科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

高オレイン酸ダイズへの置換えを目指す米国~その時日本は?(上)

宗谷 敏

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 2014年4月2日のBiology Fortified Blogは、DuPont社の高オレイン酸ダイズ(油)「Plenish」に関するQ&Aを掲載した。質問者はアイオワ州立大学で遺伝学の博士号を取得しているBiology Fortified社編集委員。回答者はDuPont社の健康油チームリーダーであるSusan Knowlton博士。かなり長文なので、抜粋を(上)で紹介し、米国ダイズ業界の高オレイン酸ダイズ(油)志向の背景や影響について(下)で考察する。

Q1.この油は一般消費者が入手可能ですか?もしそうなら消費者はそれを見分けられますか?

A.「Plenish」高オレイン酸ダイズ油は、最初に業務用の流通経路によりフードサービス業と食品メーカーに提供されるでしょう。したがって消費者は、(それが広報されたり表示されたりするなら)レストランや食料品店の加工食品でこの油を経験するかもしれません。

 しかし、小売りのボトル詰め油が市場にあるかという意味でしたら、私たちは数社と検討中ですが、今のところ市販されてはいません。食品産業ショーで瓶詰めのサンプルを配布していますので、そちらをどうぞ。

Q2.この油は、最近人気が高いヤシ油(coconut oil)と比べてどうですか?

A.脂肪酸組成と用途について考えた場合、ヤシ油と「Plenish」高オレイン酸ダイズ油は、ほとんど正反対です。ヤシ油が中鎖(炭素14)飽和脂肪酸のラウリン酸に富むのに対し、「Plenish」高オレイン酸ダイズ油は長鎖(炭素18)不飽和脂肪酸のオレイン酸を高めました。

 室温でヤシ油は固体ですが、「 Plenish」 は液体です。ヤシ油にはそれ自体に風味があり、食品の味に影響を与えます。Plenish は中立で、食品本来の味を損なわないことが評価されます。

 ヤシ油は輸入されますが、 Plenish は国内産原料です。さらに、ダイズとココナッツとの油の供給・利用安定性に関する規模は劇的に異なります。2012年の米国の消費量は、ヤシ油がたった40万トンだったのに対し、ダイズ油は810万トンです。ヤシ油は、大きな食品企業が必要とする供給信頼性と量的ニーズを保証できません(宗谷注:ヤシ油- coconut oilと同じ熱帯産油脂で、最近では消費を約100万トンにまで伸ばしているパーム油-palm oilには触れず、ヤシ油だけにQ&Aを絞ったのは質問者の単純ミスか、作為的なものかは不明)。

 但し、多価不飽和脂肪が低く、変敗を起こす酸化反応を安定させるという意味からだけなら、2つの油は本質的に似ています。

Q3.ダイズ油由来のオレイン酸の消費増がガン予防に効果的だという科学的コンセンサスはどれくらい強力ですか?

A.オレイン酸消費と心疾患の間には良く知られている相関関係がありますが、オレイン酸とガン予防効果についての結論は、まだ出ていないと私は考えます(宗谷注:いろいろな文献を示して詳しく説明されているので、興味のある方は原文を参照して下さい)。

Q4.私の住むインディアナ州は、これらの新しいダイズでリーダーになることを望んでいます。昨年、「Plenish」ダイズを300エーカー以上栽培した農家に対してブッシェル当たり50セントのプレミアムがあり、これはかなり魅力的です。しかし、このプレミアムは遠隔地の(指定された)穀物エレベーターまで運ばなければならないトラックの輸送費で多少相殺されます。興味深い展開があります:ポップコーンメーカーが、彼らのポップコーン農家にダイズ栽培を併せて契約することを考え始めています。メーカーは、自社製品に好みの味を出せるように、使用する油を自社で製油処理することに関心があります。

A.ありがとうございます。私たちの現在のゴールは2014年にインディアナ州の「Plenish」ダイズ栽培面積を2倍にすることです。そして、私たちの製油処理パートナーが、新しく10カ所の(農家が「Plenish」ダイズを持ち込む)納入場所を増やしました。これらは、将来も増え続けるでしょう。契約製油処理業者のリストが「Plenish ウェブサイト」にあります。

Q5.油は改善された品質を得るために特別に加工される必要がありますか、あるいはすべての油が(もともと)改善されていますか? 油にDNAあるいはタンパク質(ダイズあるいは遺伝子組換え)があるのでしょうか?

A.「Plenish」 高オレイン酸ダイズ油は、従来のダイズ油と同じ方法で生産されます。油がどのように抽出され、製油処理されるかには影響を受けず、脂肪酸組成だけが変更されています(宗谷注:以下、ダイズ搾油・精製工程について追加工程の水素添加、分別、エステル交換まで含めて詳細に説明されているが略、基礎知識は日本植物油協会のホームページを参照)。

 油のDNAとタンパク質の存在に関するあなたの質問についてですが、ほとんどの科学者による一般的なコンセンサスは、これらの物質を分解するか除去するであろう産業による厳しい処理の結果として、高度に精製された油はDNAとタンパク質を欠いていると信じます。しかしながら、高度精製油以外のエキスペラー圧搾抽出油あるいは(搾油した直後の)原油(粗油)などは微量のDNAかタンパク質を含むかもしれません。

 同じく非ダイズのDNAあるいはタンパク質に関するあなたの質問ですが、私たちは規制上の責任から「Plenish」 高オレイン酸ダイズについて徹底的なテストを行いました。その結果、発現している唯一の新しいタンパク質はスルホニル尿素除草剤耐性を授けるために組換えしたダイズアセト乳酸合成酵素だけです。このタンパク質の安全性評価は既に論文があり、高オレイン酸形質とスルホニル尿素選択形質は、共にダイズDNAが望ましい結果を達成するために使われました。

Q6.このダイズ油は非バイテクの高オレイン酸ダイズと、Monsanto社の「Vistive Gold」とはどのように比較されますか?

A.「Vistive Gold」ダイズと「Plenish」ダイズの組成は類似ですが、同一ではありません。

 「Plenish」高オレイン酸ダイズが、心臓の健康に良い一価不飽和脂肪のオレイン酸が少し高いのに対し、「Vistive Gold」ダイズは飽和脂肪酸であるパルミチンとステアリン脂肪酸が少し低い。両方とも、従来のダイズより飽和脂肪酸がより低いです。

 実際に組成は類似しており、産業がサプライチェーンでそれらを分けるか、搾油工場で混ぜるべきかが討議されるほどです。これは未解決の問題であり、数年以内に加工業者によっては異なった戦略が選択されるかもしれません。

 両方の製品がバイオテクノロジーを使って生産され、両方ともフルスケールの商業化に向けて、世界的な規制上のフレームワークを通すよう働いています。「Plenish 」はEU以外すべての主要市場への認可を持ちます。

 非バイテクの高オレイン酸ダイズについては、このアプローチが実行可能な商業製品を作り出せるかどうかはまだ不明確です。

 従来の物流から独立した状態に保たれる製品(identity preservation-分別生産流通と呼ばれる)が、市場で成功するためにはいくつかの基準を満たす必要があります。先ず収量が減らないこと、次に油分とタンパク分のレベルが従来のダイズと同じであること、最後に、必要な農業保護のすべてが成熟群の様々な品種に組み込まれた状態で形質が農家に供給されなくてはなりません。これらの必要条件のいずれかを欠くなら、生産経済学的に機能しないでしょう。

 このことは一般に考えられるよりもはるかに困難なのです!しかしながら、もし高オレイン酸形質が非バイテクのアプローチで供給できるなら、non-GMOを好む消費者のために健康的な油を供給する別の1つの方法として企業はそれを歓迎するでしょう。

 それは、除草剤耐性や害虫抵抗性のような他のバイテク形質を加えられて全体的な「バイテク」品種となるかもしれません。なぜなら食品企業が製品生産のために必要とする油は莫大な量であり、現在のところnon-GMOダイズが全く供給できていないためです。

Q7.「Plenish」ダイズのDNAへの遺伝子組換えに関する情報を教えて頂けますか?何が一価不飽和脂肪分の変化を導きますか?

A.「Plenish」 高オレイン酸ダイズは、油脂の生合成経路で重要な酵素:オメガ6デサチュラーゼを抑制することによって、生産されました。 この酵素は、通常オレイン酸をリノール酸に変換します。この酵素の発現を抑制することによって経路が「遮断」され、続いて起こる筈の2つの多価不飽和脂肪酸であるリノール酸とリノレン酸の生産が極めて低いレベルに押さえられる間に、オレイン酸が蓄積します。

 それは非常に単純なステップであり、内生酵素の抑制に依存しますから、新しいタンパク質を加える必要がありません。オメガ6デサチュラーゼ酵素の抑制は、植物の栄養組織にも影響しません。

  普通のダイズ油がおよそ22%のオレイン酸とおよそ55%のリノール酸を含むのに対し、「Plenish」ダイズ油にはおよそ76%のオレイン酸とおよそ6%のリノール酸が含まれます。

Q8.イタリアのある企業が、コーンスターチと高オレイン酸ヒマワリ油を使って堆肥にできる(つまり生分解性可能な)プラスチックフィルムを作っています。私は彼らにMonsantoの高オレイン酸ダイズ油のサンプルを送ってみました。それを分析した彼らは、使えそうだと言いました。しかし、彼らは少なくとも80%のオレイン酸を必要とします。Dupontは「Plenish」でこれを達成できますか?もし食品利用と互換性があるなら、高オレイン酸油は他のバイオ製品へも応用ができます。

A.(宗谷注:ここは食品以外のトピックなので、訳はかなり省略しています)オレイン酸の持つ酸化安定性と相対的な純粋性から工業的利用への可能性は高く、機能性と経済面でも優位にあります。少し例を挙げれば、潤滑油(トラクター、エレベーター、自動車などすべて)、タイヤ生産、接着剤と発泡体(スポンジなど)などへの応用が予想されます。

 「Plenish」 はおよそ76%オレイン酸であり、この点から石油ベースの製品をバイオベース、特に植物油ベースに代替することを望む分野での有力な競合者です。あなたが言及した高オレイン酸ヒマワリ油は80%以上でありその見地からは素晴らしい油ですが、残念ながらあまりにも高価です。従い、高オレイン酸ダイズ油には十分な価格競争力があります。

 そして、「Plenish」 は商業化開発されているダイズの中では最も高いオレイン酸を含有しています。専門的な見地から、「Plenish」油以外にも、いくつかの特定の方法でダイズのオレイン酸をさらに増やすことができます。 先ず、さらにバイオテクノロジーを使って、もっと高い オレイン酸含有さえも達成可能です。私たちは飽和脂肪酸レベルを減少させることにより、オレイン酸90%のダイズ油を実験的に生産しました。この分野の他社も類似の結果を発表しています。これらのダイズは実行可能ですが、開発と規制クリヤーに多額のコストがかかり、企業がそれらの投資を回収するために十分な収益があると信じる必要があります。

 もう1つのオレイン酸を増やす方法が、グリセロール骨格から脂肪酸を分離して、結果として生じるオレイン酸ストリームを純化することです。これは商業化にされており、より高いオレイン酸ストリームが好まれるとき、多くの企業がこのルートを追求しています。

(Q&Aの抜粋終わり、4月8日掲載の(下)に続く)

参考資料:食品安全委員会による「高オレイン酸含有大豆DP-305423-1」評価書

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい