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めんどな話になりますが…|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

アルミニウム、アルツハイマー病との関連はほぼ否定されているのに…

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2013年7月25日

 アルミニウムが多く含まれる食品添加物について、厚生労働省が使用規制を検討すると6月に公表した(厚労省のアルミニウムに関する情報)。それ以来、「アルミ、どうなんですか?」とよく尋ねられるようになった。同時に、「アルツハイマーになっちゃうんですよね」と畳み掛けられる。いやいや、違いますよ、と説明することになる。

 アルミニウムと認知症(アルツハイマー病)との関連はほぼ否定されていると思う。しかし、未だに古い情報が流布され、根強く不安を招いている。それに、新聞の中にも、今回の食品添加物規制に絡んで「アルツハイマー病との関連を指摘する意見もある」などと書くところが出てきた。これではまた誤解を招いてしまう。

 そこで、少し詳しく説明したい。
 わかりやすく、文献をきちんとたどれるようになっているのは、独立行政法人国立健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効情報の中の解説「アルミニウムとアルツハイマー病の関連情報」だ。このサイトは、トップページしかリンクしてはいけないことになっているので、トップページから検索して当該ページに行き着いていただきたい。

 英語であれば、欧州食品安全機関(EFSA)の2008年の報告、それに世界保健機関(WHO)などによる環境保健基準でも、さまざまな学術論文が集められ分析されている。

 これらによれば、1970年代に、透析患者に認知症が発生し薬剤中のアルミニウムが原因ではないかとする説が浮上した。アルツハイマー病患者の脳にアルミニウムが蓄積しているとの報告もあり、また、飲料水中のアルミニウム濃度が高い地域においてアルツハイマー病の発症率が高い、との疫学調査結果も複数出た。このほかの研究結果も合わせて、80年代から90年代にかけて盛んに、アルミニウムがアルツハイマー病の原因であるとの仮説が主張された。

 しかし、透析患者の認知症は、アルツハイマー病とは異なることが明らかとなった。また、飲料水中の濃度とアルツハイマー病との関連については、否定する疫学調査結果も複数あり、見解は一致しない。さらに、代謝メカニズムの研究でも否定的報告があり、胃薬(制酸剤)を飲み、食品からの摂取とは比較にならないくらい多くアルミニウムを摂取していると思われる人たちで、アルツハイマー病のリスク上昇はみられない、という大規模な疫学調査結果も出ている。

 アルツハイマー病との関連においては、アルミニウム製の鍋からの溶出が常に話題になってきたが、溶け出す量は食品から摂取する量に比べればわずか、という研究報告も複数ある。

 こうしたことから、国立健康・栄養研究所のサイトでは、「アルミニウムとの関連を現時点で完全に否定することはできませんが、少なくともアルミニウム製の容器から溶出するアルミニウムや、日常生活で摂取する量での影響 (リスク) については、その量が明らかに少ないため、日常生活において過度に心配する必要はないと言えます」と書いている。

 EFSAは、もう少し明確に「パネルとしては、食事由来のアルミニウムが、アルツハイマー病のリスクになるとは考えない」としている。そして、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)が2007年に出した見解にも触れている。
 BfRは、食品や水、医薬品、化粧品などからアルミニウム摂取が増えることと、アルツハイマー病に因果関係はない、と結論づけている。アルツハイマー病患者の脳へのアルミニウム沈着は一般的に認められるが、透析患者やアルミニウム関係の作業者、つまりアルミニウムをもっと大量に摂取している人たちの間で、そのような現象が通常よりも多く見いだされているわけではない。つまり、「摂取が多い→脳への沈着」となっているわけではないのだ。アルミニウムがアルツハイマー病の原因ではなく、アルツハイマー病だから結果としてアルミが沈着している可能性がある、ということだろう。
 こうした内容も紹介して、EFSAは説明に努めている。

 調べる限り、公的機関でアルツハイマー病原因説を支持しているところはないように思う。たしかに、医学系論文のデータベースPubmedで、アルミニウム(aluminium)とアルツハイマー病(Alzheimer)という二つの言葉で検索をすると、最近もアルツハイマー病原因説を主張する論文が出ている。だが、アブストラクトを読む限り、サンプル数が少なかったり、私から見ても実験設計に問題があったり、で、有力な根拠となるとはとても思えない。

 日本アルミニウム協会などで組織された「アルミニウムと健康」連絡協議会も、ウェブサイトを運営している。詳しいパンフレットなども提供し、Q&Aなども充実している。アルミ関係者の言い分なんて、と思われるかもしれないが、アルツハイマー病原因説を流すマスメディアに抗議した顛末なども書かれていて、とても興味深い。

 結局のところ、科学はないものを「ない」と確認することはできない。「アルミニウムとアルツハイマー病には関連がない」と断言することはできないのが、科学の宿命だ。だからだろうか。アルツハイマー病と結びつけて語る言説が消えない。そして、新聞までもが「アルツハイマー病との関連を指摘する意見もある」と書いてしまう。

 この書き方、マスメディアはよくするけれど、問題がある。というより、あえて個人的な思いを書けば、「その書き方は、卑怯だ!」と叫びたい。
 「だって、指摘する人はいるもんね。それは、事実だもんね。語っていることが本当かどうかは、私たちは関知しないよ。私たちには責任ないもんね」と言っているに等しい記述のように感じられる。
 「アルツハイマー病との関連を指摘する意見は、今はごくわずか。公的機関はほぼ否定している」。これが、客観的な事実であろう。まどわされず、信頼のおける情報を確認してほしい。

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