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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

中国産、気になる三つの違反事例

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2013年5月10日

 中国の公安当局が、ネズミの肉を羊肉と偽ったり病気で死んだ家畜の肉を横流ししたりするなどした容疑で、3000人あまりを逮捕したという。中国メディアが伝え、それを共同通信など日本のメディアも伝えている。その後、上海市が会見したそうで、人民日報が報じたという(インサイトチャイナ記事)。たしかに、中国の食品は、容易ならざる事態に陥っているように見える。

 だからといって、日本に入ってくる中国産食品が危ない、ということにはならない。そのことは、前回書いた。
 安全性や品質に問題のある中国産食品が日本向けの食品に混じらないように、メーカーや商社、生協等は、生産工程管理における指導を強化したり、検査数を増やしたりしている。
 さらに、厚労省が輸入検疫を行い、それを通過して国内で流通する食品についても、自治体が収去検査をし、取り扱うスーパーマーケットなども自主検査をしている。

鳥インフルエンザは「食の安全」とは関係ないが…

 鳥インフルエンザ対策も強化されたという。食の安全問題とは異なるのだが、中国から輸入される加熱済みの鶏肉調整品が、しっかりと加熱されているか生のものがまぎれこんでいないか、農水省動物検疫所は、全ロットからサンプリングして解凍検査して加熱状況の確認をしている。
 これは、鳥インフルエンザの感染拡大防止のため。肉を食べて感染した例は確認されておらず、安全性の問題ではない。だが、ウイルスが鶏肉に付き輸入されて日本の環境に広がらないとも限らない。したがって、鳥インフルエンザの発生国からは、加熱済みの調製品でないと輸入できないことになっている。それがしっかりと実行されているかどうかを、調べるのだ。
 動物検疫所は、中国の鳥インフルエンザ発生地域の施設から輸入されるものについては、念のための措置としてサンプリングして解凍する数を増やして調べているという。

 国の機関でさえもこうなのだから、民間の企業の努力はすさまじい。でもそれを明らかにすると「そんなに監視して検査しなければならないほど危険なのか」と要らぬ不安を産んでしまう。だから、情報を明らかにしないと、マスメディアにたたかれる。情報隠しだ、と消費者から非難される。消費者意識のジレンマに苛まれながら、企業は苦闘している。

 ともかく、こうして、何層もの“フィルター”がかかって、前回、前々回で説明したように、日本向けの中国産食品の安全性が比較的高く保たれているのが実態だ、と私は思う。

合成抗菌剤エンロフロキサシン

 だが、最近、気になる違反事例がいくつか出てきたのも事実だ。
 一つは、水産物の合成抗菌剤の残留が、比較的高濃度で見つかっていること。横浜市保健所が発表した厚労省の輸入検疫で、鮮魚のイシモチから合成抗菌剤エンロフロキサシン1.44ppmが検出されたという。

 食品衛生法では、合成抗菌剤は含有してはならないことになっている。エンロフロキサンシンは、犬猫や牛、豚、鶏に投与される動物用医薬品だが、一日摂取許容量(ADI)は0.002mg/kg体重。体重50kgの人であれば、一生涯、毎日0.1mgを食べ続けても健康影響はない、ということだ。このイシモチを100g食べて摂取する量は144μg=0.144mgなので、ADIは超えてしまうけれど、毎日食べるのでなければまあ、現実には問題のない数字である。

 抗生物質、合成抗菌剤全般が「含有してはならない」と決まっているのは、使用量が増えると耐性菌が出現、増殖するリスクが高まることを踏まえて、むやみに使用されることがないようにするため(厚労省Q&Aより)。危険だから「含有してはならない」と決まっているわけではない。 だから、「エンロフロキサシンが高濃度で検出されたから危険」という週刊誌ふうの話にはならない。

 だが、気になる。それは、これまでエンロフロキサシンの違反事例はあっても、近年はほとんどが0.1ppmを下回る残留しか検出されていなかったためだ。こういうものを調べる時の力強い味方が、フジテレビ商品研究所の「残留農薬データベース」。この中で、エンロフロキサシンを調べると、、エビが命令検査対象となっていることもあり、ベトナム産のエビの違反事例が多い。中国産を探すと、スッポン、ウナギ、ウシガエルが出てくるけれど、数は少なくしかも検出数値も近年は非常に低い。ところが、今回のイシモチは、突出して数値が高いのだ。
 なにか生産現場で起きている、と思わざるを得ない。
 それに、日本側の輸入者は以前にも中国産をめぐる食品衛生法違反に問われたことがある。中国側、日本側双方ともに、引っ掛かりを覚える事例だ。

ウナギから検出されたマラカイトグリーン

 同じようなことが、ウナギの合成抗菌剤、マラカイトグリーン残留でも見られる。さいたま市保健所が今年2月に、市中で流通していた中国産ウナギ蒲焼きを買い取り検査して見つけた。マラカイトグリーンが、4.7ppm検出されたという。

 マラカイトグリーンも合成抗菌剤なので、食品中に含有してはならないとされている。しかも、食品安全委員会の評価で、人への発がん性を示す明確な根拠はないが、げっ歯類の試験により遺伝毒性を否定できないとして、「ADIを設定することは適当ではない」とされている。
 日本では、観賞魚の白点病、水カビ病、尾ぐされ症状などに、動物用医薬品として用いることが許されている。しかし、養殖魚への使用は禁止されている。食品安全委員会の資料によれば、中国では2002年にはすべての食用動物への使用が禁止されている。

 だが、実際にはこれも検出事例が続いていた。中国産のウナギのマラカイトグリーン残留は命令検査の対象であり、輸入時に全届け出について検査を行い、合格しなければ輸入・流通を認められない。
 フジテレビ総合研究所のデータベースで調べると、違反は年に数件は見つかっている。ただし、検出数値は多くが0.01ppm未満だった。

 ところが今回、突如として4.7ppmというとんでもなく高い数値が出た。しかも、ほとんどはロイコマラカイトグリーンだったという。マラカイトグリーンが生体内で代謝されるとロイコマラカイトグリーンになる。つまりは、生きている状態、生産段階でマラカイトグリーンが使われていた可能性が高い。

 さいたま市と同様に中央区も、マラカイトグリーンを検出し、販売禁止命令を出している。さいたま市と中央区のウナギ蒲焼きは、2012年5月23日に輸入届け出されたもので、計72トンが輸入され、40トンが在庫として残っていたという。(中央区公表資料)。
 厚労省は、この蒲焼き工場のほかのロット製品も調べるように自治体に通知したが、それらの検査ではマラカイトグリーンは検出されなかったそうだ。

 マラカイトグリーンを観賞魚の病気の治療に用いる場合、水槽に溶かし込んで薬浴させる。その時の濃度は0.1ppmを下回るもののようだ。それに比べて、今回付いていたマラカイトグリーンはとてつもなく多い。「養殖池で、使用方法がよくわからないまま、だれか生産者が使ったんだろう」と推測する人もいる。しかし、原因はわからぬままだ。

 中国産ウナギのマラカイトグリーンは命令検査の対象なので、養殖池ごとに一つのロットにまとめて輸入し、必ず検査することが決まっている。だが、その輸入検疫をすり抜けて、市中に出てしまった。マラカイトグリーンは、発がん性の懸念があるとはいえ、ウナギは山のように食べるものではないので、摂取量としてはたかが知れている。それに、ウナギの養殖は以前に比べればずいぶんと改善された。おそらく、輸入検疫が強化される以前には、もっと高い残留量のウナギも、私たち消費者は口にしていたはずだ。
 リスクとしてはたいしたことはない。とはいえ、中国での生産工程管理を完全には制御できない、という当たり前の事実を、突きつけられている。

 ちなみに、今回のウナギを輸入した業者は、「日本鰻輸入組合」の会員ではないという。同組合は、輸入ウナギの安全性と品質を上げるべくさまざまな取り組みをしていることで有名だが、やっぱり外れてしまう業者が日本側にいるのだ。

ウーロン茶から検出された農薬フィプロニル

 もう一つ、農産品の事例もある。昨年11月、ウーロン茶ティーパックから残留基準を超える農薬フィプロニルが検出され、たくさんの製品が回収されたのは、多くの方の記憶に新しいところだろう。
 Foocom.netでは、斎藤勲さんが「中国産ウーロン茶農薬基準超過の検査内容」を、事務局の森田満樹が「もったいない!ウーロン茶葉の自主回収」を書いている。

 こちらも、飲んでのリスクは事実上ない。しかし、最初は生協による自主検査で見つかった基準超えが、それだけに留まらず、別の業者、別の産地の茶葉を使ったティーバッグでも見つかり、ついには厚労省の検査命令に至ったという経緯には、注目するべきだろう。

 つまり、特定の生産者や製茶業者による生産工程管理ミスや違反、ではない。フィプロニルは、中国では既に使用が認められていない農薬だが、中国で売られている農薬を分析すると、フィプロニルを含有するものがあるという。したがって、「やっぱり、この農薬が使われているお茶もあるのだろう」と、関係者は言う。

 今回、違反が見つかったのは、ウーロン茶の中でも高級品ではなく、粉茶である。価格が安いものなので、茶園→荒茶工場→仕上げ工場→輸出という流れで、ほかの中国国内向けのお茶などと完全に隔離して作業するのは容易ではない。
 私が取材する限り、相当なコストをかけて生産工程管理を行い、日本からも年に何度も通って指導し、中国の検査機関でも日本の検査機関でも検査を行ってきたような輸入業者でも、残留基準超過が見つかり回収を余儀なくされた。調べても原因を突き止められない、という話を、複数の業者から聞いた。

 さて、この三つの事例をどう考えるか。
 どれも、冷凍餃子事件のような健康被害をもたらすようなものではない。しかし、中国での生産がやっぱり今も、一筋縄ではいかないことを感じさせる。

 一方で、中国なくして日本の食は成り立たないという現実が、厳然としてある。輸入届け出数の3割を占めるのが中国である。中国産を排斥したところで、実態として意味がない。気付かぬうちに外食で、中食で、さまざまな加工品で私たちは中国産食品を食べている。
 私たちの食を守るのは、中国産を罵倒排斥してご満悦の週刊誌や、排斥したつもりになっている外食業者などではない。さまざまな事例から多くの情報を読み取り、指導や監視、検査などを改善しようとしている日本企業や自治体、輸入検疫などの担当者ではないか。

 中国の生産現場の動きを早く読み取ろうと、日本の多くのまともな食品企業や輸入商社などは必死である。ウーロン茶の問題では、日本の某大飲料メーカーは、2009年、10年の段階で中国での市場調査を行い、フィプロニルが使われるリスクを読み取って契約栽培茶園を絞り込んだそうだ。当然、コストがかかる。しかし、そのメーカーの製品では、違反は出なかった。

 そうやって、対処しないといけない。前回書いたように、中国を止めて逃げ場がある、というのは錯覚に過ぎない、と思う。国産のウナギは高くてとても手が出ないけれど、中国産なら一家で食べられる。ウーロン茶は、国産では入手できない。どちらも、現実である。だからこそ、日本側の輸入関係者、商社やメーカー、生協、行政などの力量が問われるのだ。結局、中国と正面から付き合うしか、方法はない。

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