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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

吸い込んだ時、食べた時、毒性は異なります!〜PM2.5の誤解

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2013年3月1日

 食品企業のお客様相談室で、PM2.5にかんする問い合わせが増えているそうだ。先日、九州で開かれた食の安全にかんするシンポジウムで聴衆から寄せられた質問の中にも、PM2.5にかんする内容があった。

 中国産食品や九州産食品にPM2.5が付着し、口へ、というイメージなのだろう。日刊ゲンダイは『PM 2.5大気汚染また悪化 食べてはいけない中国産「猛毒食品」』
を出している。こんな記事に影響されて、市民の不安は大きく、という構図なのだと思うが、どうも誤解があるようだ。おそらく、誤解の根幹には、吸い込んだ場合の毒性(吸入毒性)と食べた場合の毒性(経口毒性)の違いを区別できていないことがある。日刊ゲンダイさん、こんなトンデモ記事を出すのは、恥ずかしいですよ。

 Foocom.netでは、瀬古博子さんがさっそく、解説「PM2.5で食品が汚染される?」を出してくださった。ここに書かれているとおり、PM2.5は大気中に漂う粒径2.5μm(1μmは0.001mm)以下の小さな粒子のこと。吸い込むと肺の奥深くまで入りやすく、肺がん、呼吸系への影響に加え、循環器系への影響が懸念される。

 環境省が、環境基準を設定した時の資料によれば、循環器系(心血管系)への影響は、吸い込まれた粒子が肺を透過し血管や循環器に直接影響する可能性や、呼吸器内にある知覚神経終末を刺激して自律神経に変調をもたらす可能性、呼吸器内の炎症反応を介する血液凝固系の促進の可能性等が考えられるという。また、免疫系等への影響もありうるかも、となっているが、これも肺経由の曝露によるものだ。
環境省・微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報参照を)

 多くの物質で、吸い込んだ場合と食べた場合の作用メカニズムは、まったく異なる。食べた場合には、当然のことながら、呼吸系には物質は到達できない。食道から胃に入り消化され、主に腸から吸収されて、体に作用する。

 PM2.5が仮に食品に付いていて、食べたとしても、消化管内で食品と混ぜられ、酵素によって消化される。PM2.5は主に、燃焼によってできる炭素成分や、硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)等が粒子化したもの、とされているが、食べ物の中に硫黄や窒素の化合物も有機化合物も山ほど入っている。

 その量に比べれば、食品に付着しているPM2.5などごくわずか。消化液中にある塩酸や酵素等で分解され吸収されるので、PM2.5がことさらに悪影響を持つことはほぼ、考えられない。
 PM2.5に、亜鉛、銅、鉛などの重金属が含まれる場合もあるだろうが、それもPM2.5に比べれば食品中にもともと、かなり大量に入っているのである。たとえ、口から食べた時に発がんにつながる物質があったとしても、食品が本来持つ発がん物質や加熱加工等によってできる発がん物質に比べれば、圧倒的に少ないはずだ。

 日刊ゲンダイは、『中国のPM2.5の影響を受けて、九州の野菜まで「硝酸性窒素」が過多になりはじめている』と書くが、中国で記録したPM2.5の数値が高いもので1㎥あたり700〜800μg程度。一方、野菜はたとえばほうれん草で通常、硝酸性窒素を1gあたり3000μg程度は含んでいる。浮遊したPM2.5がほうれん草に付いたところで、もともとある硝酸性窒素に比べれば微々たる量であることは、お分かりだろう。野菜の硝酸性窒素過多はほとんどの場合、堆肥や肥料のやり過ぎによる。少なくとも、PM2.5と結びつけて語るのはナンセンスだ。

 ちなみに、硝酸性窒素の1日の摂取量は、成人で200mg以上ある。亜鉛の1日の摂取推奨量は男性で12mg、銅は0.9mg。こうした量を、食品そのものから摂っている。μgオーダで検討されているPM2.5が、影響を持つはずがないのだ。

(野菜の硝酸塩については、農水省のウェブページが詳しい。また、厚労省・日本人の栄養摂取基準2010年版で、多くのミネラル等の摂取基準が示されている。食品安全委員会のハザード情報でも、さまざまな物質にかんする情報が提供されている。食品が含有する発がん物質については、食品安全委員会ニュースや国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室長の畝山智香子さんの記事が参考になる)

 吸入と経口は作用メカニズムが違う。だからこそ、瀬古さんも、「食品が汚染されたら…などと心配するよりも、まずはきれいな空気の中で食事できるようにすることが大事」と書いている。
 なのに、一緒くたにして不安を煽る。思い出すのは、2003年におきたフグ養殖のホルマリン使用問題だ。

 フグを養殖する際に寄生虫駆除のためホルマリンが使われていることが発覚し、長崎県が指導を行った。その際、新聞やテレビなどが「発がん性のあるホルマリンが養殖に用いられ、食の安全が脅かされた」と報じた。

 ホルマリン、つまりホルムアルデヒドの水溶液の経口摂取は、発がん性が認められていない。しかし、吸い込む場合には発がん性があるとされている。ところが、マスメディアは顧みなかった。同様に、シイタケや干しシイタケから自然生成のホルムアルデヒドが検出されても、週刊誌は「発がん物質がシイタケに」と煽った。

 PM2.5と食品を結びつけて語るのは、これと同じ「トリック」である。どうぞ、騙されないように。

(大気中の粒子を吸い込んだ時の体への影響については、田中伸幸さんがFoocom.netの連載「調理と化学物質、ナゾに迫る」で、とてもていねいに解説してくださっている最中。PM2.5の影響を適切に理解するための基礎知識が提供されています。田中さんによれば、食品の汚染とPM2.5を結びつけるのは意味がないが、中国におけるPM2.5の主要な排出源の一つは、家庭用の石炭調理器なので、あながち食と無縁の話でもない、とのこと。田中さんに、解説してください、とお願いしてあります。乞うご期待、です。)

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