜12週間食べてもらって変化をみたり、1日摂取目安量の3倍量を2〜4週間食べてもらう試験なども行われる。この場合、食品自体を3倍量食べた場合に健康上の問題が出る場合には(たとえば、みそ汁の形態のトクホを3倍量食べると、塩分の過剰摂取になってしまう)、関与成分の3倍量でもいい。

 過剰摂取試験は、たとえ関与成分の3倍量であっても過酷な試験なので「自社社員で試験をしたい」と考えた企業もあったようだが、通知で「試験は原則として社外ボランティアを被験者として第3者機関で実施すること」となっている。

 また、成人だけでなく乳幼児や高齢者、妊婦等が摂取することも考慮して試験等を行わなければならず、健康な人だけでなくさまざまな患者が摂取した場合の影響も検討し、もし薬剤を併用した場合にはどうなるか、についてもデータや十分な考察が必要だ。

 このほかにも、さまざまな場合に応じて、細かく試験データや考察が求められる。トクホの安全性評価は、なかなかに厳しいのである。
 そして、このような厳しい安全性評価をクリアしても、リスクなしではないし、絶対安全とは言えない。そのことは、2009年のエコナ問題でも、明らかとなった。

 エコナは、長い食習慣のある食品に関与成分を添加したものではなく、製造加工などが新規の食品だったので、なおさら詳しいデータの提出が求められた。安全性にかんする多くの試験を行い論文も発表し、すったもんだの挙げ句に「問題なし」との結論が出ようとした矢先に、含有するグリシドール脂肪酸エステルが人の体の中で、発がん性があるとみられるグリシドールに変換するのでは、と疑われた。

 この事例も、これまで含まれていることすらわからなかった物質が、検出技術の進歩でわかるようになったケースだ。エコナという食品を丸ごと用いた安全性評価試験では、発がん性は確認されていない。だから発がん性があったとしても、高いものではない。しかし、微量成分のリスクの可能性が指摘され、花王は販売を中止した。そして、リスクが実際にどの程度の大きさなのかについてはまさに今、食品安全委員会が評価中だ。
 食品の安全性評価というのは、ことほど左様に難しい。

誤解に基づく「トクホ叩き」はやめたい

 トクホに対する目は最近、より一層厳しくなっている。消費者委員会新開発食品調査部会などの議事録を見ても、安全性、有効性、表示の許可すべてにおいて、「もっと厳しい審査を」との意見が強い。マスメディアもそんな論調だ(たとえば、日経ビジネス記事

 たしかに、Foocom.netでも、問題視する特集を出した。国が許可する責任が大きいのも事実だ。
 しかし、食品の安全性を評価するのは難しい。そのことを理解せずに、誤解に基づいてトクホ叩きをするのは不毛だ。問題点を挙げればきりがないけれど、相対的に見ればマシなのがトクホなのだ。特に、「いわゆる健康食品」に比べれば、第三者の評価を経ているのだから、はるかにいい。そのことを忘れずに、トクホの問題をさらに考えて行きたい、と思う。

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