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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

オレゴン州で見つかった未承認の遺伝子組換え小麦

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2013年6月14日

 米国オレゴン州で、未承認の遺伝子組換え小麦が畑で生えているのが見つかったと5月末に公表され、騒ぎとなっている。日本でも報道されているのだが、日米共に、ポイントを押さえていないのでは、と思われる報道がちらほら。簡単に解説しておこう。

●未承認だが、FDAが食品・飼料としての安全性を確認ずみ

 生えていたのは、米モンサント社が開発し、1998年から2005年にかけて16州、100カ所以上のフィールドで栽培試験が行われた除草剤耐性小麦(MON71800)だ。オレゴン州の農家が、農場の休耕地に生えている小麦が除草剤グリホサートをかけても枯れないことに気付き、サンプルをオレゴン州立大に送った。4月末に受け取った研究者のテストで、除草剤耐性のトレイト(形質)であることが判明し、すぐに米農務省(USDA)に連絡した。USDAは、正式な検査をして確認すると共に、生えているのが見つかった農場で、今後の検証に必要なサンプルを採取し、5月29日に公表した。
 USDAがプレスリリース、Q&Aなどで詳しく説明している
 USDAやモンサント社などが米国各州で調査しているが、現在のところ、ほかでは組換え小麦は見つかっていない。

 世界的に見ても、遺伝子組換え小麦はまだまったく、商用化されていない。オレゴン州の一農場以外では見つかっていない、と聞いても、不安を持つ人は多いだろう。だが、この小麦に関しては、食用や飼料としての利用における安全性について、2004年の段階で米食品医薬品局(FDA)がvoluntary consultation(自主的協議)を終え、「非組換え小麦と同等に安全」と結論付けている。voluntary consultationという名目とはなっているが、これは事実上、FDAによる安全性審査である。
 この除草剤耐性遺伝子を導入した遺伝子組換え作物は、トウモロコシ、ワタ、ナタネ等数多くあり、問題は起きていない。そのことからも、食品や飼料として安全上の問題が浮上するとは考えにくい。

 そうはいっても、未承認の組換え作物が野外に生えていた、というのは、規制の網が大きくほころびていたことを意味する。USDAもプレスリリースで、非常に深刻な状況であると認めており、調査チームを拡大して原因を調べている。

●妨害工作の可能性も視野に

 ただし、謎の解明はどうも容易ではないらしい。そもそも、モンサント社の遺伝子組換え小麦開発の経緯は少々複雑だ。同社のGM小麦というページによれば、同社はほかの作物と同様に遺伝子組換え小麦の開発を進め、98年から栽培試験を行った。2004年には前述のように、食品・飼料としての安全性についてもクリアした。

 だが、飼料としての利用が核となるトウモロコシや大豆と違い、食卓に上がる食品となる小麦は消費者や食品業界の抵抗が強く、商業化のメリットがその時点では薄いとみられた。そこで、同社は2004年、一時的に研究開発パイプラインから小麦を外すことを決断。栽培試験を終えた除草剤耐性小麦もお蔵入りとなった。

 その後、2009年に同社は小麦の育種が得意な種苗メーカーを買収し、組換え小麦の開発を再開。ただし、干ばつ耐性や害虫抵抗性など新たな開発を目標に掲げた。その後も、着々と研究を進めていた時に突然、はるか昔の小麦が野外に現れたのだ。

 まず思いつくのは、「試験栽培した後の始末が悪く、刈り残したのだろう」ということ。だが、同社によれば、この可能性はない。オレゴン州で栽培試験が行われたのは春撒き小麦で2001年に試験は終了している。ところが、今回見つかったのは冬撒き小麦なのだ。
 小麦は自家受粉する自殖性が強く、花粉も長い距離を飛ぶことはない。そのため、組換えされていない小麦に、ほかの地域で栽培された遺伝子組換え小麦の花粉が飛んできて受粉して除草剤耐性を持つ、というようなストーリーも、可能性はほぼない。
 同社は、妨害工作の可能性も視野に入れつつ、あらゆる角度から調査を進めている、と説明している。

●小麦の販売、輸出に影響

 公表されてからもうすぐ半月。原因が解明されないことから、米国では、小麦の販売や輸出への大きな影響が懸念されている。複数の小麦農家やこれまで遺伝子組換え技術に反対してきた市民団体が、同社に対して損害賠償を求める集団訴訟を起こした。
 日本でも、未承認の小麦の輸入を防ぐため、農林水産省がオレゴン州で生産された小麦を政府の買い入れ対象から外すと決め、5月30日に予定していた米国とカナダの小麦計14万2000トンのうち約2万5000トンと飼料用小麦の入札を取りやめたという。

 オレゴン農業を紹介するAGRI-BUSINESS COUNCIL OF OREGONの小麦紹介のページによれば、同州では主に「ソフトホワイト小麦」という種類が栽培されており、85%以上が輸出用。この種類の小麦は、ペストリーやケーキ、クッキーや麺類などに加工されている。

 遺伝子組換え作物に常日頃から反対している日本消費者連盟はさっそく、「アメリカからの小麦輸入全面停止を求めます」とする要請書を農水省に出した。
 だが、それは無理。農水省の見込む今年度の食糧用小麦の年間需要量は約571万t。うち489万tが外国産。そして、そのうちの約6割が米国産だ。飼料用小麦も、年間に約90万tが輸入され、約3割を米国産が占める。これらをストップすることはできない。(農水省の麦の需給と価格について飼料のページ参照を)

 今のところ、未承認組換え小麦は米国でもどこの国でも、流通している小麦への混入は認められていない。仮に見つかった場合、USDAはLLP( low level presence)ポリシーに基づいて対策を講じると明らかにしている。
 組換え作物は各国がリスク評価をして承認したうえで商用化されることになっているが、国ごとにリスク評価を行うため、国家間で承認時期にずれが生じることが懸念されている。現在は、米国での研究開発が多いが、今後は他国、開発途上国での新品種開発も活発になるとみられる。そうなると、他国では承認されているが、米国ではまだ承認されていない、というような作物が微量混入して米国に輸入されるというケースも想定しうる。そうした場合には、LLPポリシーを適用しその作物のリスクに応じた対策を講じるのだ。

 今回の場合、想定していた未承認とはケースが異なるものの、同様にリスクに応じた検討がなされる。FDAが非組換えと同等に安全であると認めているため、仮にこの未承認組換え小麦の微量混入が見つかったとしても、小麦の流通をストップするようなことはしない、というのが現在のUSDAの見解である。

 日本では、飼料に関しては未承認組換え作物の規定がある。米国のような「我が国と同等又はそれ以上の水準の安全性に関する審査の制度を有する」国で承認されているものの、日本では未承認の作物については、混入率が1%以内であればそのまま流通を認める。(通知告示を参照)

 今回の場合、まずは調査ということになるが、FDAが食用・飼料としての安全性を確認していることから、この規定が適用され、混入率が1%以内であれば問題はない。飼料はこれまで数件、未承認の問題が起きており、日本でも既に、リスクの大きさに応じた冷静な対処法が定められているのだ。

 一方、日本は食用としての利用については、未承認の組換え作物の微量混入問題を棚上げにしてきてしまった。多くの科学者が「このままではまずい」と懸念していたのだが、そのツケが今回、回ってくるのかどうか? 今後、USDAやモンサント社などによる原因究明、日本の農水省がどのように対処するのか等々、注視して行く必要がある。

<注>
 同社の2004年の遺伝子組換え小麦開発延期の経緯については、Foocom.netで「GMOワールドII」を連載中の宗谷敏さんが、日経BP Food Scienceに連載していた「GMOワールド」で『「バイテクの支配者」は交代するか~モンサントとシンジェンタ』と題して解説している。また、EUで検討中のLLPについても、何度か取り上げている

 さらに、「農と食の周辺情報」を連載中の白井洋一さんも、独立行政法人農業環境技術研究所在籍中に、「GMO情報: 小麦のゆくえ、2020年に組換え品種登場予定」で、小麦の開発動向について詳細解説を行っているので、ぜひお読みいただきたい。

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