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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

6次産業化への懸念に、多くの反響をいただきました

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2013年2月22日

 先週15日に更新した記事『無責任な「6次産業化」が、心配』が、思いがけなくたくさんの方に読まれている。
 農業現場で指導している各県の普及指導員の方々からも、反応があった。おおむね、「その通りで、自分たちも大きな危機感を抱いているのだけれど、構造的な問題があって、個人ではにっちもさっちも行かないのですよ」ということだ。

 東北の県で普及指導員のご経験があるという方から、こんなメールをいただいた。辛い立場にある様子が、よくわかる内容だ。

 今回松永さんが取り上げられた食品衛生法に関わる部分については,単に縦割り行政という問題だけでは済ませない課題が存在します。

 農産加工施設の設置に当たって,農業者の意向を汲みつつ,資金相談など,多くの部分を普及指導センター職員が担うケースが多いことはご存じのことと思います。当県の普及指導センターでは原則,食品衛生法等保健所が管轄する部分の情報提供については,概要にとどめ,詳細は農業者が直接保健所に問い合わせさせるように言われています。

 これは過去に,普及指導センター職員が農業者に提供した情報が法令改正前の情報など誤った情報で,結果として農業者に不利益となった事例(保健所からの指導でラベルの作り直し・張り直し,農産加工施設の一部改変など)が複数あったからです。関連法令が多岐に亘り,しかも目まぐるしく変わる状況で,普及指導センターにおいては,本来担当している部門の法令の内容を追っていくのも大変な中,関連部門とはいえ,最新情報が必ずしも入ってこない部門まで正式サポートできる体制にないのです。

 以前は農産加工専門の生活改良普及員が多くの普及指導センターに配置され,より専門的な業務分担の基に農業者支援していました。しかし現在では生活改良担当の新規採用は10年以上とストップしており(当県の場合),普及指導センターで農産加工や生活改善などを専門とする職員が皆無となっています。担当こそは置いていますが,そのほとんどは農業改良分野の職員であるのが現状です。斯く言う私も以前,1年間ですが農産加工担当を命じられたことがあります。ちなみに私の専門は果樹栽培分野で,農産加工について一度も専門的なレクチャーを受けたことがありません。

 普及指導センター職員のコンプライアンスに対する認識の甘さは,食品衛生法に関わらず,農薬取締法などの本来関連する法令についても指摘でき,そうした意味では普及指導センター職員の姿勢は厳しく問われなければなりません。しかし,食品衛生法に関する部分については,普及指導センターの業務を大きく超えたものであることもまた事実です。私の場合,食品衛生法や関連法令が変わり,農産加工を行う農業者にも情報提供すべきと思った時は,保健所に問い合わせて主な農産加工団体に情報提供し,場合によっては保健所職員を講師に迎えた研修会を開催するなどしてきました。

 食品衛生法など保健所が所管する業務については,普及指導センター職員はあくまコーディネートするにとどめ,必要に応じて関連部署へ誘導する,そうした謙虚な対応をする必要があります。現在の普及指導センター職員の多くは,そうした心構えが欠如しており,そのため産業振興の立場からのみ対応するため,食品衛生や食品表示等,保健衛生部門やJAS法分野のサポートが疎かになっています。

(送ってくださった方は、個人でブログを開設している。視点が広く、私もいろいと勉強させていただいた。お読みください)

 中国地方の県職員からは、「よくぞ、書いてくれました」とは言っていただいたものの、やはり指導の難しさを聞かされた。その女性職員は、農政部局の食品表示担当。食品表示はご存知の通り、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)だけでなく、食品衛生法や健康増進法、景品表示法等多岐にわたる法が関係しているため、多くの法律に精通している。しかも、もともと食品の栄養学や衛生管理等にかんする知識もあるため、上司の信頼も厚い人だ。

 その彼女が言う。「加工品を開発したら、多くの人が、真空パックをやりたがるんですよ。もう、心配で心配で」。
 真空パックと言えば、思い出すのはまずは、1984年に熊本県で起きたからしれんこんの食中毒事件だ。ボツリヌス菌により患者31人、死者9人に達する大事件となった。

 ボツリヌス菌は、熱にきわめて強い芽胞を作り、酸素のないところで増殖する。からしれんこんは、れんこんの穴にからしを詰めて衣をつけて揚げたもの。からし粉にボツリヌス菌の微量汚染がおこり、真空パックが菌発育に好適な環境を作ってしまい、ボツリヌス毒素が増えてしまって被害を招いた、とみられている。
(国立感染症研究所感染症情報センターが概要をまとめている)

 2012年3月26日には、岩手県で製造された真空パックの「あずきばっとう」で食中毒事件が起きている。(厚労省プレスリリース食品安全委員会資料

 国立感染症研究所の資料によれば、あずき餡とうどんを混ぜて真空包装し、1時間煮沸して製造されていたという。煮沸1時間では芽胞は残り、酸素のない中で増殖し毒素を作ったとみられる。ほかの患者が出ていないことから、購入後の保存中に芽胞が発芽し毒素を作った可能性がある。

 ボツリヌス菌はこうした事例があるため、購入後に菌増殖を許さないように冷蔵することが重要。ところが、真空パックは、レトルトパックと混同されて、常温保存されてしまう場合がある。
 そのため、厚労省はこれまでにも、要冷蔵食品であることが消費者にはっきりとわかるように、容器包装の表面に「要冷蔵」と大きく書くように通知を出していた。

 ところが、このあずきばっとうでは、「要冷蔵」は裏側の一括表示欄にしか書いていなかった。そのため、厚労省はあわててまた、同じ通知を3月27日付けで出している。さらに11月には、リーフレットも作成して配っている

 もちろん、中小の食品事業者の中にも知らない人もいて、だから、あずきばっとうの事故も起きたわけで、食品製造に潜むリスクの怖さを改めて感じざるを得ない。だが、「6次産業化」に乗り出した生産者にはより一層、厚労省の出す情報が届きにくいことは否定できない。

 6次産業化の場で、機械を買い込んで食品を真空パックすると立派に見え、問題を解決したかのような錯覚に陥ってしまう。これまで農産物を栽培してきた人たちが、加工品をきれいに包装して喜んでいる様が目に浮かぶ。

 彼女は言う。「表示の相談に乗ると、製造方法の問題点も見えることがある。相談があった時には、なるべく詳しく話を聞いて説明し、最終的に保健所に相談に行くように勧めます。必要のない食品添加物を使っていたりする場合もあります。なるべく理解したうえで、食品製造をしてもらいたいのですが……」。

 こうした問題に気付いた普及指導員の中には、普及指導員と保健所の食品衛生監視員、それに表示の指導をできる職員という3者が講師となるような講習会を開き、生産者を集めて話を聞いてもらい相談に乗るような「場」づくりをするそうだ。
 しかし、そうした企画をできるかどうかは、個々の普及指導員の力量に任されてしまっているのだ。

 ところで、農水省消費安全局は、「リスク管理検討会」を設置して、リスク管理の関係者、具体的には消費者団体や加工・流通事業者等の意見を聞いている。
 この資料を見ていて、非常に面白い内容を見つけた。昨年2月にひらかれた「平成23年度検討会」の議事概要である。その中で、委員から「近年、農林水産省は地産地消・ 六次産業化の取組を推進しているが、十分な経験の無い製造業者が新たに缶詰・瓶詰製品や熱をかけないパウチ等の食品を取り扱う場合、特にボツリヌス菌のような嫌気性菌への注意が必要である。推進する立場である農林水産省には、安全性の観点からのチェックも行って欲しい。また、六次産業化パンフレットには新しい食品の製造・輸出を促進する文言があるが、日本特有の食材が海外で食中毒の原因とならないよう注意して欲しい」という発言が出ているのだ。

 ちなみに、これはあずきばっとう事件が起きる前の発言である。
 これに対する農水省の回答が興味深い。「輸出促進の取組を進めるためには、国産の食品について科学的に安全を証明するとともに、輸入国の基準に適合させる必要がある。六次産業化や 地産地消の取組で対象としている食品は摂取量や生産量の少ないものが多い。食中毒の発生する確率が同じであれば、より多くの国民が食べる機会の多い食品について優先的に取り組む方が全体として国民の健康保護に繋がる」と答えているのだ。

 実に直截だ。消費安全局は、そんな小さな製造規模のものは輸出の機会も少ないだろうし、指導するのも効率が悪いですよ、と言っているのだ。ただし、最後にこう付け加えている。「六次産業化を推進している部局においても、食品安全は中心的に取り組むべき事項と認識しているのでご意見を伝える」。

 これが1年前。推進している部局が、指導が強化したという話は聞かれない。ウェブサイトを見ても、そんな内容はない。
 これまで農作物を栽培してきた生産者一人一人が作れる加工品の数はたしかに、少ない。しかし、そんなずさんな製品が、もし、無数にあったら……。国民の食べる機会が少ない、なとど言っている場合ではないはずだ。6次産業化に対する不安は広がるばかり。そして、一部の普及指導員や農政部局職員らが、もがき苦しんでいるのである。

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