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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

“中国猛毒食品”のトリック(下)

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2013年4月12日

(5)ピンとキリの混同—中国国内の“キリ”が日本に輸入される可能性

 中国国内で食品の生産にさまざまな問題が生じている。それは事実である。
 水や土壌の汚染が深刻な地域があり、偽装、不正も多い。2008年に起きた牛乳に窒素分の含有量を上げるための化学物質メラミンが混ぜられていた事件は衝撃的だった。どんな成分が入っているかわからない農薬がよく売られている、というような話も、中国に駐在している企業社員からしばしば聞く。最近では、たくさんの豚の死骸が川を流れてきた、と報じられている。

 日本が戦後、公害事件などを引き起こしながらたどってきた60年あまりの道のりを、中国は15年ほどで追いついてきた。日本で過去に起きた水俣病問題や森永ヒ素ミルク事件、カネミ油症事件、大規模な食中毒事故、数々の偽装事件などを思い浮かべて中国を見ると、ぎゅっと凝縮されて今、あの国が動いていることがよくわかる。

 たしかに、劣悪な食品も相当数あるだろう。だが、それが日本に輸入されているか、というと、まったく別の問題である。今、中国で日本向け食品を製造したり加工したりしている日系企業や日中の合弁企業などの安全管理のレベルはすさまじく高い。多くが、生産者を囲い込み、土壌や水の分析を行って問題がないことを確認し、指導や監視を行いながら作る。加工工程でも、たくさんの監視カメラが付いた衛生的な工場で作業し要所要所で検査も行う。そして、厳重に封をして輸出する。
 中国国内だから、中国の国内の法律を守って製造すればよいのだが、それでは日本の法律をクリアできない。したがって、日本の農薬取締法や食品衛生法等を守って作ってもらう。私は、中国の地面や海水面と労働力を借りて、“国産食品”を作っているのに等しい、と考えている。

 日本企業が今、輸入していた中国産食品でなにか事件や事故を起こしてしまったら、それは企業として命取りにもなりかねない。だから、日本企業は管理に必死なのだ。10年前は、中国の市場で買い付けたものを輸入したり、原材料として使ったり、というようなことがたしかにあった。しかし、それでは食品の大もとの出所は不明で、企業としてリスクが大きすぎる。だから、冷凍ホウレンソウから相次いで残留農薬が見つかる事件が起こり、違反事例も多かったのだ。

 したがって今は、農場や漁場から、日本の消費者に届けるまでトレーサビリティを確保し、管理する。日本企業が、自らの信用を守るために必死で努力しているのが、中国産食品の多くの実態である。
 そのことは、ネット上でもさまざまな形で見ることができる。

味の素冷凍食品の塩ゆでえだまめ

輸入冷凍野菜品質安全協議会

 ところが、週刊文春が書いているのは、中国の一般的な状況だ。「川の上流から豚が流れてきた」「病死した豚肉を食品に加工している」といくらリポートしても、それが日本に結びつく根拠がない。「可能性がある」「入って来ないという保証はない」という記述の連続なのだ。

 よく読めばわかるのだが、日本向けの食品を作ったり輸入したりしている当事者が、自分の問題として直面したトラブルを明らかにしているわけではない。4月11日号では、日本の商社の経営者の話が出てくるが、それも自分の話ではなく、他社の取引相手の冷凍工場がずさんだったという、かなり奇妙なエピソードをしゃべっているだけである。

 中国の食品の品質、安全性はピンからキリまで。その中のピンが、日本に輸入されている中国産のかなりの割合を占める。だからこそ、輸入検疫における中国産の違反率は低い。
 厚労省の輸入検疫だけでなく、自治体や日本の流通企業、生協などもこぞって輸入食品、とくに中国産食品には目を光らせている。そして、どの検査でもほかの国に比べて中国の違反率が高い、という状況にはない。(東京都の検査結果

 中国産はピンからキリまで。同じように、それを輸入する日本企業もピンからキリまで。キリの日本企業がキリの中国産食品を輸入するケースがない、とは言えない。たとえば日本の路上で売っている上海ガニを買う気になるか、というと、買わない。健康食品も、絶対に手を出してはいけないものだ(厚労省・無承認無許可医薬品情報)。

 私は、学校給食の関係者などから「中国産はどう扱ったらよいのか?」とよく聞かれる。その時に答えるのは、「中国産、というおおざっぱなくくりの判断は、稚拙で、適切なリスク管理につながりません。どこでだれが作り、加工し、だれが輸入したかを、納入業者に尋ねてください。どんな自主検査を行ったか、検査の結果も尋ねてください」ということ。まともな業者なら、そうした質問がくることを想定して、生産工程管理を行い、検査でチェックし、資料を作っている。それをすぐに出して持って来て説明するような輸入業者、納入業者であるのかないのか。そこが判断のポイントだ。

 中国産食品批判のキャンペーンは数年おきに行われる。ここまで挙げてきたトリックが毎回使われる。同じことをするから、食品関係者は「進歩がないなあ。マスコミ、レベル低すぎるよ」とぼやきながら、消費者の問い合わせ対応に追われることになる。
 この10年あまりで、日本の食品のリスク管理は、検査主義から生産工程管理へと移行し、大企業を中心にレベルが飛躍的に上がった。食品安全委員会ができたのが2003年。厚労省や農水省のリスク管理も格段に強化された。対中国でも苦心している。
 なのに、マスメディアは十年一日のごとく、同じことの繰り返し。しかも、前々回書いたように、生のジビエ料理を紹介しながらの中国産批判なのだ。

 週刊文春は、4月18日号では、鶏肉の輸入を問題視しているが、「鶏肉自体は問題なくても、その加工品に付着してウイルスが国内に入ってくる可能性があるのです」「H7N9ウイルスが蔓延した工場で、日本向け鶏肉が加工されていても不思議ではない」「加熱処理さえ極めて疑わしい」等々の記述が並ぶだけである。可能性のかけ算の果てにさて、なにがある? なのに、記事のタイトルは「鳥インフルは日本に上陸している!」である。

 だが、その一方で、日本の企業は、本音を言えばもうあまり、中国から輸入したくないだろう。ピンからキリまでの激変の国、賄賂も横行しなにが起きるかわからない国で、ピンづくりのための管理をするのは容易ではなく、コストがかかる。多くの企業が現地に社員を常駐させ、頻繁に農場や工場を見て回り、指導や監視をしている。
 そんな努力をして、高品質の食品を作って輸入しても、消費者に嫌われてしまう。それが中国産。そんなものを好んで取り扱いたい企業など、ない。しかも人件費が高騰し、中国で生産してもらい輸入するメリットが薄くなっている。

 だから、ほかの国を常に探している。あの国はどうか、この国はどうか。そんな話をしばしば聞く。2007年から08年にかけておきた中国製冷凍餃子事件で、食品の安全・衛生管理だけでなく、犯罪リスクも相当に高い、ということになり、消費者の忌避感も強まって、中国から撤退した企業もあった。

 しかし、輸入を止めなかった企業も多かった。止めなかった、ではなく、止められない。ほかの国よりは、これまで関係を構築してきた中国の方がまだマシだ、という判断があるのだ。
 その「ほかの国」の中にはもちろん、日本国内も入っている。でも、とくに加工食品においては、国産は原料として使いにくい。価格が高い/同じ規格で大量のロットを揃えられない/労働者の高齢化/設備の老朽化/高齢化や老朽化に伴う安全・品質レベルの停滞、低下——。国内は悪循環に陥っている。
 これについては、また別の機会に書きたい。週刊文春はおそらく、中国猛毒食品の処方箋として、「国産は素晴らしい」と書きたてるだろうから。

 週刊文春だけでなく、AERAも4月はじめから、食品企業にアンケートを送って中国産の原材料をどの程度、使用しているのか、調べている。こちらもまた、「危ない中国産」になるのだろうか? アンケートの項目を企業に見せてもらったが、リスクの蓋然性に見合った質問など、まったくない。もう少し、厚労省の監視統計を見てお勉強なさったらよいのではないでしょうか、という代物だった。

 それに、アンケートに答えるような有名どころの大企業は、前述の通り、企業防衛として、ほかの国に移せるものは移し、中国でなければならない食品だけを厳重に管理して製造している。そんなところにアンケートをとったところで、「管理しています」と同じような答えが並ぶだけだろう。
 問題は、アンケートの対象とならないような中小企業。中国のレベルの低い食品を排除できない、キリの日本企業なのだ。

 そういう観点から見た時に、実は最近、中国産食品の中に、気になるものがある。もしかすると、これは将来、大きな綻びになるかもしれないという予兆のような違反が見られる。十把一絡げで「中国猛毒食品」では、なんの実効性もないから、ポイントをきちんと整理して問題にしたい。改善を求めたい。次回、最近気になる中国産食品の真の問題について、検討する。

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