科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

ゴールデン・ライス~開発者はかく語りき(上)

宗谷 敏

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 このところ、ビタミンA前駆体のベータカロチンを産生する遺伝子を導入した遺伝子組換え(GM)ゴールデン・ライスを巡る報道が再び増えている。それらについては(下)で触れるとして、まずは2013年10月16日にNew Scientist誌が掲載したゴールデン・ライス共同開発者であるドイツIngo Potrykus教授へのインタビュー「Golden Rice creator wants to live to see it save lives」から読んでみたい。

Q:なぜゴールデン・ライスを開発したのですか?
A:食料安全保障について心配していたので、私は開発に係わりました。食料安全保障がカロリーだけではなく、食品の品質でもあることに気がついた私は、Peter Beyerと一緒に1990年代初期にそれに取り組み始めました。私たちは鉄分欠乏の問題から始めましたが、その研究はうまく行きませんでした。そこでビタミンA欠乏に取り組みを切り換えたのです。
1999年までに私たちはこの問題を解決していました。 最初からまったくばかげたことに思えたので、それがうまくいったことは驚きでした。

Q:しかし、Greenpeaceを含む環境保護団体が反対しましたね?
A:彼らは最初からそれに反対でした。子供たちが毎日の必要量を得るためには数キログラムも必要だから、見かけ倒しの金だと言いました。子供たちが1日に300から400グラムを食べるだけです。 Greenpeaceが正しくなく、このコメは子供たちの必要量を十分満たしていたと私たちは計算しました。しかし、実際の試験データを持っていなかったので、それを証明することができませんでした。

Q:それでもこのプロジェクトは葬り去られませんでしたね?
A:その通りです。次の大きなステップは、2005年にバイテク企業Syngenta のグループがベータカロチンを産出するための遺伝子の1つを取り換えたときでした。phytoene synthase と呼ばれる酵素を作るオリジナルの遺伝子はスイセンの花からでしたが、彼らはそれをずっと効率的なトウモロコシからのものに置き換えました。それは20倍も多くのベータカロチンを生産しました。これは大きな成功でした。
しかしながら、私たちはまたもや子供たちの必要量を十分満たすことを証明できませんでした。したがって、ゴールデン・ライスが役に立たないというGreenpeace神話は生き続けたのです。彼らは、他の手段によって問題は解決可能であると言い続けました。

Q:それには一理ありませんか? 子供たちにビタミンAカプセル、または他の食物を与えることはできないのでしょうか?
A:カプセルは、すでに15年にわたりWHO(世界保健機構)Hellen Keller Internationalのような慈善団体のプログラムを通じて、子供たちに与えられています。しかし、それには年間何千万ドルもの費用がかかりました。経費以外に問題なのは、カプセルを分配するためのインフラストラクチャーが必要なことです。私たちは、この方法には手が届かない人々、遠隔地の貧しい農民を目標にしています。
ビタミンAを供給するレバー、緑黄色野菜と卵のような食物を食する可能性は、私たちがターゲットにしている人々は、それらを買うのにあまりにも貧し過ぎます。多少の家庭菜園プロジェクトがそれらを供給しますが、これらの介在にもかかわらず毎日6,000人の子供たちが依然として死に瀕しています。これらは十分ではありません。私たちの目的は補完であり、これらのプログラムに取って代わるべきものではありません。

Q:ベータカロチン含有量を高めた在来育種によるサツマイモを供給して、ビタミンA欠乏と戦うプロジェクトがウガンダとモザンビークにあります。2年以上にわたり、それが従来のサツマイモに比べて女性たちと子供たちのビタミンA摂取量を2倍にしました。これは、コメでもできますか?
A:サツマイモは当然ベータカロチンを含みますから、伝統的な育種による改善が可能です。コメはベータカロチンを含みませんから、遺伝子工学を使わずにそれを導入することは不可能です。サツマイモプロジェクトが私たちとまったく同じ目的であっても、遺伝子組換えを伴わないから、Greenpeaceは文句をつけません。しかし、サツマイモにおける経験は、私たちがコメで達成しようとしていることが現実的であることを示しています。 人々がサツマイモを手に入れるやいなや、彼らはビタミンAステータスを向上させました。

Q:それで、プロジェクトは今どこまで来ていますか?
A:プロジェクトは、長い時間を要しましたが、在来育種によって(注:GMゴールデン・ライスと他の在来品種を掛け合わせたという意味)私たちは異なった国々における食味の趣向に合った品種の新しいゴールデン・ライスを育てました。これらは、アジアにおいてフィリピン、インドネシア、インド、中国、ベトナムや他の国で今や完了しています。

Q:それらは相変わらず金色なのですか、どんな味がしますか?
A:それらは美しい黄色をしており、通常と変わらない味がします。なぜなら、それは規則当局を納得させるために必要不可欠な部分ですから、プロのテイスターたちがそれらの食味をテストしました。

Q:去年、最終的にゴールデン・ライスが十分なビタミンAを提供することを示すために必要だった証明を、あなたたちは得たのではありませんか?
A:それは、中国の同僚と共にタフツ大学のグループによって行われた長期にわたる実験です。結果は素晴らしいものでした。基本的に、望むべく最良の結果が得られたのです。コメで食べられた毎食2.3グラムのベータカロチンが、理論上の最大限に近い血流中に1グラムのビタミンAを作り出したのです。これは子供たちが、血中ビタミンAの1グラムを作るために7から8グラム(のベータカロチン)を食べなければならなかったホウレンソウからの変換率より4倍も良いです。

Q:しかしながら研究者たちは、正しいプロトコルに従わなかったために困難に陥りましたね?
A:何が起こったのかを検討した後で、タフツは最近ステートメントを発表しました。研究者たちは、子供たちが遺伝子組換えされた食物を食べるという完全な情報を治験参加者に与えていなかったように思われます。そして、それがGreenpeaceによってすべてをめちゃくちゃにするために使われました。しかし、タフツ報告からの重要なメッセージは、手続き上の違反はさておき、治験による科学的データが強固で正当なものであり、たった1食分のコメが子供たちに推奨摂取量の60パーセントを提供するということです。

<10月30日掲載予定の(下)に続く>

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい