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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

米の放射性セシウム数値が示す農家の努力、科学者の献身

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2013年1月25日

 福島県が「放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~ (概要)」という資料をウェブサイトで公表している。これまでの県や生産者の努力がデータにはっきりと表れている。今後の農業や稲作を考えるうえでも非常に重要であり、「福島産だから、東北産だから食べない」という消費者に理解してほしい内容が詰まっている。

 資料は、1.平成24年産米の放射性物質検査の結果 2.作付制限・自粛区域での試験栽培の結果 3.玄米中の放射性セシウム濃度に影響する要因 4.24年産で基準を超過した米が生産された要因の解析 5.総括—の5項目からなっており、県農業総合センターのほか、独立行政法人農業環境技術研究所、農業・食品産業技術総合研究機構、学習院大学等7機関が協力して調査研究が行われている。

 もっとも重要な情報は「土壌中の放射性セシウム濃度と玄米中の放射性セシウム濃度の間には相関は見られない」ということだ。「放射性セシウムが大量降下して土壌中の濃度が高いから、米が高濃度に汚染されている」というわけではないのだ。

 事故からずっと、「福島県は放射性セシウムが大量降下したのだから、米作りなんか止めるべきだ」「県内を細かくメッシュ状に区切って空間線量を測って、高いところに作付け制限を出せばいい」「土壌中の放射性セシウム濃度を測って、細かいエリアごとに管理を変えるのが科学じゃないか」などという“暴論”が、農業を知らない方々から声高に主張されて、そのたびに農業研究者は「そんなに単純じゃない」とぶつぶつ言っていた。

 私自身も、工学系や理学系の人たちに「そんな考え方は農業には通用しない。含有量を決めるファクターは山ほどあって、今、生産者はそれをいろいろ考えながら低減努力を続けているんです」と説明にチャレンジしては、鼻先であしらわれていた。なにせ、こちら側はこれまでの農業研究を基に「セシウムの降下量だけでは決まらない」という確信はあっても、その根拠となるデータが足りなかったのだ。
 今回、しっかりとしたデータを根拠に、そうした暴論は排除できるようになった。ああ、すっきりした。

 という個人的な思いはさておき、資料のp3の玄米中の放射性セシウム濃度と土壌中の濃度の関係を見たグラフを見てほしい。相関は見てとれない。

 相関がない要因としてまず挙げられているのが土壌中のカリウム。
 実験の結果、カリウム肥料がたっぷりと与えられていると玄米中の放射性セシウム濃度は低く、肥料が与えられず土壌中の交換性カリ含量が低いと、放射性セシウム濃度が高くなってしまうことが、きれいに示された。カリウムとセシウムは化学的な性質がよく似ており、作物が吸収するときに競合する。したがって、土壌中にカリウムが多くあると、セシウムは吸われにくい。

 しばらく肥料が与えられていなかったり、刈り取り時に稲わら(カリウムを多く含む)が田んぼに返されず畜産飼料や敷きわらなどとして使われ続けてきた場所などは、カリウムが少なく、放射性セシウムがイネに吸収されやすく、土壌中の放射性セシウム濃度が高くはない場合でも、玄米の濃度が上がってしまう。

 次に挙げられている要因は、土壌の種類による放射性セシウムの吸着力の違いである。粘土鉱物の中には、セシウムを固定する能力の非常に高いものがある。その鉱物が多く含まれる土壌では、セシウムはがっちりと吸着固定され、玄米への移行割合は低くなる。こうした粘土鉱物が少ない砂質土は要注意である。

 さらに、重要なのは、栽培収穫後の汚染対策である。籾自体は汚染されていなかったのに、籾から籾殻を取り除き玄米にする「籾すり機」に放射性セシウムが付いていたために、玄米に移ってしまった、というようなことが起きている。籾すり機を洗浄したら、玄米の数値も大きく下がったのだ。

 籾すり機を原発事故当時、どこに置いていたかというのが、結構大きなポイントだったようだ、と私自身、以前に福島の方から聞いたことがあった。倉庫にしまってあったのか、納屋に、戸口は開けっ放しのまま置いていたのか。そんなことが、玄米の汚染を左右してしまうのだ。

 12年産の米は同年12月末までに1003万袋が検査され、100Bq/kgという基準値を超過したのは71袋、0.0007%。25Bq/kg未満は、1001万袋、99.8%である。
 現地調査なども行われ、比較的高い濃度の放射性セシウムが検出される事例は、多くの原因が重なり複合的に作用した結果である、というのがこの資料の結論である。一つ一つの要因に対策を講じることで、低減を進めることができる。
 2011年産の玄米の検査や土壌検査、実験などを基に仮説が立てられ対策が検討され、12年には現場でも取り組みが行われ、全量全袋検査で確認され、同時並行で緻密に設計された実験が行われて、こうした要因が明確になってきた。

 県内の作付け制限対象であったり、自粛されている区域での試験栽培も行われており、上記のような要因を考慮した吸収抑制策が功を奏して玄米の放射性セシウム濃度はほとんどの区域で、基準値を大きく下回っている。その結果も、公表されている。

 そのほか、どういうタイプのカリウム肥料をいつ、田んぼにやったらいいのか、水系から放射性セシウムが入ってくる場合にはどういう形態で入ってくるのか、その対策をどうしたらよいのかなど、今年の作付けに役立つ具体的な対策が、この資料で細かく説明されている。農家がさまざまな手だてを講じたことで、2012年産の米は11年産にくらべて汚染が大きく低減し、さらにその経験を生かして今年産でさらなる低減を目指していこうとしていることが資料から汲み取れる。多くの方たちの努力、献身がまさに見えるようだ。
 水の影響など、まだよくつかめないものもある。これからも調査研究は続くはずだ。

 宮城県で1月10日、自家消費米から放射性セシウムが基準値を超過して検出された、というプレスリリースが出された。
 これを受けて、twitter上などで「宮城県の米も危ない」とか「東北も全量全袋検査を」などと主張する人たちがいたが、宮城県の広報内容を読むと、基準超過した米が、福島県などの調査でわかった「濃度が高くなってしまう要因」を各種集めたデパート状態であったことがわかる。

 今年、宮城でもほかの県でも、福島県を中心とした研究成果に基づいて、カリウム肥料の使い方など農家が注意することだろう。事故により、かなりの放射性物質が事故により放出されたが、日本の農家は立派に汚染を防ぎ関係者も科学的根拠となるデータを出している。私は、なんと言えばいいのだろう、私が頑張ったわけではないのに、誇りのようなものを感じるのだ。

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