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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

そもそも、効くサプリはあるのか?

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2013年5月24日

 内閣総理大臣の諮問機関「規制改革会議」が、いわゆる健康食品の有効性(機能性)の表示規制を緩和しようと検討している。この問題点について、特集「規制改革会議、サプリ論議は迷走中」でまとめた。

 私は基本的には、規制緩和による民間活力の喚起には賛成派で、国による規制を極力減らしたい、と考えるタイプだ。だが、今回のように密室審議で、市民がどのような内容なのかを知らないまま、重要な議論が進むことには賛成できない。
 それに、規制緩和は企業の自由度を上げビジネスチャンスを広げる反面、企業の自己責任がより大きくなる。健康食品業界の昨今の動きを見て、この後者の「責任の拡大」を意識している企業がどれほどあるか、と考えた時、懐疑心を抑えられない。昨今の健康食品、なにが問題なのか。事例を挙げたい。

● 抗酸化物質の効果に、疑念高まる

 一番重要な動きは、抗酸化物質への疑念が大きく高まっていることだろう。これまでは、フリーラジカル、とくに活性酸素の一種であるスーパーオキシドやヒドロキシルラジカルが細胞を損傷し老化をもたらすので、抗酸化物質を摂取して、その抗酸化力によりフリーラジカルを非活性化しようと言われてきた。だが、前提となるフリーラジカルの悪影響が、疑われるようになってきている。

 フリーラジカルはすべての状況において悪者ではなく、健康を保つための一定の機能も持っているのではないか、というのだ。論文はかなり多く出ており、「Scientific American」が2013年2月号で「The Myth of Antioxidants」という記事でまとめている(日経サイエンス6月号で「覆る活性酸素悪玉説」というタイトルで翻訳されている)。

 実際に、β—カロテンの投与試験で、喫煙者のリスクが大きく上がったという試験結果は有名だし、多数の臨床試験のシステマティックレビューでも、抗酸化物質サプリメントが死亡率リスクを下げず、むしろ上げるものもあることが明らかとなっている。

 そのため、学会等でも抗酸化物質サプリに対して、明確に「勧めない」と表明しているところは多い。米国心臓協会は、ビタミンとミネラルのサプリメントについて、ごく一部の例外を除いて勧めない、としている。UCバークレーが開設している「Berkeley Wellness」というサイトでも、数々の抗酸化物質サプリの効果に根拠がないことが、説明されている。
 どちらも勧めるのは、バランスのとれた食事の中で、野菜全般や魚などを積極的にとることだ。

●抗酸化力の「モノサシ」も役立たない

 しかも、抗酸化力評価の指標として用いられて、米農務省がウェブサイトにデータベースを作っていることから信頼性も高かった「ORAC値」(Oxygen Radical Absorbance Capacity:活性酸素吸収能力)について、同省は昨年、データベースを取り下げた(米農務省説明)。ORAC値は、食品試料を用いて、フリーラジカルの捕捉能力を調べて得られる数値だが、要するに、食品自体を調べるORAC値では、食べた時の人への健康影響など計れず、モノサシとはならない、ということだ。
 米国では、このORAC値を抗酸化の根拠として販売していたサプリメントが多かったが、根本から否定された。

 私も、食品の機能性研究の第一人者と目される研究者からこのORAC値について「こうした指標を用いれば、機能性食品の開発や摂取も容易になる」という説明を数年前に受けたことがあるので、USDAの取り消しの発表を見て、「あれはいったいなんだったのだろう?」と思ったものだ。

● サプリ、「いわゆる健康食品」のエビデンスは?

 長年の研究実績があったビタミン類でさえ、やっと今、確かなこと、つまりは「効果がないかも」「リスクが上がるかも」ということが分かってきたのだ。ビタミン類に比べれば研究の質も量も圧倒的に低いほかの抗酸化物質は、大丈夫なのか?

 抗酸化物質だけでなく、ほかの機能性を期待される物質のエビデンスはどうなのか? しっかりとしたエビデンスがあるのなら、企業が表示して売りたい、と考えるのは理がある。でも、いわゆる健康食品の中のエース格であった抗酸化物質ですら、怪しいのだ。本当にエビデンスを持つ健康食品がほかにあるのか? あるなら現状でいくつくらい?

 こうした基礎情報が前提にあって、制度は作られるべきではないか。ところが、規制改革会議では顧みられず、実情にそぐわない制度を議論しているように見える。坂戸市の葉酸プロジェクトが好例として紹介されているが、科学的に大きな誤認があることは、特集欄で解説した。

● 業界への不信高まる

 おおいに引っ掛かるのは、業界の姿勢だ。特集で書いたとおり、自分たちに都合の良い情報しか規制改革会議で提供していないように見える。
 かれらの姿勢の一端が垣間みられるのが、消費者庁が2012年4月に公表した「食品の機能性評価モデル事業」。この事業を受託し報告書をまとめたのは、業界団体の「日本健康・栄養食品協会」だ。オメガ3脂肪酸やルテイン、グルコサミンなど11成分にかんする情報を収集し、AからFまで判定しているのだが、この内容、至るところでけちょんけちょんに批判されている。

 公になっているものでは、清水俊雄・名古屋文理大教授の見解がある。清水教授は消費者委員会で、評価の材料として取り入れてはいけない論文を含めて評価してしまっていることや、検索担当を健康食品に関連する企業の社員が行っていて適格性がないことなど、厳しく指摘している(清水教授資料議事録

 日本の業界団体はこのレベルなのか? この業界団体が、規制改革会議では新制度での機能表示拡大と第三者認証まで提案しているのだ。彼らは、新制度になれば機能表示をできる。つまりビジネスチャンスが広がる。だが、規制緩和に伴う自らの責任の増大を、意識しているだろうか?

● まじめな企業が出てきているような気がするが

 実は、これまで書いたことと裏腹のようだが、いわゆる健康食品をもっとエビデンスのしっかりとある、消費者に真の利益をもたらすものに変えて行こうと努力する企業が出てきている、と個人的には思える。

 今日5月16日、「ifia Japan2013」の一環として、日本アントシアニン研究会の第2回セミナーが開かれた。アントシアニンの研究者や企業などが一同に介して情報交換し、よりよい製品開発や販売、消費者との情報共有に努めて行こうという団体だ。
私は、第1回の研究会に招かれた。遠慮なく率直に発言してほしいと言われ、「こんなにヒトでのエビデンスが少ないのに、売っているのか」と、言いたい放題した。

 規制改革会議の議論を受けて、もしかしたら関係者は浮き足立っているのでは、なんてことを思いながら第2回研究会を聞きに行ったが、けっしてそんなことはなかった。慶応義塾大学の眼科学教室の専任講師が「ルテインは、加齢黄斑変性についての大規模な臨床研究が行われている。エビデンスがある。だから、患者にサプリメントもありますよ、と言うことができる。でも、アントシアニンは言えない。アントシアニンは情報が少なく、エビデンスが違うからです」とはっきり説明した。

 こういう、耳に痛い話をする講師を研究会に招く、というのは研究会の方々が本気でよいものを、と思っているからだと思う。会長の矢澤一良・東洋海洋大学特任教授も繰り返し「エビデンスがまったく足りない。もっと研究させねば」と述べた。協力企業の社員も、アントシアニンの臨床研究を進めていることを説明し、プラセボ効果が大きいことなども率直に語った。

 機能性を表示できるかできないか、の前に、「ヒトに機能性がある本当によいものであり、安全性、品質が確保されている製品を売らないと、消費者の利益にはつながらない」というコンセンサスは、研究会ではできつつあるのではないか、と感じられた。
 もちろん、「ならばなぜ、今、眼にいいと暗に言ってアントシアニンのサプリを売っているのか」という批判は当然出るだろう。現状のビジネスを急には止められない。でも、今のままではいいとは決して思えない。そんな企業や社員が出てきている、というのが私の感触である。

 抗酸化物質が否定されているから、すべてのいわゆる健康食品、サプリもダメ、ではない。今後、本当に機能性を発揮できる成分、製品が確立されるかもしれない。そのような研究の芽を摘んではならないし、エビデンスのある産業育成を常に視野に入れるべきだ。
 業界に対して不信と、頑張ってほしいという気持ちの両方が私にはある。だからこそ、やっと自ら変わろうとし始めた業界が、規制改革会議主導の新制度、しかも第三者認証のような方式によって、おかしな形でスポイルされてしまうのでは、という不安が先に立つ。

● まずは、現行制度の改善を

 規制改革会議の大きなポイントは、国際的整合性らしい。消費者庁の資料がわかりやすいが、米国やEUで公的に表示を認められているものの多くは、日本の栄養機能食品と特定保健用食品(トクホ)でカバーされている。だが、米国やEUで認められていて日本で表示が認められていないものも一部あり、逆に、日本のトクホの中にも、とくにEUで機能表示を認められていないものが目立つ。ならば、現行のトクホや栄養機能食品の制度を改善し、審査基準を改め拡充や整理を図るのが先決ではないか。

 規制改革会議は規制緩和がテーマだが、私が見る限り、健康食品に関しては米国もEUも逆に、公的関与を急速に強めている。とくに、米国は緩めて、政府機関の許可や審査がなくても、企業が効果を表示できるよう仕組みを作ったために問題が続出し、近年は制度変革を迫られているように見える(この点については、特集3の記事「問題が露呈している米国の制度をなぜ真似る?」で詳しく説明している)。悪しき規制緩和に倣う必要はないはずだ。

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