ホーム >  専門家コラム > めんどな話になりますが… > 記事

めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

“中国猛毒食品”のトリック(上)

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2013年4月11日

 週刊文春が3月28日号から「中国猛毒食品」キャンペーンを行っている。いかに、中国製が怖いか、危ないか、書いてあるのだが、中国製への不安を煽る時にこれまでたびたび用いられてきたトリックが使われている。
 その中から (1)猛毒とリスク (2)違反数と違反率(3)品目の違い(4)検査数の意味 (5)ピンとキリの混同—の5点を考えてみたい。

(1)猛毒とリスク—中国産食品の違反事例、リスクは高くない

 まずは、初歩の初歩。リスクの話からだ。週刊文春は、「食品衛生法違反を犯しているから、猛毒」、と決めつけているが、Foocom読者ならよくご存知の通り、食品衛生法に基づき設定されている基準、規格はなかなか厳しい。一品目、違反品を食べたところで健康影響はない、というレベルで設定されている。
 厚労省の監視統計を見る限り、中国の違反は、アフラトキシンのような強い発がん物質が検出されたり、抗生物質が基準を大幅に超えたりする食品もあることはあるが、多くは基準を少し超えた程度のもの。このような違反品に対して「猛毒食品」と表現するのは、読者に対するごまかし、“偽装”ではないか?

 もっと気になるのは、食品別の解説の記述に誤りが多いこと。たとえば、サッカリンナトリウムについて「摂取し続けると発がん性の疑いがあると指摘されている」と書いているが、それは数十年前の知見。雄ラットに大量を摂取させたところ発がん性が認められたため、「発がん物質かも」ということになった。しかし、その後の研究で、尿量が少ないために膀胱で溶けずに結晶になってしまい、それが物理的な刺激となってがんができていたことがわかった。人ではそのようなことは起きない。ほかの種々の研究も基にして、今では「人には発がん性がない」という結論になっている。これは、日本だけでなく国際機関や諸外国の安全性評価機関でも同じだ(食品安全委員会の評価書参照を)

 知識、情報が古い本やウェブサイトには未だに、「サッカリンには発がん性の懸念がある」と書いてある。記者が、そのような資料を見たのかもしれない。
 また、リスクの大きさは摂取量によって変わるのに、大量投与の動物実験の結果を引いて危ないと論じている項目も目立つ。食品に詳しい知人曰く、「突っ込みどころがありすぎて、どこから突っ込んでいいのかわからない」レベルだ。

(2)違反数と違反率—中国産の違反率は低い

 3月28日号の第1弾では、厚労省の輸入検疫で違反となったリストが載っている。これは典型的な手法。活うなぎとか焼きちくわ、ネギトロなど、具体的な食品名と違反内容、注意点などがずらりと並ぶと、迫力がある。中国産は違反数が多くてバラエティに富んでいるので、読む方は「どんな食品でもあるのだな。気をつけなければ」となる。

 だが、週刊文春が「厚労省のデータを基にリスト作成」と高らかにうたう、厚労省のデータそのものを熟読し、輸入・届け出数量と検査数量、違反数量、つまり違反の割合を見ると、様相はがらりと変わる。
 最新の年間データである2011年度の輸入食品の監視統計を見ると、全体の輸入・届出は件数209万6127件、重量3340万7240tで、検査数は23万1776件、違反数は1257件。検査における違反の割合、つまり違反率は0.54%だ。
 これに対して、中国産の輸入届出数量は63万3733件、414万6653tで、件数は30%を占めるが、重量では12%。そして、検査数は11万1654件で全体数の48%を占めているが、違反数は278件。違反率は0.25%なのである。

 つまり、中国産は少量多品目であり、検査数はほかの国に比べて圧倒的に多い。そして、違反の割合は、全体平均に比べて大幅に少ない。
 中国は平均よりも低い、という傾向は、2006年ごろからずっと続いている。昨年の中間報告を見ても変わらず、今年の違反事例も逐次、ウェブサイトに掲載されているが、大きな変化は見られない。

 ちなみに、2011年度の他国の違反率をみると、韓国が0.58%、台湾が0.68%、ベトナムは1.1%、タイが0.78%、欧州は0.48%、イタリアが0.77%、アメリカは0.80%である。
 たしかに、中国産の違反件数は各国の中で一番多い。しかし、割合は低い。リスト化して「違反数が多いから気をつけなければ」というのは、割り算をして割合をみることができない小学生の論法だ。

(3)品目の種類—品目によってリスクは大きく異なる

 週刊文春のリストで目につくのが水産物の多さ。水産物は微生物が付きやすく管理が難しく違反が出やすい。しかもエビや貝類など加工度が低い状態で食べる割合が多いため、リストに並べると消費者へのインパクトはとても大きい。

 水産物を多く輸出しているのはアジア。中国や韓国、ベトナムなどである。ほかの諸外国は、アメリカのニシンやノルウェーのサバなどを除き、それほど多くない。だから、こうした国に比べて、水産物を多く扱うアジアの国々の違反率が高くなるのは、当たり前とも言える。その中で、中国は難しい品目を扱いながら、よく健闘している。

 国によって、得意の品目は大きく異なる。アメリカの得意は穀物。同国の違反数、率が比較的高いのは、トウモロコシやナッツのアフラトキシン汚染があるからだ。アフラトキシンは、特定のカビが作る発がん物質で、トウモロコシやナッツで産生しやすい。でも、違反率が多いからといって、「アメリカの穀物は猛毒だから避けよう」とはならないことは自明のこと。日本で同じ穀物を生産しようとしても農地面積が足りないし、生産しても、もっとカビ毒汚染が強くなる可能性が高い。

 そうした品目ごとに抱えるリスクの大きさ、事情を顧みることなく、違反が多いとか危ないとか言っても、実質的な意味はなにもない。にも関わらず、週刊誌が現象の一部分だけを書くのは、やっぱり読者を脅かして販売部数を伸ばしたいからだろう。

 ちなみに、国産の水産物を検査すればおそらく、微生物については相当数の汚染が見つかるはずだ。たとえば、東京都健康安全研究センターの調査や、北海道大学の研究者による研究報告から、予想される。
 ところが、国産食品は輸入食品ほど調べられていない。厚労省は調査しておらず、産業振興担当省である農水省の調査は、限られている。自治体も、市民の関心が国産よりも輸入食品に向いているため、輸入食品の検査数が多い。私たちは、国産食品の汚染は、実は把握せずに食べている。

(4)検査数 —「1割しか検査していない」は、タメにする議論

 輸入食品は、国産食品に比べて莫大な予算と人を使って、チェックが行われている。どこの行政組織でも人員削減が続いているのに、輸入検疫に携わる食品衛生監視員だけはこの10年ほど、増え続けている。
 ところが、いくら強化したところで「一部しか検査していないのだから、信じられない」という声が返ってくる。週刊文春でも、3月28日号で食料問題専門家が「そもそも検査が行われるのは、全輸入量の1割程度。だから、残りの9割は検疫をスルーして国内に入ってきます」と言っている。同様の説明が4月11日号にもある。

 これ、輸入食品の記事の決まり文句だが、「タメにする」議論の典型だ。
 検査は、全体の中から一部をサンプリングして行うもの。常に検査は一部で、調べていないところはわからない。9割はスルーというが、検査数を増やして1割を5割、10割としたところで、大方はスルーという実態は、なにもかわらない。検査というのは、そういう性質のものだ。

 だから、どれくらいの量から何kgとればいいのか、何箱調べれば、全体を反映した状況をとらえることができるのか、統計学的に検討して決められているし、コンテナに詰まっているたくさんの箱のどれを開封するか、厚労省の検疫担当職員は、相当に注意して決めている。
 膨大な件数、量の食品だから、メリハリが重要。通常のモニタリング検査で、ある国の特定の品目に複数回の違反があると、その品目は「命令検査」に移行する。そうなれば、輸入する時には必ず検査を受けなければならず、サンプリングは厚労省職員が行うが、検査費用は輸入者が負担しなければならない。しかも、命令検査の対象品目は、結果が出て問題がないと判明するまでは、流通させてはいけないことになっている。
 こうやって、違反の蓋然性の大きさに応じて対応を変えて輸入検疫は行われている。

 検査数を増やせばコストが上昇する。検査のためにサンプリングした食品はもう食べられないし、開封されサンプリングされた後に箱に残った食品は、もう販売には回せない場合も多い。廃棄したり、フードバンクに回るケースもあるそうだ。
 そもそも、検査は調べたものの結果しか見えて来ない。水産物の大腸菌群を調べれば大腸菌群の結果はわかるが、重金属汚染など別の項目はわからない。その水産物のトータルでの安全性を確保できているかどうかは不明のまま。検査をやみくもに増やすのは、実のところ、効果が少なく古くさい食品安全管理の手法だ。

 現在は、生産の中で危害が発生するポイントを把握しそのリスク封じ込めて行く「生産工程管理」が重視されている。検査は、生産工程管理がしっかりと行われていることを確認するための手段、という位置づけだ。したがって、厚労省の輸入検疫でも、必要に応じた現地調査や、二国間協議の重要性が年々高まっているという。生産工程をチェックして、汚染などが発生しそうなポイントを見つけて改善を促す。そうした対策が食品の安全性を大きく左右する。

 だが、週刊文春の記事は、検査をするかしないかにこだわるうえに、企業が中国国内で自主的にやる検査と、厚労省の輸入検疫制度に則して行われる検査を混同する勘違いを犯している。まるでわかっちゃいないのだ。

<長くなったので、続きは明日4月12日に更新します>

⇒ めんどな話になりますが…記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM お役立ちリンク集