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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

DHA、EPAのうつ改善効果に疑問? 規制改革と発表バイアスを考える

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2013年6月27日

 規制改革会議が6月5日、「規制改革に関する答申 ~経済再生への突破口~」を出し、健康食品の機能性表示を可能とする仕組みの整備を求めた。
 さらに、安倍晋三総理も「成長戦略第3弾スピーチ」を行った

 安倍総理のスピーチは、かなり思い切った内容だ。健康食品に触れた部分をそのまま抜粋しよう。

 健康食品の機能性表示を、解禁いたします。国民が自らの健康を自ら守る。そのためには、適確な情報が提供されなければならない。当然のことです。
現在は、国から「トクホ」の認定を受けなければ、「強い骨をつくる」といった効果を商品に記載できません。お金も、時間も、かかります。とりわけ中小企業・小規模事業者には、チャンスが事実上閉ざされていると言ってもよいでしょう。
 アメリカでは、国の認定を受けていないことをしっかりと明記すれば、商品に機能性表示を行うことができます。国へは事後に届出をするだけでよいのです。
 今回の解禁は、単に、世界と制度をそろえるだけにとどまりません。農産物の海外展開も視野に、諸外国よりも消費者にわかりやすい機能表示を促すような仕組みも検討したいと思います。
 目指すのは、「世界並み」ではありません。むしろ、「世界最先端」です。世界で一番企業が活躍しやすい国の実現。それが安倍内閣の基本方針です。

 結局、機能性の科学的根拠があるのかどうかの検証は企業にお任せ、で売ってもいいよ、ということだ。
 さらに14日、「日本再興戦略」も策定された。こちらにはもっと具体的に書かれている。「米国のダイエタリーサプリメント制度を参考にしつつ、安全性の確保も含めた運用が可能な仕組みとすることを念頭に行う」 としており、「今年度中に検討を開始し、来年度中に結論を得た上で実施する」と明記している。

 だが、参考にするという米国のダイエタリーサプリメント制度に対する批判は強い。AFPニュース「サプリメントの摂取は大半の人で不要、逆効果も 研究」、Wall stree t Jounal「サプリメーカーが語りたがらない10の事実」、Foocom.netの特集記事「問題が露呈している米国の制度をなぜ真似る?」もお読みいただきたい。

 これまで健康効果、機能性を期待されてきた抗酸化物質が、ビタミン類も含めて否定されてきた流れは、本コラムでも書いたとおり。効果の問題だけでなく、いわゆる健康食品の品質はバラバラ、悪質な業者が数多くあり、消費者庁や国民生活センターが注意喚起してきた実情があるのに、日本政府はこんなに安易な方針でよいのだろうか、と思う。

 こう書くと、「まじめな企業は、研究して効果に関するエビデンスを持っている。悪質な企業とごっちゃにしないでくれ」と反論される。だが、その健康効果、本当に確実なものだろうか?

 いや、いや、信じるのは慎重に。そんなふうに思わせる論文が2010年、学術誌「The American Journal of Clinical Nutrition」(米国臨床栄養学会誌)から出ている。「Updated systematic review and meta-analysis of the effects of n−3 long-chain polyunsaturated fatty acids on depressed mood」である。DHAやEPAなど、日本では「オメガ3-脂肪酸」と称されることの多いn-3長鎖不飽和脂肪酸を摂取した場合に、うつ状態の改善や予防効果がみられるとする説がある。そこで、オメガ3-脂肪酸摂取とうつ状態との関連を調べた論文を多数集めて、一括して統計学的解析を行っている。

 具体的には、オメガ3-脂肪酸を摂取するグループと、摂取しないグループを比較する「ランダム化比較試験(RCT)」についての論文の中から、試験の妥当性にかんする一定の判断基準を満たす35の論文(1990年から2009年までに発行)を選び出し、解析している。
 試験によって摂取量や試験参加者数などが異なるが、一括してみることで傾向があらわれている。それは、うつ状態の改善や予防効果が高いという結果が出た試験ほど、参加者数が少なく標準偏差が大きい、つまり信頼度の低い試験である、という事実だ。信頼度の高い試験では、「効果なし」という結果が多い。
 論文のP766、Figure2を見てほしい。横軸が効果であり、縦軸がエフェクトサイズ、つまりは研究の信頼度だ。実に見事に傾向が見えている。筆者は「パブリケーションバイアスがある」と論じている。

 私は、この論文を月刊誌「栄養と料理」2013年6月号の連載「一枚の図からはじめるEBM 佐々木敏がズバリ読む栄養データ」で知った。佐々木先生は、東京大学大学院教授で、日本の栄養疫学の第一人者だ。佐々木先生はこの論文を紹介し、次のように書いている。
 

情報バイアスにはたくさんの種類がありますが、研究者の間で問題になっているのが発表バイアスです。これは、研究者自身や研究資金提供者にとってつごうのよい結果が出た研究が、そうでなかった研究よりも論文にされやすいという現象です。少ない対象者数であらっぽく測ってちょっとやってみたら幸運にもうれしい結果が出た……という研究(?)ほど発表されやすいわけです。一方で、結果が芳しくなかった研究はなかったことにされてしまいます。

 都合の悪い研究結果は陽の目を見にくい、というバイアスは、健康食品だけでなくいろいろな研究で見られ、特に医薬品では大きな問題となっている。健康食品の場合も、研究資金を企業が出すケースが多いだけに、気になる話だ。

 オメガ3-脂肪酸は発表バイアスが明確に出ていて、現時点ではうつ状態の改善や予防に有効である、とは言い難い。オメガ3-脂肪酸について提唱されている健康効果はこれだけではなく、ほかのさまざまな効果にかんする研究がある。だから、この論文だけで「オメガ3-脂肪酸は効かない」などとは言えない。だが、どんな健康食品についても、「効果あり」と言われた時に、「発表バイアスがあるのでは」と疑ってかかってもよいだろう。

 そもそも、オメガ3-脂肪酸は、健康効果をうたわれる数々の成分の中でも、試験研究がビタミン類などと並んで際立って多い、つまりはよく吟味されているものだ。多くの健康食品、サプリメントは、こうしたメタアナリシスをできない。研究数が少なくて無理なのだ。その事実を、消費者はしっかりと把握したうえで、摂るのか摂らないのか、決めた方がいい。

 DHAやEPAとうつ状態改善とを関連づけてサプリメントを販売している大企業のウェブページを見たところ、残念なことにやっぱり、前述の論文で、試験参加者数が少なく信頼度が低いと位置づけられている研究を真っ先に紹介していた。「DHAとEPA摂取により、うつスコアが改善」と、文字が躍る。もし、安倍総理が言うとおりに企業責任で表示解禁となったら、さてどうなることか。適切な情報が企業から消費者に提供されるだろうか。

 いわゆる健康食品の大きな課題として、適切な医療から患者を遠ざけてしまう、という問題も以前から挙げられている(厚労省パンフレット「健康食品の正しい利用法」参照を)。安倍総理のスピーチに、健康食品業界は「これで効果をうたえる」と大喜びだ。でも、表示を見て「それ、ホント?」と疑える力を持つのが「国民が自らの健康を自ら守る」ことにつながるのではないか。だれのための規制改革なのかをずっと考えている。

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