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GMOワールドⅡ|宗谷 敏

どんなコラム?
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
プロフィール
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

Monsanto社による気候調査企業の獲得を考える

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2013年11月25日

 昔は石を投げれば、だったが、最近では2クリックすればMonsanto社への悪口に当たる。2013年10月2日、そのお騒がせカンパニーは第4四半期の決算を公表すると共に、9億3000万ドル(付帯費用含め約11億ドルとも言われる)を投じて、気候調査企業である米国Climate Corporation社の買収に合意したと発表した。

 Climate Corporation社は、元Google社員や他のIT企業、ソフトウェアエンジニアとデータ科学者たちにより、2006年にサンフランシスコで設立された。ビッグデータ解析による気象予報の提供を目的とするが、農業関連についてもユニークな取り組みで知られる。

 それは、屋外イベント開催などに対する気象予報とそれが外れた場合の保険の販売からスタートして、その延長線上に位置する。天候異変などによる損害から農家を救済する目的の政府による農作物保険は、農家のインプット・コストを補償するが、被害を蒙った農作物の予測利益については面倒みてくれない。

 Climate Corporation社は、その逸失利益をカバーする保険を農家に提供するという革新的なビジネスモデルで農業に介入した。米国をグリッドで区分し、気象のビッグデータ分析から気温や雨量などを予測する。その区域が指定された雨量に達しなかったなら、干ばつ保険を購入した農家は、Climate Corporation社から測定に基づく支払いを受けられる。

 しかし、どうやらMonsanto社の大きな関心は、この具体的補償システムにはないらしい。買収後もClimate Corporation社は、自身による独自のビジネスモデルの展開を踏襲することが明らかにされている。

 Monsanto社のCEO(最高経営責任者)であるHugh Grant博士は、「Climate Corporation社は、データ科学を通して農場の新しい価値の扉を開けようとして」おり「より少ないリソースにより農家が生産することが可能であれば、皆が利益を得る」と述べた。

 農家の精度が高い農業を手助けするデータと分析ツールとしてClimate Corporation社を評価していることは窺えるものの、この高価なお買い物が自社のビジネスモデルにどのように具体的に結び付けられるのかが、現段階では明らかにされていない。

 しかし、Monsanto社のみならず農業バイテク各社は、種子販売のみに留まらず、農家囲い込みも狙って、きらびやかなネーミングを与えられた雑草・害虫などへの独自の統合的防除システムを構築しているのがトレンドである。

 そこにさらなる機能性を有する干ばつ耐性種子などが登場すれば、個別農家は環境条件を考慮しつつ、どういう種子を選択すべきか大いに迷うだろう。そこへの選択の指針を与え、情報を付加した種子販売モデルの進化型として、Climate Corporation社のビッグデータ解析を利用しようというのが、Monsanto社の戦略なのかもしれない。

 ついこの間まで、気候変動説就中地球温暖化は、「神話」だ、「サイエンス・フィクション」だという批判も多く、専門家の間でも論争の的だった。しかし、データがある程度出揃った現在、この現象を疑う者はいない。

 温帯地方に区分される極東の島国暮らしでも、亜熱帯化したような「千年猛暑」や「これまで経験したことのないような大雨」に見舞われれば、高邁な学術論に首を突っ込むまでもなく、「何かが起こっている」という実感を抱けるだろう。

 個人的には、故・高橋義孝横綱審議委員会委員長(1981年~90年、九州大学文学部教授)が残した「大相撲九州場所は、秋にはじまり冬におわる」は、季の移ろいを的確に捉えた名言だと毎年賛嘆してきたが、今年はどうやらそれもハッキリとしない。

 温暖化現象の環境影響については、国連傘下の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などにより熱心に論じられているが、気候が密接に絡む農業に対する影響に関しては、評価段階の域を出ていない。また、特定地域による断片的なポジショントークとならざるを得ず、例えば我が国などではデメリット説が有力のようだ。白井洋一氏のコラムも参照願いたい。

 面白いのは、Monsanto社自身が最初は地球温暖化に懐疑的だったフシがあること(Hugh Grant博士の発言)だろう。この企業のすごいところは、専門家や科学者を集めて徹底的にこの問題を分析し、結論としてClimate Corporation社の買収に踏み切ったことだ。ビッグデータ解析はゲノミクスなどでも使われるから、Monsanto社にとって馴染みがない分野ではないだろうが、買収金額から考えてもかなり大胆な投資である。

 一方、Climate Corporation社側には迷いもあったようだ。Google出身の創設者David Friedberg氏は、「世界で最も悪しき企業(という世論)」に身売りするのかという批判への対応に追われたらしい。このストーリーは10月4日のNew Yorker誌に詳しい。

 さて、めでたくMonsanto社の目論見が成功したとして、当面その恩恵に浴するのは北米の富裕な農家に留まる。日頃から同社が標榜する「飢えへの挑戦」をより直接的に具現するためには、アフリカなどへのインフラ構築を含めた技術転移は欠かせないハズだ。今後、中・長期にわたって注目していくべきポイントの一つだろう。

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